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「私の話を信じてほしい」哲学研究者の著者は、傷を抱えて生きていくためにテキストと格闘する。自身の被害の経験を丸ごと描いた学術ノンフィクション。
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Posted by ブクログ
「あなたには分からない」と、その人(たち)をはね除けることは、結局のところ「私のことを分からないあなたのことが、私は分からない」と自分の心の不透明な部分をはね除けることと等しいのではないだろうか。 自分の心の中に空洞が残るのは、正にこういった所作によるものかもしれんと思われた。 「私のことが分から...続きを読むないあなたのことを私は知りたい」なぜならそれが、「私を知る」ことに繋がるからだ…という路があるような気がするな。
「当事者は嘘をつく」というのは著者が、体験した性被害の経験について語るとき、自分は嘘をついているのではないか、という考えが拭えないということを意味したタイトルである。 性被害にあった人間が修復的司法というケアの方法を通してどのようにサバイブしていけるのか、ということを主軸に、そこから無限に枝分かれ...続きを読むするさまざまな重要な事項へ触れていく。それらのことは読者自身が何らかの被害体験を持っていなかったとしても、特別に響いてくるものがある。なぜなら、それは誰もが経験する「傷つけること/傷つけられること」に結びついていて、それらをどう扱うかということをこの本は語っている。 また、自助グループでの体験やケータイ小説を書くといった、いわゆる医学的なキュアの方法に頼っていない(精神科医に裏切られた体験への記述もあるのだが…)著者のユニークな足取りは、取っ付きやすく、力強く、それでいて誠実な、彼女にしか描けないラインであると感じた。その感覚は「急に具合が悪くなる」を読んだ時の、この物語はこの人にしか書けないものなのだという共振の感覚があった。つまり魂本(ソウルブック)…… ケアとキュアは違って、前者はより回復者の主体性、当事者性を担保したものであるという記述も重要だった。そして著者は、被害者の近くで支援者として関わる人々の中に、観察的な立場から二次被害的に被害者を扱う人間がいることを厳しく指摘する。 ユマニチュードに関する記述などもあって、自分が関心を寄せるトピックに関する記述が多数出てきた。 傷ついた人々(自分も含めて)がいかにして自分のことを語り、生き直すことを始めるのか、そしてその時に放つかがやきのようなものに、自分はもしかしたら惹かれているのかも知れないと思ったりした。
少し間をあけてだが、一気に読んだ。 薄々感じている私たち支援者としての欺瞞を、まざまざと突きつけられた。痛みを感じながら、むしろしっかり突きつけられたかったのだと読後に気がつく。 私の想像を越える痛みを抱えながら、著者は自身の被害体験と研究者としての揺らぎの体験を世に出してくれた。果たして支援者であ...続きを読むる私(たち)はそれにどう応えられるのか、宿題をもらった気がする。
ショッキングなタイトルだ。性暴力被害をうったえる者は、必ずと言っていいほど「嘘を言っているのではないか」という疑いにさらされる。だからこそフェミニズムの運動は、まず被害者の言葉をそのまま受け止めることを何より重視してきた。だのに当事者が、自らの語りを疑っているというのだから。 著者にとって性暴力被害...続きを読むとは、「わたしは真実を述べる者である」と言いうるような語る主体の枠組みを崩壊させるような経験としてあった。それを著者は「思考の海で溺れていた」とも表現している。言葉をまとめあげて自らの語りにするような枠組みが崩壊してしまった状態、といえるのだろうか。そして、そのような激しい苦痛のただ中においてのみ可能なものが「赦し」なのだと。 あまりにも直観に反する議論にも聞こえる。正直、デリダの議論も、著者の主著もまだちゃんと読めていないわたしには判断が難しいのだが。それでも著者にとってデリダが提示した「赦し」の可能性は、たとえ実際の加害者にはまったく届かないものであったとしても、むしろだからこそ、その後の研究の原動力になっていったという。 だがその道はストレートではない。むしろ難解な「赦し」論以上に、本書でとても興味を惹かれたのは、いったんばらばらになってしまった「わたし」が語るための枠組みを取り戻す助けとなったのが、自助グループにおける「わたしたち」のための「回復の物語」だったということだ。「わたし」の固有の経験を語ろうとすることを放棄し、「わたしたち」のための、ある意味では型にはまったストーリーをともに作りだすことが、自分自身が生き延びるために必要な物語を作る方法であったのだというのである。