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古い洋館アパート、かなりや荘。そこには心に傷を抱えた人々が集まるという……。雪のクリスマスイブの夜、バイト先を辞めさせられたうえ、母親が失踪し、家を追い出された茜音は、不思議な偶然からかなりや荘に辿り着いた。絵を描くことが大好きだった茜音は、その才能を住人の一人の元漫画編集者に注目される。さらに彼女の部屋に、若くして亡くなった天才漫画家の幽霊・玲司が現れて……。優しく力強い、回復と救済の物語、シリーズ第一弾。新たに書下ろし番外編を加えて新登場。
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Posted by ブクログ
『元々、レベルの高いクリエイターには、「あちら」側とぎりぎりに生きている感性の持ち主が多い。高い空にひとり羽ばたき、喉から血を吐くような、限界の空で歌をうたう、そんな風にして生み出す作品だからこそ、後の世に残るレベルのものになる』 “天才と狂気は紙一重”と言われるように、歴史に足跡を残した人の伝記...続きを読むなどを読むと、ある種の”狂気性”が、彼らの人生につきまとっていたことがよく分かります。私はクラシック音楽が好きですが、歴史に名を残す彼らにも、例えば精神病院で死を迎えたシューマン然り、小石でもレンガでも数を数えないと気が済まなかったブルックナー然り、そしてアマデウスの映画に見られるモーツァルトの危うさにも、やはりある意味での”狂気性”を感じざるをえません。孤高の存在の彼らは対人関係にも悩み、数多くの敵を作ってもきました。常人には理解できない世界に生きる者には、知らず知らずの間に常人との間に線を引き、良い意味だけでなく、悪い意味でも近寄りがたい存在となる。そして、結果的に彼らを守ろうという人々の気持ちを無視するような感覚を周囲の人に与えてしまい、孤立感を深めていったのかも知れません。私たちが人間である以上、人と人とのコミュニケーションは何よりも大切です。では、天才性を持ちつつも、そういったコミュニケーションにも長けた人物がいたらどうでしょうか。『須賀茜音(すが あかね)という少女は、人間を好きなのだ。他者の喜怒哀楽に同調し、心を寄せずにはいられない』というように、”人を愛する”気持ちを持って臨めば、それは相手にも自然と伝わるものです。そして、それこそが『周囲に向ける愛は、そのまま彼女に返ってくる。彼女を守る光になる』というように自分が人を愛したことが、人から愛されることにも繋がっていく。天才性を持った人間に高いコミュニケーション力が備わるならば、そこに最強の人が誕生する可能性がある。 そう、この作品はあなたがそんな天才少女が生まれようとする瞬間を目にする物語です。 『さあて、これからどうしようかなあ』と呟くのは『脇に抱えた絵本にスケッチブック、それに肩から提げた、古い大きなボストンバッグ』が持ち物の全てという主人公・須賀茜音、19歳。『二〇一四年、十二月二十四日』のクリスマスイブにひとり佇む茜音は、ついさっきまでケーキ屋のアルバイトをしていました。『来年はクリスマスケーキは作らないからね』と年内で閉店してしまうケーキ店で働く茜音は、バイト後に家に急ぎます。母と二人暮らしの茜音。『もし今日払わなかったら、荷物を外に出して鍵を付け替えます』と家賃滞納に追い立てられていた母と娘。そんな『母、須賀ましろは作家だ』という母は『十代でデビューした、天才少女作家』であり『ベストセラーを何冊も書いた』という過去の栄光。『母の書く小説が大好きだった』、『なんでこんなに綺麗な、宝石のような言葉を、文章を書けるんだろう?魔法でこしらえたような小説が書けるんだろう?』と思っていた茜音。しかし、そんな母は『あまりに繊細すぎて、何かと滅入りやす』いこともあって『知名度も収入も減る一方だった』という現在。家に着き『粉雪の中で立ち尽くした』茜音。『明かりがついていない部屋』の前には『荷物が乱雑に積んである』という光景。『ああ、そうか…』と呟く茜音は『母さんは、逃げてしまったんだ』と考えます。『どうするのよ。母さん?わたしは今日からどこで眠ればいいの』と思うも、『投げ出された荷物の中から、大事なものだけなんとか探してよりわけ』、『スケッチブックと古い絵本を数冊探しだし』て胸に抱えアパートを離れます。『駅前に二十四時間開いているカフェがあったような気がする』と歩き出した茜音。『漫画の一気読み、いいなあ』と前向きな茜音は『漫画が好きだった。もしかしたら、この世にある何よりも』と漫画を読むこと、そして描くことが大好きでした。そんな茜音は公園で樅の木を目にします。『きみはひとりだけ、忘れられてるんだね』と『折れた木の枝』を拾い、『地面に線を引』きます。