悔しいけどおもしろかった。いろいろ考えさせられた。
ざっと読み飛ばすつもりで読み始めたが、すぐに腰を据えて読みたくなった。前作同様ありきたりなビジネス書や自己啓発本の体裁だが(そもそもこの邦題はなんとかならなかったのか!)、実に癪に障ることに共感せざるを得ないことが多い。これも前作同様だ。引用文献
...続きを読むの一覧すら省かれているのは困ったところだが、この内容の本がこの値段で読めるありがたさで帳消し。
確かに軽症のうつ病は薬ではなかなかよくならない。操作的診断基準が広げたうつ病の裾野は従来医療が関わることがなかった重篤なうつ病患者を掬い上げることにはそれほど役に立たなかったが、大量の治らない「うつ病患者」を生み出してしまった。この人たちは「軽症」であるが故に、治療への反応が乏しい。運良く薬が効いてもやめればまたぶり返す。結局製薬会社を潤わせ、薬物依存症者をあふれさせてしまった、と批判されていることはご存知の通りである。日本では今も我が世の春が続く認知行動療法もまた楽園へのパスポートではない。これは治療に携わる者には自明のことである。
あらゆる困難や矛盾を解決してきた人類の歴史の最先端にいるはずのわれわれが、なぜそれほど心豊かに生きられないのか。著者は鬱にならない、病気にならない状態を求めるのではなく、積極的によりよく生きる具体的な方法を提案する。それはありきたりな「ポジティブシンキング」などではない。また認知行動療法のように症状に焦点が当てられたものでもない。きわめて目的本位なものだ。これは以前の著者の考えから最も理想的な方向への進化を遂げているように感じる。
後半は陸軍における著者の取り組みを中心に述べられる。アメリカは他国に次々と戦争を仕掛けている、というのは事実で、軍が兵士が常に能力を発揮できるように注力し、そのために常に先端的な学術研究の成果を導入することに積極的というのもそうした軍事活動を円滑に行いかつ社会保障の負荷を減らすという意味合いが大きいことは確かではある。しかし同時にアフガニスタンへの軍事介入が「最前線の兵士が携帯電話で自分の家族と連絡が取れる最初の戦争である」という視点は、当然ながら兵士一人一人を人間として扱わなければ出てこない。またベトナム戦争における一般市民の虐殺も、それによってPTSDを発症した「アメリカ市民の健康」という問題にしか関心が向けられていないと批判されるが、殺された側に関する事実に目をつぶっていては兵士の罪の意識という問題の根源には近づけないことは言うまでもないし、実際にそこで起こった事実を冷静に記録し、しかるべき機会に公開しているのである。
翻ってこちらの国ではどうだろう。徴兵制などという妄言を吐くものには次世代を担う若者へのむき出しの敵意があればまだいい方で、果たして若者を人間と見なしているかどうかも怪しい。過去の戦争犯罪は「なかったこと」にするのがもはやこの国では当たり前になってしまい、罪の意識など持てばそれこそ「国辱」扱いだ。
もちろんアメリカという国が他国に対して行っている犯罪は決して赦されるものではないし、戦争は人間が行う最も愚かな行為だと思う。でも、それにしても、こちらとあちらを比べると、こちら側がひどすぎるのだ。
まあとにかく、読んで損はないと思う。