作品一覧
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3.6新人・野間宏、戦後日本に颯爽と登場――初期作品6篇収録のオリジナル作品集 1946年、すべてを失い混乱の極みにある敗戦後の日本に、野間宏が「暗い絵」を携え衝撃的に登場――第一次戦後派として、その第一歩を記す。戦場で戦争を体験し、根本的に存在を揺さぶられた人間が、戦後の時間をいかに生きられるかを問う「顔の中の赤い月」。ほかに「残像」「崩解感覚」「第三十六号」「哀れな歓楽」を収録する、実験精神に満ちた初期短篇集。 ――草もなく木もなく実りもなく吹きすさぶ雪風が荒涼として吹き過ぎる。はるか高い丘の辺りは雲にかくれた黒い日に焦げ、暗く輝く地平線をつけた大地のところどころに黒い漏斗形の穴がぽつりぽつりと開いている。その穴の口の辺りは生命の過度に充ちた唇のような光沢を放ち、堆い土饅頭の真中に開いているその穴が、繰り返される、鈍重で淫らな触感を待ち受けて、まるで軟体動物に属する生きもののように幾つも大地に口を開けている。
ユーザーレビュー
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Posted by ブクログ
最初は少し退屈だった。本の厚さを見ながら読むのを止めようかとも思った。しかし、木谷が真情を語り始めるに連れ、次第に引き込まれていった。
人は誰しも、自分を大事にしながら生きている。仕事の後、一杯の珈琲でも、或いは公園のベンチでの缶ビールでも、ささやかな慰めを自分に与えて生きていく人がいる。一丁四方の兵営という真空地帯の中でも、安西二等兵は利己的な手抜きで自らを慰め、安西を気遣い不寝番の交代を申し出る弓山二等兵は、幹部候補生の試験に希望を見いだしている。
しかし、軍法会議と陸軍刑務所は、そんな兵隊の一人だった木谷上等兵のささやかな自尊心を完全に打ち砕き、便紙一枚の自由すら与えない。刑期を終え -
Posted by ブクログ
野間宏。真空地帯があまりに面白くて、デビュー作の暗い絵がどうしても読みたくって読みました。
「暗い絵」「顔の中の赤い月」「残像」「崩壊感覚」「第三十六号」「哀れな歓声」の六編を収録。
デビュー作である「暗い絵」は正直よくわからなくて、でも、ブリューゲルの絵についての冒頭の長々とした記述が異様なものであることは伝わりました。
一枚の絵についての描写が、こんなに長く冒頭に続く小説は珍しいのではないでしょうか。
この描写を読んでいると、永遠に暗い絵の風景が広がり続けるんじゃないかという錯覚すら覚えます。
でもストーリーとしては、筆者の経緯や、歴史的背景を知っていないとわかりにくいものだったと思 -
Posted by ブクログ
ネタバレ軍隊機構の末端である兵営の緻密な描写を通して、日本軍国主義を批判した問題作。とのこと。
初めての野間宏。
最初は退屈な小説だな、と思いました。木谷のことも、曾田のことも、軍隊のこともあまり掴めなくて、さらに物語がなかなか動かない。
でも、中盤から、色んなことがわかってくると、俄然面白くなって先が気になりました。
戦争に関する小説だと、何かしろ天皇の存在とか、当時の社会的な思想のようなものが見られるのだけど、この本はそうではなかったです。
単純に、組織機構の腐敗に的が絞られていたように思います。悲劇的な雰囲気もありません。
だから身近で読み易くもありました。野間宏の文章はあまり読み易くはな -
Posted by ブクログ
野間宏の初期の短編集。
巻末の年表を確認すると収録作は終戦直後1946年に発表された『暗い絵』から、一番遅い『崩壊感覚』でも1948年3月で、氏の代表作である『真空地帯』より前に書かれた作品のみになっています。
野間宏といえば本書収録の「暗い絵」と長編の「真空地帯」くらいしか知らなかったので、個人的に氏の作品を知るいいきっかけとなりました。
第一次戦後派作家としての野間文学が良くわかる短編集だと思います。
各作品の感想は以下のとおりです。
・暗い絵 ...
野間宏によって本格的に書かれた小説としては最初の作品であり、氏が注目されるきっかけとなった作品です。
後の大東亜戦争に取り込まれる前