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ひくく声をかけて、いきなり女に飛びかかった小平次は、恐ろしい力で首をしめあげ、すばやく短刀で心の臓を一突きに刺し通した。その時、恐怖に引きつった青白い顔でじっとみつめる小女と顔を合わせてしまった。「見られた……。生かしてはおけない」男は江戸の暗黒街でならす名うての殺し屋で、今度の仕事は茶問屋の旦那の妾殺しだったのだ……。色と欲につかれた江戸の闇に生きる男女の哀しい運命のあやを描いた傑作集。
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Posted by ブクログ
池波正太郎さんと藤沢周平さんは時代小説の両巨頭などと言うまでもないこと。 そのお二人の作品の印象は池波さんは派手、藤沢さんは地味。ずいぶん大雑把で簡単な印象ですが。 殺し(暗殺)に関する8編の作品。 「おみよは見た」 両国一帯の香具師の元締め羽沢の嘉兵衛に命じられて、青堀の小平次は八幡屋利兵衛の...続きを読む囲われもののお八重を殺害するが現場を子女のおみよに目撃されて顔を覚えられるてしまう。自分の身を守るためにおみよをも殺害しようとするが人違いで同じおみよと奉公先のおしんを殺してしまう。 一方おみよはかつてお八重に虐待されており、彼女を殺害した小平次に感謝こそすれ恨みも持たず調べに対しても小平次の顔を見なかったと庇う。 たまたま顔を合わせた小平次に対してもあの事は喋らないと顔で伝えたつもりだったのだが。 「だれも知らない」 父親の敵討ちの旅に出ている夏目半五郎、仇の井関十兵衛の居場所を突き止めるも自分の腕では打ち取れないとわかっている。腕の立つ浪人者山口七郎を雇って代わりに打ち果たさせようともしたがうまくいかぬ。 時がたち十兵衛は医者になり成功するが、押し入った賊(実は山口七郎)に殺害されてしまう。山口は医者が十兵衛だとは知らない。 そして半五郎は十兵衛が死んだ事を知らず懸命に仇打ちの旅を続ける。 昔はこういう事も多かったのだろうなあ。 「白痴(こけ)」 この話ではだれが被害者でだれが加害者か、だれが悪人でだれが善人なのかわからなくなる。 「男の毒」 男も女も出会った相手によって変わってしまう。 「女毒」 男の毒によって女は変わるが女毒にあたって命を危うくする男もいる。 どちらの毒も互いの欲と性が強力なものに仕立て上げてしまうのだろう。 「殺(ころし)」 我が世の春の如き時代を生きた者も老いには勝てない。 若い時代をどう生きるか、それが老いた時の自分の在り方を決めるのかもしれない。 「縄張り(しま)」 権力争い、誰も信用できぬ。 分かりきっていることではあるが。 「罪」 惚れた女に命を狙われるとはなんとも淋しい。 自分の死に水を取って欲しいとまで思っている女と心と心が通じ合っていると思い込んでいる男の悲劇。
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