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「僕」はタイムマシンの修理とサポートを担当する技術者で、個人用タイムマシンに乗って時間のはざまを漂っている。あるとき、僕はタイムマシンから出てきた「もうひとりの自分」を光線銃で撃ってしまった……。SF界/文芸界注目の俊英が描く家族小説の傑作/掲出の書影は底本のものです
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Posted by ブクログ
円城塔の翻訳が綴るタイムトラベルもののSF純文学。メタフィクショナルで概念的な世界観は難解に映るものの、文体の軽妙さのおかげかまるで苦痛に感じない。特に翻訳者との親和性は抜群の一言。ウィットに富んだ比喩表現やプログラムとの掛け合い、自己語りなどは『ライ麦畑でつかまえて』のように軽妙洒脱で、非常にスマ...続きを読むートで美しい文章だった。帯にある自分殺しのパラドックスが起こるのは中盤からで、やや遅めに感じるかもしれないが、序盤部分でじっくりと語られた主人公の生活や家族との思い出こそが本筋であり、パラドックスのアクシデントそのものは物語の一要素に過ぎない。難解な用語と世界観の把握が困難を極めるものの、一冊の本のような人生と家族の物語ということから逆算すれば、それらのメタな装飾もすんなりと理解できる。結末はやや安直で手垢のついた言葉のように映るものの、力強さのある言葉だった。ヒーローでも何でもない、ぼっちで、家族に取り残された主人公の放つ言葉だからこそ人間的な説得力に満ち溢れているのかもしれない。
自分で未来の自分を殺す最悪のパラドックス。 抜け出すには、過去を受け入れること。そんなありきたりの答えは、だからこそ、破壊力がある。 途中かなりメタフィクション的な実験があちこちにあったけど、終わってみればとても美しい家族小説。 この本が、『SF的な宇宙で安全に暮らすということ』とは、なんと皮肉なタ...続きを読むイトルだろう。 安全な宇宙から出て身近な人を愛することが出来るのかという問いは、最近読んだディックのヴァリス三部作にも通じるような気がした。
書評的な宇宙で無批判に暮らすっていうこと チャールズ・ユーなんて知らない。これが処女長編というから、知らなくても当然だが、円城塔が初の長編翻訳していて、この珍妙なタイトル。これは買い。 しかも時間SFである。私は時間ものが大好きであることを公言してはばからない者だが、サグラダ・ファミリアの真ん...続きを読む中でも公言するし、陸前高田市の奇跡の一本松の根元でも公言する。するだろう、するに違いない、したかも知れないが、しているところである。 主人公チャールズ・ユーはタイムマシン修理屋。タイムマシンものをかなり読んできたがこういう職業ははじめてだ。しかも流しの修理屋。狭い四畳半アパートみたいなタイムマシンに乗って時間と時間の狭間の時間では無いところでひきこもっていて、修理の要請があると出向いていく。とてもとても後ろ向きな主人公である。 そして本書は家族小説である。家族小説ってなんだかよくわからないが、本書の場合は主人公ユーが父のこと、母のことについての繰り言を延々と続ける作品である。両親はあまりいい関係ではなかった。互いに互いをわかってやれなかった。技術者の父は自宅ガレージでタイムマシンを作ろうとしており、「ぼく」もそれを手伝っていたが、タイムマシン発明者という名声を博す寸前で失敗し、父はタイムマシンのような何かを作って姿を消してしまった。「ぼく」はタイムマシンにひきこもりながら、父を見つけ出したいと思っている。 タイムマシンの駆動原理は相当に人を食ったもので、フィクショナル・サイエンスによって駆動し、サイエンス・フィクション的な宇宙を航行するのである。とはいえ、自分自身に出会うのはタイム・パラドックスを引き起こすので避けねばならない。しかし「ぼく」は未来の自分に出会ってあわを食って、自分を撃ってしまうのだ。タイムマシンにひきこもっていた「ぼく」は、タイム・パラドックスのループに囚われてしまう。そこで未来の自分からこの窮地を抜け出すために告げられたのが、本の中に解答があるということだ。その本とは『SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと』というユー自身が書いている本なのである。 かくて、本書はひきこもり小説である。うまくいけばひきこもり脱出小説になる。なるだろう、なるに違いない、なったかも知れないが、なっているところである。
