≪2020年10月号≫月刊 書店員すず木

≪2020年10月号≫月刊 書店員すず木
この道10年のプロ書店員・すず木です!
前月に配信された新作マンガで実際に読んで面白かったものの中から<少年・青年マンガ><少女・女性マンガ>それぞれ1作品を勝手に「今月の書店員すず木賞」としてご紹介!

※セーフサーチを中またはOFFにすると、すべての作品が表示されます。

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今月の書店員すず木賞

少年・青年マンガ

      • ヨリシロトランク(1)

        ヨリシロトランク(1)

        構想10年ーー『なるたる』『ぼくらの』の鬼頭莫宏が描く絶望と希望、そして切実な「祈り」の新・異世界物語。 ある日、世界は「改変者」と自らを名乗る少女によって新ルールに書き換えられた。殺した人間を殺せば、殺された人間が蘇る因果応報の世の中に。娘を生き返らせたい父親、身重の婚約者を救うために死ぬ...

        殺した犯人を殺すと、殺された人が蘇る世界。不幸なようで幸せな摩訶不思議な物語。

        父一人子一人で、大切に育ててき娘を殺された父親。
        「犯人が捕まったとしても、娘はもう戻らない。」
        そう悲しみに暮れる男の前に改変者と名乗る少女が現れます。

        突然現れた少女は何故かロリっ娘で…。
        しかもテンション高めで、「え、ここで突然のギャグパート!?」と戸惑うくらい。
        状況にそぐわないハイテンションが不気味に感じます。
        改変者はいわゆる「この世界」を俯瞰で見るような存在なのだと思います。
        言い換えれば世界の異物と言えるかもしれません。
        それを表現するために、ハイテンションなロリっ娘というアンバランスな存在にしたのではないでしょうか。

        死んだ人間は戻らない。それが世界の法則です。
        ですが改変者が、死んだ娘が戻る法則に改変してしまうのです。

        罪を犯した人間を罰すれば、失われた人を取りもどすことができる。
        つまり、娘を殺めた人間を殺せば娘が生き返る。
        そういう世界に変わったのです。
        (ただし犯人が自殺や自然死してしまった場合は戻りません。)

        男は半信半疑ながらも犯人を捜し襲いかかります。
        殺されそうになった犯人が
        「犯人の心の闇とか生い立ちとか知りたくないですか?本を出版するから生きさせてください」と命乞いをするのですが、
        男は
        「それが何の役に立つんだ!?犯罪予防ができたり被害者が救われるのか!?」
        と冷めきった顔でとどめをさすのです…。
        そして、そこには生き返った娘の姿が…!!

        現代の犯罪と無関係な人の好奇心を皮肉った印象的なシーンです。

        しかし、ここでまた改変者から告げられるのです。
        「この法則は他者にも適用されます」

        つまり、この父親が誰かに殺されれば、娘を殺した犯人が生き返る。
        それを防ぐには、父親が自然死するか自殺するしかありません。
        娘を救った存在でありながらも、殺人者でもあるのです…。

        この事をキッカケに世界は大きく変化し、司法も改正され「蘇柱執行法」が制定されるのです。

        物語は、薬物中毒者に娘を殺された父親や、死刑反対派の家族、過去に殺人を犯した男など、様々な登場人物を中心にオムニバス形式で展開していきます。
        それぞれ状況や抱く思いが異なり、様々な視点を思い知らされます。

        この作品は、鬱マンガを描かせたら右に出るものがいない『なるたる』『ぼくらの』の鬼頭莫宏先生が原案を担当され、鬼頭イズムを継承したかのような繊細かつ丁寧(さらには萌えも!)な絵柄のカエデミノル先生が描いています。
        一見難解で重く思える物語を、先に述べた改変者や物語のテンポの良さでスルっと読ませる手腕はさすがのひと言に尽きます。

        私、この作品を読み終わった後、思わず小躍りしました。
        あまりに面白くて。
        私の大好きな鬼頭ワールドが読めて最高に嬉しいです。
        どの物語も、読んだあと心にズシンと残るものがあります。
        それはハッピーなのか、アンハッピーなのか…
        どちらとも言えない複雑な思いでした。

        読んだ後、みなさんの心に残る思いはどういったものでしょうか?
        是非その思いをじっくり味わってみてください。

少女・女性マンガ

      • 君の歌声にキスを 1

        君の歌声にキスを 1

        完結

        好きな男の子に告白したが声が変だとフラれて以来、声にコンプレックスを持っている華音。それが呪いとなり、華音は唯一の家族である有名ロッカーの父を亡くしてから他人とうまく関係を築けないでいた。そんなある日、ギタリストの一星に歌声を気に入られ、一緒に音楽をやらないかと誘われるが……!?

        自分の声にコンプレックスのあった少女が、バンドのボーカルとして花開く…!?

        主人公の華音は、今は亡き有名なロッカーの娘。
        その声は特徴的で、学生時代に好きだった男子から「声がかわいくない。低くて変」と言われたことがトラウマになり、人前で声を出すことを恐れるようになってしまったのです。
        そんな彼女の元に突然父の知り合いだという男性が現れます。
        その人は活動休止してしまったLusterという有名なバンドのギタリスト・一星だったのです!!

        一星は華音の歌声に魅了され、一緒にバンドをやらないかと誘うのですが、普段の生活の中でも人前で声を発することができない華音は戸惑います。
        自分を変えたい…でも怖い…。
        その思いに揺れる彼女に対し、一星は「君の声が好きだよ」と声をかけるのです。


        「声」は目に見えないですし、絵で表現するのはとても難しいモチーフだと思います。
        ですがこの作品の中で華音の声は様々な表現をされています。
        先に述べたような「低くて変」といった表現や、同級生から「風邪声?」と聞かれるシーンから、なんとなくしゃがれ気味の声なのかな?と想像しました。
        ですが、一星はそんな華音の声を「花火みたいに鮮烈」と表現します。
        更には華音が歌うシーンから、きっとハスキーでロックが似合う声なのでは!?と、想像が膨らみます。
        (私はバービーボーイズの杏子さんのような声をイメージしました…)


        バンドを描いたマンガは数多くあり、名作も多数あります。
        この作品はバンド活動を描きつつも、自分のコンプレックスをどう乗り越えていくかがメインになっています。
        バンドマンガとして楽しむもよし、コンプレックスを克服していく様を楽しむもよし、恋愛マンガとして楽しむもよし。
        様々な楽しみ方ができると思います。
        物語の展開も早く、1巻の終りには…!!

        華音はコンプレックスだった声を武器に自分を変えることができるのか?
        続巻が楽しみです。


        あなたの中で聞こえる華音の声はどんな声ですか?
        是非「声」を受け取ってみてください。

こちらもオススメ!!

惜しくも今月の書店員すず木賞からは漏れたものの、オススメの作品をご紹介!!

書店員すず木

2005年より電子書籍サイトの仕事に携わる、この道10年以上のプロ書店員。
年間に読むマンガの冊数は2000冊以上。
「面白いマンガを多くの人に読んで欲しい」をモットーに、オススメのマンガをご紹介します。

最近の書店員すず木:ようやくNintendo Switchを手に入れたので、遅ればせながらあつ森はじめました。仕事の時間以外は全てあつ森につぎ込んでいます…。

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