読売新聞社が2010~11年に連載・掲載した、中国関連の特集記事をベースに再構成したもの。
世界人口の約5分の1を占める巨大国家・中国が、そのGDPが2010年に日本を抜いて世界第2位となり、更に高度成長を続けるということは、何を意味するのか。地球の資源、エネルギー、食糧、環境、安全保障はどうなるの
...続きを読むか。本書では、予想を上回るスピードで存在感を増した中国と、その世界への影響を様々な角度から分析している。
◆海洋強国を目指す中国は、1990年代に海洋の防衛線を外側に変更。南シナ海では、ほぼ全域の領有権を主張し、実効支配強化の動きを一段と強めている。更に、「真珠の首飾り」戦略で、ミャンマーからパキスタンにかけての複数の港湾建設に関与し、インド洋への進出も図っている。陸においても、ネパール、ロシア、中央アジア諸国で警戒感や脅威論が高まっている。
◆資源確保のためにアフリカや危険国への投融資が加速しているほか、生活レベルの向上した都市中産階級の旺盛な消費意欲により、世界各地でワイン、肉、魚などの調達が大幅に増加。都市部を中心に自動車や家電の販売が大幅に増加している。一方、人民元相場の固定化により人民元が過小評価されていることが世界経済の不均衡要因ともなっている。約170の国と地域に住む約4,000万人の海外華人と本国の連携強化は、華人居住国の対中警戒感を刺激している。こうした急成長に、国内の環境への取り組みは追いつかず、海洋汚染や温室効果ガス増加などをもたらしている。
◆若者の海外志向は高まっており、日本の大学・高校での存在感も増している。中国資本の入った日本企業は300社以上、中国人の日本旅行客数や日本で使うお金の額は増加し、中国マネーへの依存度は高まっている。農業分野でも、農産物の輸出先、労働力双方で依存度は上昇している。一方で、中国共産党は、威信低下への危機感から、抗日歴史教育を強化している。
◆米国では、中国マネーを使った親中派づくりが政治・学術ほか様々な分野で進んでいる。雇用や所得に不安を抱える米国民にとって、巨大中国マネーに依存せざるを得ないものの、その影響力拡大への不安・反発も抱えており、そのジレンマは深い。陸・海・空に続く戦場とされる「宇宙」や「サイバー空間」では、米中が真っ向からぶつかる新たな攻防の舞台となりつつある。科学技術の世界では、米との連携などにより、研究開発力の底上げが進んでいるが、論文盗用や実験結果偽造などを引き起こす、短期的成果を求める社会や文化の変革が求められる。
◆豊かな生活を追い求めることに忙しい一般庶民の関心は、政治より自らの経済的利益にある。そうした風潮を背景に、当局も平然と政治改革の棚上げを決め込んでおり、天安門事件から20余年を経ても政治体制に大きな変化はない。恣意的な言論弾圧も頻繁に行われている。言語における漢化は進み、少数民族に留まらずに、広東語・上海語の地盤沈下も進んでいる。都市部と地方には異常な格差が存在する。
刊行後4年が経ち、経済発展のペースの鈍化、人民元相場の変動化などの変化は見られるものの、本書の示す内容の傾向に大きな変化はない。現代中国について考えるための網羅的な知識・情報を得るために有益な書。
(2011年5月了)