そしてそれは『小さな公園中に、流れるリボンとオーナメントが広がった』という光景へと変わっていきます。描き上がった地面の絵を眺めて『下手な絵だけど、ごめんね』と樅の木に笑いかける茜音。その時でした。『下手じゃないよ、すごい上手いよ』と『高くて澄んだ声が聞こえた』という展開。そして、その声の主と赴いた『かなりや荘』には、茜音の人生を大きく変えていくことになる人々が待っているのでした。 『天才少年、天才少女が主人公の物語を一度書いてみたいと思っていました』と語る村山早紀さん。この作品では『何らかの才能がある主人公が、最初はさみしく不遇な環境にあるのに、ある日、偉人に見いだされ、それをきっかけに本人の努力とまわりのバックアップによって、頂点に上り詰めていく』というある意味定石通りのサクセスストーリーが展開していきます。そして、村山さんの作品と言えば舞台となるのはお馴染みの『風早(かざはや)の街』。茜音が暮らすこの作品の舞台ももちろんこの街です。『昔からお化けや妖怪の伝説が妙に多いことでも有名』というその街の『かなりや荘』が舞台となるこの作品では、あらすじにもある通り『若くして亡くなった天才漫画家の幽霊』が現れるというファンタジー色に溢れた物語となっています。そんなこの作品の一番の魅力は『繊細さ』だと思いました。茜音の母・須賀ましろは天才作家と呼ばれながらも、その『繊細さ』から現実を見据えた生き方ができないでいます。そんな『繊細さ』はこの作品自体の雰囲気にも溢れていて、その表現がたまらない魅力となって伝わってきます。例えば母・須賀ましろの小説がどんなものであるかをこのように表現します。『何もない砂漠の夜に。風さえ吹かない、音のない真冬の砂漠で、ひとりきり星空を見上げているような、そんな純度の高い孤独と厳しさ、美しさが、そこにあった』というその小説の世界。『読み手に知識と想像力を要求する』ために極端に読み手を選ぶという『繊細な』世界の中にある小説。ちょっとしたことで台無しになってしまうその世界観をこんな風に表現する村山さん。また、そんな物語に添えられる内藤光の絵は『影絵のように青と紫の光を放つ夜の海と、金色の丸い月。海と月の放つ光に包まれて、舞うように駆けるように長い髪をなびかせて立つ、うさぎの化身の少女』とこれまた極めて美しい表現で表されます。絶品の描写の中に絶品の作品が美しく語られていく、そして登場人物の心の機微が見えるような物語がその中に優しく展開していく物語。そのあまりの美しさに、読んでいて感動のため息が自然と出るのを抑えられませんでした。 そんな物語の主人公・茜音。彼女のこれまでの人生は幼い頃親戚の家に預けられ、また母と一緒に暮らすようになっても貧しさの中に喘ぐものでした。しかし、『子どもの頃から、困ったときには必ず、誰かに助けられてきた』というその人生。『悲しいことが起きた後には、まるでその反動のように、倍もいいことが起きる』という人生の中で茜音は色々な人と出会い、その人を愛することで逆に愛される人生を送ってきました。そんな中で彼女の大きな転機となっていくのが、荷物を放り出されたアパートから大事に持って出たスケッチブックでした。『身の回りにあるものは、時間が経つにつれて変わってしまうの』と教えたくれた近所のおばあちゃん。『だから、茜音ちゃん。その目でいろんなものを見つめ、覚えていなさい。そうして絵に描くの。紙に写し取れば、記憶は消えない』という言葉を胸に、絵を描くようになった茜音。『それはいつか、あなたを幸せにする』というおばあちゃんの言葉を信じて絵を描き続けてきた茜音。人はサクセスストーリーを耳にすると『運がいい、奇跡じゃないか』と思いがちです。しかし、その運が良いとされた結果に行き着くまでにはその人が歩んできた道があったはずです。『ここに至るまでに、無数の選択肢があった』というその事実。そして『彼女は自分で、ここに至る道を、無意識のうちに選択して』きたというその事実。サクセスストーリーの裏には、その人が選択を繰り返してきた事実が必ずあるのだと思います。そして、そんな彼女のこれまでの人生の中で彼女の最大の力となったのが彼女の”人を愛する”という気持ちでした。『どれだけひとに好かれるか、このひとのために力を貸してあげたい、と思ってもらえるか』というその力。この作品を読んで、茜音という少女が持つ雰囲気、言葉、そして行動の一つひとつの中に満ち溢れる魅力を確かに感じました。『周囲に向ける愛は、そのまま彼女に返ってくる。彼女を守る光になる』という回り回って訪れる大きな力。彼女のサクセスストーリーへと繋がる物語は、だからこそ、嫌味など全くなく、ああ、良かったね、と読者が心から思えるものなのだと思いました。 『「かなりや荘」という名前には、歌声と癒やしがある』という『風早の街』のアパートを舞台に描かれるこの作品。その名前の響き、名前から受ける印象通りに、忙しい日常に疲れた人々がそのアパートでの穏やかな日々を暮らす中で次の新たなる旅立ちへの力を蓄えていきます。そして、そのアパートの中で人々の活力の源となったのは、人と人との出会いでした。全く縁のなかった者同士がお互いから刺激を受け、お互いに刺激を与え合っていく日々。その中で『いつか唄を思い出す』という『かなりや荘』に暮らす人々の物語。 乱暴に扱うと壊れてしまいそうな優しく繊細な表現に満ち溢れたこの作品。ああ、なんて美しく澄んだ世界観なんだろう、ふうっ、と、ため息の出る、そんな絶品でした。
