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娘時代に恋愛小説を読み耽った美しいエンマは、田舎医者シャルルとの退屈な新婚生活に倦んでいた。やがてエンマは夫の目を盗んで、色男のロドルフや青年書記レオンとの情事にのめりこみ莫大な借金を残して服毒自殺を遂げる。一地方のありふれた姦通事件を、芸術に昇華させたフランス近代小説の金字塔を、徹底した推敲を施した原文の息づかいそのままに日本語に再現した決定版新訳。
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Posted by ブクログ
最初は冗長に感じたが、読み進むうちに繊細な情景描写や感情表現にぐいぐいと引き込まれた。文学史上に残る傑作だと思う。翻訳も丁寧で読みやすい。
冷静で緻密な描写に終始圧巻される。 ストーリー自体は現代ではありふれた転落劇だが、これでもかと積み重ねられた情景描写が雄弁で士気迫ってくるものがある。 農業共進会でのロドルフとの逢引シーンが素晴らしい。 役者あとがきまでボリューム満点で満足度が高かった。 シャルルは何も悪いことはしていないし一貫して...続きを読むかわいそうではあるけど、エンマの嫌悪する気持ちもわかってしまう。
でたらめな父親と、気位の高い母親にふりまわされて シャルル・ボヴァリー氏は自分では何もできない男だった 親の言うまま勉強して医者になり 親の言うまま資産ある中年女を嫁にとった しかし患者の家で出会った若い娘と恋におち 初めて自らの意思を持ったシャルルは 熱愛のさなか妻が急死する幸運?にも恵まれ、これ...続きを読むを成就させるのだった この第2の妻が、物語の中心人物エンマ・ボヴァリー夫人である シャルルは自分の意思を達成したことに満足していたが エンマはすぐに幻滅を味わった 彼女をおそう退屈は、ただの退屈ではない 娘だった時分、小説を読み過ぎた彼女にとってそれは 自尊心を貶め、つまらない女であることを強要する暴力の日常であり そして彼女はその凡庸さに仕える自分を被害者と信じていた 自分ではなにも決められないという部分で 実はエンマもシャルルも似たものどうしだったが ただ曲がりなりにも巡ってきたチャンスを掴み 自己実現を果たしたシャルルの余裕に対し エンマはわけもわからず焦れていた 美しさは人並み以上だったので、不倫の相手に恵まれるが 相手との温度差にも気づかず、真剣にのめり込んでいく始末 悲しい人だった 夫の凡庸さを軽蔑することで自意識を保ち また自分を高めようとショッピングにのめり込み、散財を重ねれば あとは破滅への道をまっしぐらに突き進むのみであった エンマのそういう有様は ひょっとするとあり得たかもしれない若き日のシャルルの 人生の可能性でもあった その運命を分けたのは神のみわざか作者の意図か 少なくとも語り手は、観察者の立場を逸脱しないよう配慮している
配偶者や恋人以外の男女に心が傾くことを浮気と呼ぶのは実に言い得て妙だ。足が地につかず、まさに気持ちがフワフワと浮き立つ如きその感覚は、恥ずかしながら私自身にも経験がある。以前読んだ桐野夏生著「柔らかな頬」のなかで、不倫相手と密会する主人公が「このまま彼と生きていけるなら子供を捨ててもいい」と考えるの...続きを読むだが、これは誇張でも何でもなく実際そんな風に思えてしまうものなのだ。本書の帯に記された「甘い恋の毒が人妻を狂わせる」のキャッチコピー通り、悦楽と陶酔さらには高揚感をもたらす浮気の作用はもしかすると麻薬に似ているのかもしれない 少女の頃から数多の小説を読み耽り、劇中のヒロインが胸焦がす洒落たロマンスに夢中だったエンマにとって、恋愛や結婚とは美しく魅惑的なイメージを伴う出来事のはずだった。従って、ほぼ成り行きで契りを交わす運びとなった夫シャルルの鈍感さや野暮ったさを激しく嫌悪し、どうにも我慢ならなかった彼女の気持ちは何となくわかる。だからって不倫をしていいとは言わないけども、あまりにも理想と現実のギャップが大きかったのは事実だ。夫はおろか、娘も顧みず(娘は乳母が養育)、手練手管の色男ロドルフや年下の青年レオンとの情事に溺れ、嘘と借金を重ねたエンマの行いは良識ある方々からすれば浅薄でふしだらにしか映らないだろう。しかしながら、そんな彼女のことを映画「リトル・チルドレン」のなかでは、良妻賢母などという如何にも男本位の社会が仕立てた枠組みを一蹴し、自分の好きなままに生きた、前時代におけるフェミニストと言及しており、個人的にその見方はあながち間違いではないようにも感じられる 最後にエンマは服毒自殺を遂げるのだが、文字通り彼女にとっては結婚が人生の墓場となってしまった。エンマの死後、シャルル・ボヴァリーとロドルフが偶然顔を合わせる場面は出てくるものの、レオンについての描写は一切ない。彼が元愛人の選択をどう受け留めたのか、ちょっと気になるところだ
