作品一覧

  • 翻訳と異文化――原作との〈ずれ〉が語るもの
    NEW
    3.0
    1巻2,200円 (税込)
    「翻訳は原作の鏡である。ただし特殊な造りの鏡で、原作が属する文化とは異なる文化の装置が一面に嵌め込まれている。原作のなかで、その鏡が映しだしにくい部分は歪められ、変形させられ、ときには鏡面から完全にはじかれて写されなかったりする。この本では、そのさまを、日本語と英語の文学作品にかんして、垣間見ようとした。例えば日本文学にあふれている〈悲しみ〉あるいは〈物悲しさ〉の受け皿が英語にはないらしいこと、〈清々しい絶望感〉という日本人には何となくわかるフレーズが英語に吸収されるためには複雑なパラフレーズをへねばならないこと……」(おわりに)。翻訳は異文化理解の、多分もっとも重要な手段の一つである。しかし翻訳は〈或る文化〉を正確に伝えることができるのか?本書は原作と訳文をていねいに照合しつつ、異文化間の表現の〈ずれ〉を検証してゆく。『テス』における〈手〉、『こころ』に現われる血のイメージからパラグラフや主語の省略まで、翻訳における問題点を具体的に提示する。細部への探究から生まれたユニークな比較文化論の試み。
  • 猫の王国
    3.7
    1巻2,860円 (税込)
    「留学体験にくらべれば猫の話はまったく些細な、せいぜい日常生活に気晴らしがひとつ加わるような次元のものだと思われるかもしれない。私自身そう思っていた。偶然の成り行きで野良猫を飼い始めたとき、人生の大きな扉が開いたのだとは思いもしなかった……ところが。アメリカ体験が社会的体験だったとすれば、猫体験は内面にかかわる体験だったといえよう。前者では私の視線は水平に、横へ横へと伸び、後者は垂直に内面に下りていく契機となった」(あとがき)猫たちとの共生から生まれる新しい日常生活。その生き生きとした、思いもかけないドラマ(ドタバタ)を愛猫家ならではの視線で描く三篇。さらに、40年前のアメリカ留学の地=ボストンを再訪して往時の出来事や人びととの交友を追想する貴重な体験記。最後の、ドイツ人女性シーギーの辿った悲劇を語るエッセーは重い読後感を残す短篇のようである。
  • ナチ 本の略奪
    5.0
    1巻3,379円 (税込)
    ナチが略奪したのは美術品だけではなかった。世界を思想的にも制覇しようという彼らの野望にとって、厖大な量の本や資料を略奪し、それを用いて「敵」を研究し尽くすことが、不可欠な手段だった。 ナチは「野蛮な知の破壊者」ではなかった。「敵」を知るために厖大な本や資料を読み尽くし、それを利用し歪曲して、ナチの視点から世界史を書き換えるという壮大な目論みが、本の略奪の動機だった。 戦争末期の混乱のなかでナチが略奪した大量の本は失われ、叢書やコレクションは四散した。戦後ソ連に運ばれたまま戻らぬ本も多い。ドイツの多くの図書館は、失われた叢書を補填すべく、出所を確かめぬまま略奪本を受け入れた。今世紀になり、そのような略奪本を洗い出し、もとの所有者やその子孫に返還する運動が進行中である。  著者はヨーロッパ各地を訪れ、本の略奪、蔵書の消滅や四散、そして返還の現在を、新資料とともに検証している。 スウェーデン「Foundation Bengt Janson's Memorial Fund Prize 2018」受賞作品。 「このような歴史は、今なおわれわれを驚愕させる。研究者たちが新たな問題を掘り起こし、新たな手がかりを辿ると、初めて明るみに出る事実が今なお存在する」(シカゴ・トリビューン紙) 「思想史、探偵小説、略奪本返還運動の記録が渾然一体となったこの本は、読者の興味をかきたてずにはおかない」(ロサンジェルス・レビュー・オブ・ブックス)

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  • 【電子復刻版】ニューゲイト・ノヴェル――ある犯罪小説群
    -
    1巻1,320円 (税込)
    ※この商品はタブレットなど大きいディスプレイを備えた端末で読むことに適しています。また、文字だけを拡大することや、文字列のハイライト、検索、辞書の参照、引用などの機能が使用できません。 ※この商品は固定レイアウトで作成されており、タブレットなど大きいディスプレイを備えた端末で読むことに適しています。また、文字列のハイライトや検索、辞書の参照、引用などの機能が使用できません。 イギリス小説の根強い伝統の一つをなす犯罪小説、その核とも言うべきニューゲイト・ノヴェルを詳細に論じる日本で初めての本格的論考。 待望の電子復刻版。
  • ブルームズベリーふたたび
    -
    1巻2,090円 (税込)
    「人生のやりなおしがあり得ないぶん、自分のなかに出来上がっている枠組みは不動で、内なるレンズはすでに透明度を失っている。どれほど対象が新しかろうと、自分に備わった尺度で風景を切り取り、意味を与えがちである。…日常のなかにいるかぎり、それが繰り返される。日常の外に出るとき、わずかではあっても、自分の認識が揺さぶりをかけられる瞬間がある。立ち止まってレンズの曇りを払い、歪みの理由を探ろうとする。空間の旅が時間の旅へと転化し、外側の風景が内なる風景を照らすに至るのは、そのようなときである。カンヴァスを前に非日常の風景が必要なのは、自分の内側をより効果的に映し出すためではないだろうか」(夕映えの旅景)休暇を待ち切れぬようにしてトルコとクレタ島へ出かけ、ネパール旅行に加わり、ふた夏をイギリスのケンブリッジで過ごす。旅行の影の同行者はブルームズベリー・グループの人々、わけてもE・M・フォースター、ケインズ夫妻、ヴァネッサ・ベル…しかし旅とはついに自分自身との対話である。カトマンズであれクノッソスであれチャールストンであれ、旅先での出会いや出来事はおのずと自身の過去につながり、ときに思いがけない記憶が蘇る。この過去と重なる現在のなかで、著者は他ではあり得なかった自分を再確認する。まずは軽快に、そしてときに辛辣ときにユーモアを交えて、三つの旅はその意味を深めつつ転調してゆく。旅に重ね合わせて、軽妙にしかし力強く語られた個人史…本書はまぎれもなく第一級の文学的紀行=エッセーである。

