パーヴァイアンス氏は、ニューヨークの名門ジャズクラブ「ヴィレ
ッジ・ヴァンガード」を拠点に45年間活動を続けている16人編成の
ビッグバンド「ヴァンガード・ジャズ・オーケストラ(VJO)」の
リーダーで、グラミー賞受賞者です。一昨年に、20年ぶりの来日公
演が話題になったので、ご存知の方も多いかもし
...続きを読むれません。
本書は、著者がミュージシャンとして身を立ててきた過程で得た教
訓を語る、いわゆる自己啓発本です。しかし、他の自己啓発本にあ
りがちな「目標を描き、その実現目指し脇目もふらず努力する」的
な、成功のためのマニュアル本とは一線を画す内容となっています。
そもそも「人生は設計したとおりに進んでいくものではない」とい
うのが著者の信念です。むしろ「偶然に出会ったものが、いつのま
にか人生を充実させる仕事になっているケース」のほうが多い。実
際、著者は、たまたまトロンボーンと出会い、当初の人生の目標と
は違うミュージシャンを志すようになり、そして、VJOと出会って、
いつしかそのリーダーになっていたのです。
そうやって偶然の出会いを自らのチャンスに変えてきた著者が何よ
りも大切にしてきたのが、「自らリスクをとって新しいことにチャ
レンジすること」でした。「人間は成長し続けられる動物」であり、
「成長することは、自分の可能性が広がること」と信じる著者は、
自分の可能性が広がれば、それだけ多くの人の役に立つことができ
るし、何より人生が楽しくなると言います。世界は可能性に満ちて
いるのだから、「せっかくの、どうなるかわからないこの人生を、
積極的に楽しもうじゃないか」。そう著者は静かに呼びかけます。
印象的だったのは、「居心地の良い場所=コンフォートゾーン」と
いう言葉でした。人間誰しも居心地の良い場所をつくることを目指
して生きていくのかもしれませんが、居心地の良い場所に居続けて
は、何も起こらないし、自分自身の成長が止まる。「『居心地の悪
い場所』が『居心地の良い場所』になったら、それは、また次に一
歩踏み出すことを考え始める時期」なのです。ちなみに、本書のタ
イトル『前に進む力』は、この「コンフォートゾーンから一歩踏み
出す」(Step out of your comfort zone)の訳語です。
大人になると、失敗したり、格好悪い自分をさらしたりすることが
しにくくなりますが、それを恐れては、人間は成長をやめてしまい
ます。著者自身、アルコール中毒に苦しむなど、失敗をしてきたこ
とを告白していますが、人間は完璧でなく、必ず失敗をする存在な
のです。だから、失敗を恐れるよりも、失敗を恐れて成長しなくな
ることを恐れるべきなのでしょう。そうやって、失敗を恐れずに挑
戦を続けていれば、思わぬ人生の試練にも、立ち向かっていくこと
ができるようになるはずです。
本書は、若い方には勿論ですが、むしろ自分が生きてきた世界で、
それなりの地位や権力を得てきた大人にこそ読んで頂きたい一冊で
す。自分はコンフォートゾーンにしがみつこうとしていないか。前
に進む勇気を失っていないか。今も成長を続けているだろうか…。
文句なしにおすすめの一冊ですので、是非、読んでみてください。
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▽ 心に残った文章達(本書からの引用文)
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すべての仕事が、始めたときは居心地の悪い、新しいチャレンジだ
った。ふらふらしながら、おぼつかない足取りで始まり、しばらく
経つと意識せずにこなせるようになり、いつしかコンフォートゾー
ンになっている。そうすると、別の新しいことに一歩踏み出してみ
る―。
それを繰り返している間に、できることが多岐にわたるようになっ
た。
一歩踏み出さなくちゃ、人生は面白くならない。いつまでも居心地
の良いところにいたって、何ひとつ新しいことは起こらないから。
それに、不思議なことだが、リスクを取って挑戦すると、周囲に味
方になってくれる人が出てくる。
「自尊心」を持っている状態というのは、言いかえると、自分の失
敗を許すことができ、自分が完璧である必要はないと思える状態だ。
よちよち歩きを恥ずかしがる必要はない。教えてくれる人を探して、
コーチしてもらうのもいいだろう。
ただ、前進することが重要なのだ。
最悪の時期がずっと続くことはない。試練は、その後の人生で必要
となることを学ぶためのトレーニングだ。
必要なことを習得できたら、人生最悪の時期も終わっていくだろう。
自分のことを必要として、待っていてくれている人がいるという事
実は、私に自尊心を取り戻すきっかけを与えてくれた。
自尊心というのは、急に手に入るものではない。一日一日、一歩一
歩、歩みを進めていると、いつしか自分の元にいてくれる時間が長
くなるものだ。
Principles before personality.
