一見華やかな宇宙旅行に隠された、凄まじいまでの労力の記録。死体や霊魂、セックスなど、ちょっと変わったテーマでの突撃取材を得意とするメアリー・ローチの新作は意外なことに宇宙開発だった。
宇宙開発関連というと、どうしても技術開発などのテクノロジー関連の話が中心になりがち。でも、ローチの関心はロケットや
...続きを読む人工衛星にはなかったみたいで、宇宙に飛び出す人間に向けられてる。宇宙飛行士に向いている特性とは?宇宙空間での入浴って?トイレはどうなってるの?宇宙空間で船酔いしたらどうなる?無重力に長時間晒されると人の体はどうなるんだろう?そんな疑問をNASAやJAXA(!)にぶつけて、お得意の突撃取材を敢行。
その結果、見えてくるのはヒトを宇宙に出すということの想像を絶する大変さ。そして、そこに至る大変な苦労。例えば、被験者が数ヶ月寝たままになることで人体に起こる影響を調べる実験や、数ヶ月、密室に数人の人間を閉じ込める実験、カロリーを凝縮した宇宙食を食べさせ続けての影響を見る実験などなど。数多くの研究者(と被験者)の地道な研究の積み上げで、宇宙にヒトが飛び出していけてるんだ、という事実を描き出すことに成功している。
取材はかなり大変だったようで、NASAからもかなり嫌な顔をされたっぽい。でも、これはNASAはもっとアピールしてもいいんじゃないかな。この本を読むと無重力という未知の領域にヒトを送り込むにあたり、NASAは相当慎重に実験と検証を繰り返した様子が見て取れる。何度かの不幸な事故はあったけれど、多くの飛行士が宇宙へ行き、無事に地球に帰還できたのは、その地道な努力のおかげなのだ。確かに「下」の話や下世話なものも含まれてはいるが、それも含め、誇るべきことだと私は思う。
ローチ本は4冊目のNHK出版ということで、ジョークが散りばめられた軽いノリの文章を上手く訳してくれてる。原注がなかなか笑える内容が多く、見開き左に固めた本の構成も素晴らしい。が、参考文献が無いのは残念(原書にも無いのかもしれないけど)。
宇宙開発に興味のある人なら是非読んでみるべき一冊。トリビア的に笑える部分も多いけど、実は大いに考えさせられる、いい本です。