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  • ナチ 本の略奪

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    本を焼いたのは知られているが占領地でユダヤの本を片端から集めていたのは知られていまぜんでした。
    その奇妙な性癖についての本です。

    善悪からはちょっと身を引いて書いています。

    集められた本が今どうなっているのかを同時にレポートした書き方がすぐれています。

    また、ナチスのユダヤ人差別の「思想」がどのようにして起こっていったかがくわしくわかりやすく書かれています。
    ユダヤ人差別がナチス、ドイツだけの問題ではなかったことが、ナチスの蛮に世界が震撼した理由なのだとわかります。
    ユダヤ人への差別を持っていない日本人がひどいというのと性質が違うのです。

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    2024年01月20日
  • ナチ 本の略奪

    Posted by ブクログ

     本年の春にテッサロニキを訪れたとき、この地はアリストテレスやアレクサンドロス大王ゆかりのギリシア第二の都市と称揚されるわりには荒廃した印象が拭えず、不思議な思いがしたものであった。ところが図らずも本書には、そのよってきたる原因が記されていた。
     第二次世界大戦でナチスの占領されるまでは、テッサロニキは過去何百年も世界最大のユダヤ人都市であった。つまりユダヤ人がマジョリティであり、そのもとで文化、経済が花咲く唯一の都市だったのである。第二次世界大戦勃発の時点でユダヤ人は5万を数えたが、この大戦を生き延びたユダヤ人はわずか2~3000人だったそうである。ナチスはユダヤ人を虐殺しただけでなく、ユダ

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    2019年09月15日
  • 猫の王国

    Posted by ブクログ

    文章に若さを感じる。
    それは、昨今の若者言葉を使って若ぶっているとか、若さに媚びているとかいうのではない。
    おそらく、ご自分の40年前の若さをもう一度追体験することに成功しているのだろう。

    そして、確かに歩まれてきた40年もまた同時に感じる。

    一見かけ離れているかのような、猫たちにまつわる3編と40年前留学したボストンを訪れる2編であるが、互いが互いの外伝のようとも言える。

    猫たちとの日常を綴るエッセーは、留学から帰って後の筆者の家庭や大学人としての苦闘を立体的に描くし、『小次郎がいい』で小次郎の喪失が描かれた後に読むから、『シーギー』が一層哀切を帯びる。

    ことばをもたない猫が世界を切

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    2013年05月30日
  • 猫の王国

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    ネタバレ

    猫を飼ったことがあっても、仔猫を保健所に持っていく(つまり、殺処分する)ことに抵抗なかったんだな、と新鮮な驚きがあった。

    時代背景もあるのだろうけれど、屋根裏で死なれても困るし、増えても困るし、野良猫に手を焼いていた、という理由があるにせよ、猫飼いにも色々な人がいるのだなと。

    同じ人が、自分の飼い猫には深い愛情を示すところが興味深い。年齢や状況にもよるだろうけれど、「うちの子」と「よその子」は、こんなに違うものなのか。

    私の周囲には、どちらにも優しい、親切な猫飼いさんが多く、猫エッセイを書く人も同様の印象があったが、皆さん、本音を書かないだけなのかも知れない。

    猫の話よりも、「ボストン

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    2014年09月04日
  • 猫の王国

    Posted by ブクログ

    猫を題材にした小説、でも、エッセイでも、読むときはいつでもどきどきする。
    話の筋とは関係なく、突然道路へ飛び出して車に引かれちゃうんじゃないかとか、変な物を飲み込んで窒息死しちゃんじゃないかとか
    著者が「小次郎」をボストンに連れて行ったのにもどきどきした。
    でも別れは突然くる。こんなに身構えていたのに、やっぱりきてしまった、、、。
    著者は女性の英文学のまさにパイオニア。父と同い年なのにびっくり。この方の歩んできた道は、女性研究者の軌跡のようですね。
    その道のりにそっと猫たちの存在。
    やっぱり私たちは彼らに癒されているのです。

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    2012年02月22日

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