人が生きるためには、「わたしの物語」といえるようなものが必要なのだ。それが「真実」であろうとなかろうと。本書を読んで、もっとも深く心に残ったのは、このことだった。 そしてもうひとつの重要な点が、支援者や研究者に対する著者の怒りである。引用されているマツウラマムコの論文が指摘するように、被害者を無力化する支援者の傲慢は、わたし自身、性暴力被害者支援の末端に少しだけ関わっていたこともあるから、そういう面があることを知ってはいた。しかし、その暴力性の本質について、自らを開示することなく、当事者にかわって性暴力や被害者について「真実を語る」ことができる自分たちの特権性を疑わない、その主体性の位置にあるということを、あらためて考えさせられる。 被害者が共同作業を通して創り出す「回復の物語」に対して、著者は、支援者たちが支配する語りを「回復の言説」と呼んで区別している。首尾一貫した後者の言説は、「取り乱し」混乱する当事者が語ろうとする力をふたたび奪いとってしまうからこそ、拒否されねばならないのだ。 そのように考える著者もまた、自らが研究者となり、また当事者とはいえない水俣病の問題に関わっていくなかで、自分が「わからない」非当事者でもあるということとの折り合いをつけていくことになる。 他者の語りを奪い取ってしまいかねない支援者や研究者の特権は、たぶん究極的には、研究者だけの問題ではないとも思う。取り乱して首尾一貫した語りのできない位置からの「あなたにはわからない」という絶望/切望を「わたし」は聞けているのか、自分の取り乱しを受け入れられるのか。著者の勇敢な自己開示に問いかけられる。
すごい。ぐいぐい読ませる文章に圧倒され一気読み。当事者、支援者、研究者、サバイバーなどクルクル立ち位置が変わっている。言語化するのに大変だったのだろうとしか言えない。私から言える事は最後まで読んだという事だ。大前提として、小松原さんという人に感謝したい。
「私の話を信じてほしい」自分の記憶が正しいのか、もう自分でもわからなくなった筆者は精神的に不安定になり、自暴自棄にもなる。助けてほしい、最後まで話を聞いてほしい、そう思う気持ちに触れると、読んでいるこちらも心が震えてくる。
響きすぎて、読み終えてからしばらくの間、言葉が出てこなくなりました。 「共振」が起きていたのだろう、と思います。 「人間の記憶は、秩序と混沌の両方があることで完全になる」という言葉に深く納得しました。 言葉にできることと、言葉にならないもの。どちらもあっていいし、どちらもあるのが人間なのだ、と受け...続きを読む取りました。 「弱さの源泉はどこにあるのか」を探っていく、という問いに、「その観点はなかった!」と新鮮な気持ちになりました。安心安全が確保された場でないと探りにくいものですが、それを知ることができれば、自分の身を守りやすくなるだろうと感じました。 先輩や同僚のお話を聴いているような親しみや、読者への思いやりを感じる一冊でした。
当事者性ってなんだろうと、非当事者だったらどこまで行っても理解することなんか無理だと思っていたけど、 それが著者の言葉でちゃんと書かれている。 私はなんの当事者でもないけど、この本を読んで良かったと、単純に思った。 著者は強い人である。
性被害サバイバーの著者がサバイバーとして自らが生きていく為に性被害についての向き合い方を学び研究者となるなかで研究者になったからこその葛藤が生まれるというエッセイ的な自伝(?)。性被害者としての自分と性被害について論文を書く研究者としての自分、それぞれが両立し得るのか?研究者でありながら性被害サバイ...続きを読むバーと公表していいのか?その悩みについて、勿論性被害サバイバーとして生きてきた苦しみについても書かれていて性被害というものが1人の人生をどれほど変化させてしまうものなのかという事を感じずにはおれなかった。上手く言えないのだが人の内面にどれ程の傷があるのかは想像するしか出来ないし、想像が当たっているかなんて誰にもわからないのだろうなと思ったりしていた。
性暴力の被害当事者である筆者が、加害者との対話によって「赦し」について考え、また、絶対に分かることのできない「支援者」「研究者」とのかかわりの中で苦しみながら、かれらとどう関わり、当事者としてどのように生きていくのかを考える。 当事者としての立場を明らかにして研究を行うのか、立場を隠しながら研究を続...続きを読むけるのかについての葛藤も興味深い。 また、水俣病との出会いの中で自らの非当事者性、他者性に気付き、それが翻って自らの研究態度に影響を与えていく。
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小松原織香
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