19世紀フランス文学の名作。モームの世界十大小説のひとつ。原文に忠実な訳文を目指したという日本語最新訳。 恋愛小説のような情熱的な恋に憧れていた少女が、うっかり平凡な結婚をしてしまった反動で引き起こしてしまう壮絶な不倫劇。不倫にまつわる情動の燃え上がりや苦悩の激しさをあますことなく描き切り、恋愛と...続きを読む結婚の本質に芸術的な迫力で切り込んでいる。こういうドロドロとした話を目にすると「昼ドラ」という単語が頭に浮かんでしまうが、内容そのものは実際、現代においては目新しいものではないのかもしれない。しかし酸いも甘いも噛み分けたようなフローベールの筆致は並みのエンタメでは味わえない凄まじさがあり、読み継がれるべき名作なのは間違いない。 この新潮文庫版、裏表紙の紹介文で盛大なネタバレをかましているので、これから初見の人は注意。いくら有名な古典といっても初めて触れる読者もいるだろうし、配慮がほしかったところ。
装丁が水色で夫人の後ろ姿の後毛まで。 フローベールの文章に忠実に訳してあるそう。 ルルー氏のとりたてが執拗で、上乗せしてたんじゃないかなどど思った。378 エンマは、いいようにおだてられてしまったけど、このルルーの悪党ぶりには天罰でも降らないかと思ってしまう。
吉田健一の『文学人生案内』第一章「文学に現われた男性像」に小説には女性が華やかに、かつ悲惨に焦点を当てられ中心になって描かれているのが多い、男性には光が当てられてない、 という記事にはわたしは目をひらかれる思いだった。 吉田氏はこの本の中で「フローベルの『ボヴァリー夫人』」という章で詳しく、文学論...続きを読むのような感想をも書いていてらっしゃるのだけど、第一章のように副主人公の男性ボヴァリー氏については掘り起こしていない。 ただ、「フローベルは人生など何ものでもなく、充実か虚無かのふたつであると思っている思想のもとに描いた」と結論付けている。 しかし先の「文学に現われた男性像」に吉田氏が触れられているのは、田舎娘エンマをボヴァリー夫人にするだけのボヴァリー氏ではない、読者に印象付けられる特異な人物なのであるという。 そう、ボヴァリー氏は脇役ではない、最初から最後まで登場するというだけではない、夢見るばかりで実人生をふわふわ追いかけ、きれいなものが好きで、浮気や浪費を限りなくするエンマ・ボヴァリー夫人を強烈に愛するエネルギーある人物なのである。 どうしょうもない女性を愛してしまったら、一緒に奈落に落ちるしかない、強い強い男性なのである。だからエンマが破産して自殺してしまったら、抜け殻となり死んでしまう、生ききった男性主人公なのである。 それで「ボヴァリー夫人はわたしだ」と作者は言ったのだと思う。
主人公エンマは自分が既に持っているもの、手を伸ばせば届くものには幸せを見出さず、だから遠くにあるもの、かけ離れたもの、失ったもの、身分不相応のものを追い求める。その気質は奇しくも彼女の忌み嫌う市民的な平凡さそのものとして描かれているように感じた。おそらくフローベールもそのように意図して書いているの...続きを読むだろう。 対して夫シャルルには特別の同情を禁じ得なかった。ただただ可哀想だった。 文体や自然描写は悪くはないけれど、一文一文が長くて難解なため、もう一回読まないと全然分からないと思う。フローベールは自由間接話法を初めて小説に取り入れたとされているそうだ。私は語り手と登場人物が一体となって臨場感のある、この文体が結構好きだった。 追記: シャルルはエンマのことを本当の意味で思いやったことはあるのだろうかと疑問に思った。実はかなり自分が主体な人で、時代背景を考慮する必要はあるのだろうが、結婚に至るまでの過程を思い返すとエゴイストな感じも垣間見える。シャルルを愚鈍な夫と形容することもまた可能なのではないだろうか。
足るを知らない人間の破滅劇。 夫の鈍感さ(なにも気づいていないふりをしていたのか?)も相まって、救われない。
田舎の退屈さに倦む恋多きエンマの破滅への道。つけ入るロドルフ、レオンはやがては退いてしまう。狡猾なルルーに莫大な借金を負わされ服毒する。献身的な夫シャルルが哀れ。推敲を重ねた文体からの翻訳が馴染まないのか読み終えるのに随分かかったが満足。2023.3.21
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