大規模言語モデル(LLM)について、またいわゆる(人口)知能とは、どのような理屈で動作しているのか?、について、その大まかな歴史、また正確な理論の解説と、わかりやすい(ただ決して万人向けではないが…)、技術的な興味を惹かれる記述を含む形で書かれた、優れた技術書であると思う。
私はかつて、学卒後約8年、いわゆるIT業界に身を置き、またその後業界こそ異なれどITに関わる仕事に長年従事してきた。ただ数年前にセミリタイアのような形でかの業界からは身を引き、ちょうど時を同じくしてChatGPTに代表されるような人工知能(AI)(LLM)が世間の耳目を集める時代になったように思う。そのような「自分の仕事とは関わりのない」「仕事を通じて触れる事のできない」LLMという概念をその基礎から知ることができず、ずっともやもやとした気分でいた。余談だが1995年のいわゆるウィンドウズショック、インターネット元年、その後の一連のIT革命(と勝手に私が呼んでいる)をまさに公私に渡って体験してきた身ではある。
そのようなLLM、について、学ぶ資料、書籍、になかなか出会うことが出来なかった。尤も、いわゆる親切な絵柄や過剰な色彩、それこそ「万人向け」の「ムック本」ならば、いくらでも書店に並んでいるだろう。ただ私は決してそのような形で(AIについて)学びたいとは思わなかった。実際、もしそのような形で触れていれば、下記のような発見はなかっただろう。
私が本書を通じて得た「発見」とは、「AIについてその技術を進化させようとする研究、行為、開発作業、は、人間の脳について、より深くその動作原理を知ろうとすることではないか?」という事である。私が冒頭で、「(人口)知能」とあえてカッコで括った事はそれを意味している。当たり前の事だが、私たちは常に考え、行動し、反省し、よりよく行動しようと、という日常を意識する事なく繰り返しているはずである。それは全く文字通り「無意識」の行動であり、その「命令」は殆ど「脳」がやはり無意識に「発信」していると思う。ではその無意識な行動は具体的にどうやって、どういう理屈で、どういう経験則に従って命令が発せられたのか?、もっとわかりやすい(と私が勝手に考えだした)例を挙げれば、テレビ番組に出てくるお笑い漫才師の演芸、その間合いとセリフが、なぜ我々はまさにその瞬間に面白いと感じるのか?、そこにAI、或いは人間の脳、というものの動作を理解するヒントがあるのではないかと、本書を読むことを通じて、私は発見させられたように思う。すなわち、AIの研究とは人間の脳の研究では無いかと。
最後に、本書の終末あたりの一文をそのまま引用する。まさにこの事がAIと人間の未来を表しているのでは無いかとも思う。
「結局のところ、人は異なる知能をもった存在によって、初めて自分たち自身を理解できるのかもしれない。人工知能が人間の自己理解に貢献していくと考えられる。」