自社の企業価値評価や、投資基準、BSマネジメントなどを考える中で資本コストについて色々な本を読んできたが、この本はこれまでとは違った内容で新鮮だった。
(ただ文章は読みづらい)
以下、気になった点
・変動する資本コスト
・ストック価格=期待フロー÷資本コスト
・実際のフローはそれほど変動しないのにストック価格は変動する
・投資家の効用関数に基づく資本コストが変われば、ストック価格は大きく変動する
→WACCはあまり変動する認識はなかった。感応度分析でWACCを動かすことはあっても、ストック価格のように変動するものとは思っていなかった
→ただ、WACCの変動の論拠として、筆者はストック価格の変動を上げているが如何なものか。感覚的には、期待フローの情報の非対称性とか人間の心理面が関係してそうで、WACCが変動すると言い切れるものかねえ
・企業価値を見積もるのは本来、企業ではなく投資家の仕事であろう
・推計した資本コストを開示することが…本当に企業がすることか?
・資本コストの変動は、市場リスクプレミアムの変動(マクロの景気動向に影響)によってもたらせれる
・経済全体に関わる要因を把握することについては、経営者が優位な立場にいるとは言えない
→会社がどうWACCを捉えているか、それを前提としてどう企業活動を進めているか、というのは投資家にとって有益な情報では?WACCの正解を会社は出そうとは思ってないし。
・キャッシュフローを生み出す源泉が借方であり、それに対する請求権を表したのが貸方
・借方、貸方双方で測ってもキャッシュフローはおなじ
・借方の期待リターンと貸方の資本コストは同じ
・資産の入替により期待キャッシュフローが増えたものの、資本コストも上昇すれば、企業資産価値はそのまま
・新たな投資を行うに際して、資産構成変更前のハードルレートを基準に持ちることは経営者の判断を誤らせる
→理屈は合っている気がする。。。
・企業の資本コストを推計するにあたっては、貸方からが通例。そのため、企業の資本コストがまずあって、それが投資のハードルレートとなると考えがち。しかし、概念的にはまず借方の資本コストがあって、貸方の資本コストはそれを反映する
・資産が入れ替えられると、資本コストは変化する。期待リターンの低下はそれ自体経営者が責められるべき性質のものではない。
・企業の資本コストは加重平均なので、全ての個別資産の資本コストが同じでない限り必ず資本コストを下回る個別資産が存在する
→貸方から見た資本コストを企業が意識するのは、株主等の期待に沿えているかのチェックという観点であると思う。筆者は貸方と借方はバランスするから〜とそこを論拠に挙げて、あたかも唯一の資本コストがある、みたいな論調だけど、企業とか株主とかそれぞれに思う資本コストがあってそれをIR等で埋めていくことが実務的には求められている気がする
・企業の資本コストをハードルレートとしてIRRの高低で投資の可否を判断するのは極めて危険
・高IRR投資はハイリターンであるがハイリスクの投資なのである
→そうだね
・株主資本コストは固定されており、株主資本と負債に組み合わせから独立していると見なすことは、根源的誤り
・企業の資本コストはしさんから決まっているので、レバレッジによって変えることはできない
・概念的には、株主資本コストと負債コストを加重平均したWACCが資産の資本コストによって決まった後、レバレッジの程度に応じてリターンとリスクがそれぞれ株主と債権者に割り振られる
→つまりWACCを下げるべく、負債でレバレッジかけまくるのは誤りということ。それは納得。感覚的には理解していたが、良い根拠を得たと思う
・債権者と株主の両方に帰属するリターン(営業利益ベースROA)とWACCを比較する手法とみなせるEVA(経済的付加価値)は企業の投資パターンが安定している場合には、有効な手法かもしれない
→別の本でもEVAが有効という記載があったな・・・。
(ROAーWACC)×投下資本
・経営者は本来株主のAgentとして株主価値最大化に努めねばならないのに、かならずしもそうでない。情報の非対称性のもと、AgentがPrincipleの利益を犠牲にして自分たちの利益を優先する、Agency問題が根底にある
・独立社外取締役という別のAgentを加えると、なぜAgency問題が改善されるのか
→確かに。社外取は女性比率等も気にしつつ、裁判官とか弁護士、会計士とかを登用したりするけれど、本当に価値を出しているのだろうか。Panasonicの社外取の富山さんのようなプロ経営者なら良いと思うけれど。そんな人材たくさんいないよなー
・ラドナーらの理論的研究によれば、企業価値最大化は倒産することなく生き残る確率を最大化するという意味での生存最大化と一致するとは限らない
・いつでも逃げ出せる投資家や社外取締役が、本当に長期的視野に立って考えることができるのか
・経営者は生存最大化を目指しがち
・投資家やその代表の社外取締役は、企業価値最大化を目指す
・余分な資金は持たず配当や自社株買いで株主に還元し、結果的に倒産確率を高めることになっても企業価値最大化を推進せねばならない
・適度に企業が潰れることは想定内の事態