科学的な部分はちんぷんかんぷんでしたが、 わからないままでも無理矢理がんばって読んでみたら 結構楽しく読めた。いいお話だと思いました。 装丁がおしゃれ。
『すなわち、原理的には万能タイムマシンを構成するにはこれしか要らない。(i)記録媒体の中で、前方と後方、二方向に動かすことのできる紙切れ。(ii)そいつが、叙述と、過去形の直接的な適用という二つの基本操作を果たせばよい』 この小説は納め所の難しい小説だ。特に前半と後半の印象ががらりと変わる。ただ解...続きを読む説にあるようなSF か家族小説かというような二者択一を迫られているとは思わない。この小説はあくまでもSF であると思う。ただ、SFとしての印象の落とし処が見えにくいという気がしてならないのだ。 単純化を恐れず言えば、SFの楽しみは想像力の喚起、ということに尽きるのではないかと思う。しかもそれは一見途方もない嘘のようでいて言葉の一つひとつには科学的に証明された概念が用いられ、それらを組み合わせて行けばその途方もない嘘が実現しそうな気になるのが醍醐味ではないか。例えば最初の引用は知らない人にとっては、物語の中での意味を見出だしかねる文章かも知れないと思うけれど、これはロジャー・ペンローズが展開した万能チューリング・マシンのことを下敷きにしていると気付けば(奇しくもどちらも略号はUTM)、不可能性は可算的に証明できないということに繋がる話だなと頭の中で思考がぐるりと回転して物語の次元を拡張する。一つのエピソードの背景に別のエピソードがきちんと流れているように感じられる。それがSFの楽しみの王道ではないかと思う。前半にはそんないわゆるSF好きを刺激する言葉使いが多用されていると思う。 『失敗は容易に測定できる。失敗は出来事だ。無意味さは測定し難い。非出来事なのだ』 それが後半になると急に哲学的な言い回しが多くなる。それはそれで物語に深みを与えるとは思うけれど、思考が哲学的になる時、物事の因果関係は必ずしも明瞭になるとは限らない。つまり、物語の筋はもつれて(tangled)くる。一つの思考を俯瞰したメタ思考があるかと思えば、更にその思考を俯瞰したメタ思考があり、その連鎖は永遠に続くように思われる。その永遠に続く連鎖を俯瞰した思考、例えばε-δ理論のような思考も考え得るけれど、人は無限を取り扱う術を完全に心得ている訳ではなく、そこに容易に不完全性が忍び込む。 その混沌とした世界を叙述することがひょっとしたらこのSFの真の狙いなのかとは思いつつ、指輪物語が終わった後にホビットの冒険があったといわんばかりの短いエピローグが添えられているのを読むと、それならばもっときちんと閉じて完成した世界を描いて欲しいとも思うのである。究極的には量子力学的世界観を受け入れることが出来るか、それとも古典物理学的世界観に留まるのかが問われているのだろう。しかし、SFを読むときにそこまでの覚悟をして読むことは稀であるに違いない。まあ、円城塔の翻訳ならそこまでの覚悟が必要なのかも知れないけれどね。
これを読み始めたとき、チャールズ・ユウの実在を疑い、円城塔の自作自訳なのではないかとちょっとでも思った人。やあ、兄弟。 “継時上物語学”とか日本語でうまいこと言うから疑いがより強まる。 でも、読み進めると結構違う。円城塔よりもっとウェットで、ちょっとだけ温度が高くて、地味な家族の話。
どんなに頑張ったって過去は変えられないんだから、悩んだって仕方ない。 じゃあ、未来はどうか。 未来なんてものは、ただの白紙でしかない。 だったら今を生きるしかないのだけれど、それはすごくお腹が痛いことで……
息子に自身の失敗の場に立ち会われてしまった父の羞恥とやるせなさと、尊敬していたはずの父をはたと客観視してしまう息子の切なさ。そんな父子をキッチンで待つことを自分に課しているかのような母。家族って実は脆くて頼りないつながりで、各々の努力や分別なくしては維持できないんじゃないかと思う。
タイムパラドックスに陥った青年が、過去と未来を通して自分と、そして家族を見つめ直す。 円城塔の翻訳がものすごく円城塔な感じ。ちょっと笑える。 わかりづらいけど、読みやすくて、 ちょっとせつなくなったりした。 SF小説だけど、家族の物語でした。
予想以上に円城塔だった。何回か間をおいてよんだのでラストで何が起こったのか正直よくわかってないのでもう一度読み直した方が良いかもしれない。
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