本書の英題がカバーに入っています。Chinese ghost stories 。こう書けば、ある程度の年代と、香港映画好きな方とには、あるイメージができあがるものと想像します。レスリー・チャンとジョイ・ウォンが主演した映画のタイトル(但し単数形)だからです。
それもその筈で、本書には収録されていま
...続きを読むせんが、映画の原作というか、元ネタといった方がいいと思いますが、それも、本書に収録される中国怪談小説のなかの一つだからです。清朝の小説集『聊斎志異』に収録される「聶小倩」が、それです。
本書に収められる短篇小説も、概ね、この映画の世界と共通します。中には、男の幽霊が登場する作品や、狐が化かすという話、たくさんの幽霊が登場する話なども読むことができます。でも、圧倒的に多数を占めるのは、女性の幽霊が登場する話。不遇な目にあって亡くなった女性が、恨みをはらすというのが、スタンダードなストーリーです。一途な女性というのも、共通点か。それに対して、自堕落な、だらしない男性が報いを受けるという類型。
もう一つ、注意して読んでいればよく分かるのは、日本の怪談話との相違だと思います。日本の怪談にも、「牡丹燈籠」に代表されるように、翻案された話や、あるいは影響を受けた話もあるので、一概に区別することはできませんが、中国の幽霊は、もちろん、足もありますし、見た目、この世の人と変わりがない、というのが普通です。一緒に飲み食いしたり、何したり、して、別れたあとに、実は、あれは、この世のものではなかったのですよ、さあ、罰をお受けなさい、とか、急死して閻魔さんの前に連れられるとか、そういった展開が一般的です。
その分、怖さがあると思います。静かに恐怖が湧いてくる感じですね。ここに収められているのは、そんな中国小説、中国怪談の、ほんの一部ですから、この本をきっかけに、その世界に踏み込んでみる、というのも、よいかと思います。