「大栗先生の超弦理論入門」大栗博司
分子はランダムに運動しているのでエネルギーの値も常に揺らいでいるが、膨大な数の分子が集まると、エネルギーの平均として近似的に一定の値をとり、それを我々は温度と捉えている。
氷と水の区別のように、「温度」という概念は二次的なもの。温度とは分子の平均エネルギーの現れにすぎない。分子のレベルで温度という概念は消滅する。
つまり、温度とはマクロな世界に住む我々が感じる幻想。空間もより根源的なものから現れる幻想であるというのが超弦理論。
我々の身の回りにある全ての物質は素粒子の標準模型に含まれる17種類の点粒子(素粒子)の組み合わせでできているとされているが、宇宙には正体がわからない暗黒物質と呼ばれる物質が標準模型に含まれる物質の5倍以上ある。17種類の素粒子のどれでもない未知の素粒子からできているわけなので、この先もっと新たな素粒子が見つかるだろう。
2011年、宇宙の膨張は加速している事が判り、物質の他にダークエネルギーの存在が暗示された。
自然界には重力、弱い力、電磁気力、強い力の4種類の力がある。重力は他の3つに比べてとても弱いので現在の素粒子実験での影響はほぼない。
強い力はクオークを互いに引きつけ合って陽子や中性子を作る力で、電磁気力よりも強い。
弱い力は原子核からの放射線の原因となる力で、電磁気力より弱い。
強い力だけは粒子同士が近づくと力が小さくなる。
磁石のように、離れても伝わる力のことを遠隔力と言い、「場」という概念はこの遠隔力を説明する為に考えられた。物体と物体の間には場という実体があり、それが力を伝えている。
磁気の力を伝えるのは磁場で、電気の力を伝えるのが電場。
物理学の定義では「場」とは空間の各点で値(力の大きさや方向)が決まっているもののこと。
19世紀の半ばにマクスウェルは電気と磁気をまとめた電磁場を説明する方程式を発見した。
電磁場が伝わる速さは光速。つまり光の正体とは電磁波の事。
電磁場において働く力の強さは距離の2乗に反比例する。(クーロンの法則)
光とは電磁波という波でもあるし、光子という粒の集まりでもある。これを双対性と呼ぶ。
一つの光子が電子と陽電子のペアに変わったり、また元に戻る事がある。
粒子同士が高エネルギーで衝突するとそこに質量の重いものが生まれ、加速器のエネルギーをどんどん上げていくとどんどん重力が大きくなりブラックホールができる。ここでは重力が極限まで重い為、光さえ飲み込まれる。
脱出速度が光速になってしまう表面の事を事象の地平線と呼ぶ。
超弦理論とは、弾力のある弦が振動し、その振動の仕方によって様々な素粒子が現れると考えるもの。全ての素粒子が1つの弦から現れる。
弦にはタリアテッレのような開いた弦と、ドーナツのような閉じた弦がある。
開いた弦の振動には電磁気力を伝える光子が含まれている。
弦の振動は縦波は振動していない状態と区別がつかないので横波しかない。
電場や磁場には向きがあり、その電場や磁場の大きさが変化する事で起きるのが電磁波。
電子が光を放出して別の電子がその光子を吸収すると、二つの電子の間には電磁気のクーロン力が伝わる。
重力の理論を量子力学と組み合わせると重力波の粒である重力子が予言される。
重力は重力子のやり取りによって伝わると考えられる。
当初の弦理論は力を伝えるボゾンだけで、それに物質の元になるフェルミオンも加わったのが超弦理論。
同じ数同士を掛けると答えがゼロになる数をグラスマン数と呼び、これを座標に使う空間を超空間と言う。この超空間によってフェルミオンを加える説明がついたのが超弦理論。
フェルミオンは一つの状態には一つの粒子しか入れない。これは一回掛けると0となって終わってしまうグラスマン数の性質に由来している。
普通の数の他にグラスマン数も座標として使う超空間では、グラスマン数で示される方向に振動する弦からフェルミオンが現れる。
普通に座標の方向に振動するとボゾンになる。
見る方向を変えても同じように見える時は回転対称と言う。
超空間に超対称性があるとボゾンとフェルミオンの間にも必然的に入れ替え可能な対称性が現れる。
我々は三次元空間ではなく、実は超次元空間に住んでいる。グラスマン数という不思議な数を座標に使う余剰次元が存在する。
物理学の理論の多くは次元数を選ばないが、超弦理論は9次元空間しか許されない。
電場があると、電子は電位の高い方に引き付けられる。
磁場があると電子はクルクル回ろうとする。
未知の世界を探求する人々は地図を持たない旅人。
素粒子はスピン(自転)しており、時計回りの素粒子だけに弱い力が働いている。
朝起きた時に今日1日数学をやるぞと思っているようではとてもものにならない。数学を考えながらいつの間にか眠り、朝、目が覚めた時にはすでに数学の世界に入ってなければいけない。
10という次元は超対称性を持つ理論を考える事のできる最大の次元であり、それは超重力理論のみ。
10次元の超重力理論の中には1次元の弦ではなく、二次元の拡がりを持つ膜がある。
10次元の空間に時間を入れると11次元の時空間となる。
10次元空間の中では二次元の膜と五次元に広がったものが絡みつく事ができる。
開いた弦はブラックホールの分子。
ミクロな基礎理論までいくと、温度も空間もその中に働く重力も本質的なものではない。
数学で空間を定義する要点は、二つの点の間が近いか遠いかを区別する事。近いと関係が強く、遠いと弱い。空間とは関係性のネットワーク。空間の次元とはネットワークの拡がり方の事。
自然科学の基礎には因果律があるが、ある時刻の状態によって過去も未来も全て決まってしまうのなら、過去や未来は現在とは独立していない事になる。