何度読んでも、その度に心に響く。 クリスマスに、行くところを失くした茜音。 彼女がかなりや荘にたどり着いて本当によかった。 そこに暮らす人は、みんな心優しい。 幽霊でさえも。 玲司、茜音が見える人でよかったね。 友達思いのユリカはおっとこまえでいかしてるし。 番外編で、ましろと一整の話が読めて嬉しい...続きを読む 。 しかも、桜風堂! 素敵なプレゼントをもらった気分。
そうそう、そうだった。クリスマスイブの夜から始まる少女の物語。優しい心を持ち絵の才能があり、お話を創ることもできる彼女の成長が楽しみだった。 集英社オレンジ文庫から移り、もう一度読めるのが嬉しくて、物語の先をワクワクして待っているワタシがいる。
新装版が出たらしく、最近よく本屋で見かけるシリーズ。 この作者さんの「桜風堂ものがたり」が好きで、同じような優しさにあふれた作品だったら、いいなぁと思い、手に取ってみたが、あらすじを読んでみたら、幽霊が登場するとのことで、ちょっと後悔… ファンタジーは嫌いだから、幽霊とかの登場とかも絶対受け入れられ...続きを読むないだろうと読んでいたら、なんと、これがあっさり違和感なく、読めてしまった。 主人公の19歳の茜音はクリスマスの夜に、バイトから帰ると、母親が行方をくらまし、家賃を滞納していたアパートも追い出されてしまった。 寒さの中、バイト先の好意でいただいたサンタクロースのコスプレで街を彷徨う茜音は公園で迷子の少女と出会う。 その迷子の少女を住んでいるところまで送り届けたところで、茜音はかなりや荘の人々と出会う。 元女優だった大家さんが営むかなりや荘には、元敏腕編集者や戦場カメラマン、その戦場カメラマンが育てる少女、そして若くして亡くなった天才漫画家が住んでいた。 みんな、過去に傷を抱えつつも、一人になってしまった茜音を温かく迎える。 ここまでで、1作目が終了。この後、どうなっていくのか、すごく気になるシリーズ。 幽霊として登場する天才漫画家の玲司の存在にも違和感なく。そんなに数は読んでいないけど、この作家さんの作品はほんわかして、優しい気持ちにしてくれる。
旧版を持っているので、番外編目当てに。 とてもスペシャルな番外編が作者からのプレゼントのように感じました。 続編も楽しみ。
マッチ売りの少女を思い出させる様なスタートではあったけど、温かい人達の温かい言葉で埋め尽くされた一冊。 心が傷ついた時に読むと癒されるような気持ちになるだろう。 番外編に月原一整さんが出てきて、色々な物語を繋いでくれた感じ。お得!
誰もが大なり小なり悩みや傷があるものだけど、それらが少しずつ消えていくさまに寄り添っていくうちに、優しくあたたかい気持ちになる。これからも物語が発展していきそうで楽しみ。番外編では村山早紀さんの他の作品とつながった物語になっていて更に微笑ましくなった。
絵を描くことが大好きな少女と、その周りの、とてもやさしい人たち(と、幽霊)の話。 主人公の茜音は、色々と、かなり不幸な筈なのだけれど、人との縁にとても恵まれているおかげで、何とか幸せに生きています。 でも、それは、何かの加護があるからという訳ではなく、茜音のやさしさと笑顔が引き寄せるご縁。 そして...続きを読む、幸と不幸があっても、幸の方をより強く感じられる、心の持ちようではないかと。 どれだけ幸せが寄ってきてくれても、それまでの不幸に縛られていたら、幸せがまた離れていってしまうような気がします。 そんな茜音が、ふとしたご縁で住む事になった「かなりや荘」は、大家のマダムを始め、何かしら心に傷を負った人たちが暮らしています。 四号室に入居する事になった茜音は、この部屋で亡くなった天才漫画家や、他の住人に支えられ、漫画家を目指す、までが、「廃園の鳥たち」。 そして、集英社オレンジ文庫版に加えて、PHP文芸文庫版には、新たな番外編が! 『桜風堂ものがたり』を読んだ事のある人にとっては、とても嬉しいお話です。 この二つの物語が、これからも交錯してくれたらなぁ。
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