スピノザの生涯と思想をていねいに解説している入門書です。
すでに「講談社現代新書」では、スピノザの入門書として上野修『スピノザの世界―神あるいは自然』と國分功一郎『はじめてのスピノザ―自由へのエチカ』が刊行されています。著者もこのことに触れつつ、「スピノザの思想だけでなく、彼の生涯と生きた時代につ
...続きを読むいて、かなり立ち入って解説していること」と、「他の二冊が『エチカ』で展開された哲学・倫理思想を中心に取り上げているのに対し、本書はそれに負けないくらい、『神学・政治論』『政治論』で展開された宗教・政治思想にも目配りを試みていること」を特色としてあげています。
著者は、『エチカ』がスピノザの「表の主著」であるのに対して、『神学・政治論集』は「裏の主著」にあたるといいます。そして、『神学・政治論集』においてスピノザがホッブズの社会契約説の枠組みを踏まえながらも、「自然権」についてまったく異なる考えを提出していることを解説します。つづいて『エチカ』の解説では、一人ひとりの人間の「現に働いている本質」であるコナトゥスという中核的な概念が、『神学・政治論集』の自然権の思想に通じる発想にもとづいていることを明らかにし、「表の主著」と「裏の主著」とをつなぐ発想に目が向けられています。
スピノザの生涯にまつわる、ややマニアックな研究の成果も紹介されており、分量的にも新書としてはややヴォリュームのある本です。とはいうものの、賛否はあるでしょうが著者の軽妙な語り口のためもあって、たいへん読みやすく書かれているように感じられました。