(自分のエゴよりも信条を優先させなさい)
Progress not perfection
(完璧じゃなくてもいいから、前進しよう)
人間は、自分の目の前で起きることや、人生で起こることをすべて
コントロールできるように考えてしまいがちだ。しかし、自然災害
のように、自分ではコントロールできないことが人生には存在する。
そんなときは無理して、すべてを一気に解決しようとしないことだ。
今日、自分ができることだけ集中して、それを今日やれたのであれ
ば良しとする。そして、また明日もできることに集中して、一歩一
歩解決していけばいい。
共感してやってもらった仕事には、お金には換えられない感情が残
る。組織の活動に共感してくれていれば、「お金がもらえなくても
やりたい!」と言ってくれる人が集まってくる。
音楽以外でも、チームプレイが必要とされる組織では「聴く」能力
が求められる。特殊な能力(=自分だけができること)が大事なの
ではない。周囲の状況を理解したうえで、自分が何をなすべきなの
か、全体を良くするために自分ができることが何なのかを考えて、
動けることが大事なのだ。
正直、自分がすべてをコントロールするよりも、みんなの力を借り
たほうがうまくいくことが多い。
世界はすばらしい場所だ。でも、もちろん食べていくためには、歩
み寄ってうまくやっていく必要がある。自分が心からやるべきだと
思うことがある。しかし、その仕事ではあまり儲からない。だった
ら、生活のために別の仕事もすればいい。
人生において大切なこと――それは「こうあるべき主義」に陥らな
いこと、完璧を求めすぎないこと、潔癖に考えすぎないことだ。
なぜこんな当たり前な「人としてのマナー」を話しているかという
と、それには、二つの理由がある。
ひとつは、チャンスは人が運んできてくれるものだから。
そしてもうひとつは、人付き合いがうまくいかず孤独だったら、仕
事で成功しても人生が幸福だとはいえないからだ。
人生は設計できないが、人としてのマナーを守り、目の前のことに
真摯に取り組んでいれば、悪いほうには流されていかない。目の前
のチャンスをつかんで一個一個クリアしていけば、いつしかより良
い場所に到達していける。
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●[2]編集後記
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息子が生まれて三ヶ月。日々凄い勢いで成長していますが、この三
ヶ月で変わったのは、むしろ五歳の娘のほうでした。
一番変わったのは、物怖じしなくなったことです。以前は知らない
子達とはなかなか遊べなかったのですが、最近は、初対面でも自分
から遊びの輪にどんどん入っていくことができるようになりました。
昨日もそういう機会があったので、娘が遊びの輪に加わっていく様
子を見ていたのですが、まずは少し離れて、場の空気やルールを読
みます。そして、タイミングを見計らって輪の中に入れたら、今度
は、自分ができることや持っているものを積極的に差し出して場を
変えていくのです。昨日は、あやとりの紐や折り紙を持っていたの
で、それを差し出して、皆でシェアして遊んでいました。まずは自
ら与えることによって、仲間に加えてもらうと共に、居心地のよい
場所をつくるということを体得しているのです。感心しました。
そうやって、自ら与えることができるようになったことと、自分よ
りか弱い存在である弟の面倒を見るようになったこととは、無縁で
はないように思います。ケアされる一方だった自分が、ケアする側
にまわることで、自信や自尊心が育ったのでしょう。だから、以前
よりも寛大になって、自分のものを平気で人に与えることができる
ようになった。そして、そうやって自分から開いていけば、初対面
の人達でも受け入れてくれるということを知ったことで、未知の世
界を前にしても、恐れることが少なくなったのでしょう。
…と、娘の成長に目を細めている場合ではないですね。こちらもも
っと成長しないと、すぐに娘に抜かれてしまいそうです…。