様々なSF映画を題材にして、ロボットと人間や社会との関わりを考察している科学新書。大して分量もないので読みやすい。
著者は、いきなりプロローグで「人間とロボットのあいだに明確な境界はない」と言い切ってしまう。生き物を勉強してきた自分にとっても、「人間が核酸とタンパク質のロボットである」と言うことに
...続きを読む抵抗はない。それならば「ロボットが金属の人間だ」と言ってしまうことも、十分うなずける考えである。
もちろん人間とロボットは違うモノだと考える人もいると思う。そこで特に言われるのは、感情の欠落だろう。しかしむしろ著者は「アンドロイドだから、いくらでも表情を豊かにすることができる」と述べている。あらかじめ様々な表情と身振りができるようにして、さらに言葉も表現力豊かなものをアーカイブしておけば、表現することに関して人間が敵うはずがない、という訳である。これは全くその通りで、人間であれば「あの時こう伝えられたら良かったのに」という場面は、ロボットから無くすことができるはずである。逆にその不完全さにこそ人間性があるのだと言われたならば、ある程度ロボットの機能を落とせばいい話なのだし。
それは不可能だ、と思われるかもしれないが、実際それは現実になってきているように思う。例えば質問をすると答えてくれるSiriは、データベースから言葉を紡ぐことができるという証明である。それに、自分はあまり知らないのだけれど、仮想の彼女を作るという某携帯ゲームにハマって、ゲーム機片手に一人でデート旅行するような人もいたらしい(今もいる?)。これなんかはまさに、人間が錯覚してしまうほどに、造られた感情が本物の感情に近付いてきている現れではないだろうか。
しかし、だからこそ著者は「人間は何をやるべきか」「人間とは何か」と何度も問うている。冒頭で「人間とロボットのあいだに明確な境界はない」と宣言した人物が、実は最も人間とロボットが違う存在なのだと信じたい人間なのかもしれない。