本書は、世界哲学史シリーズのふりかえりと、シリーズで語られなかった漏れを補完することが目的である。
見た目、各章の流れや、並べ方については、どうして、そうなっているのは、理解できませんでした。読むの長い時間がかかってしまいました。
<ふりかえり>
古代Ⅰ 世界と魂がテーマであった。世界哲学の始点をどこにおくか、それはギリシアである。哲学とは、ギリシアから始まる大系であることを始点におく。
古代Ⅱ ギリシアからローマへの流れとキリスト教の成立が軸となる。この時期に世界宗教が成立したことを捉えて、その成立には、聖なるテクストの整備が必要であったことを論じる。
中世Ⅰ 中世のはじまりと、古代が...続きを読む 用意してくれた哲学をつかみなおすこと、それが、ルネサンスへとつながっていくことを解説しています。それとイスラームへの考察。
中世Ⅱ トマス・アクィナスを例に「神学大全」を中世スコラ哲学とキリスト教との集大成といて論じています。この時代は、個人の覚醒という概念を次の時代につなげています。
中世Ⅲ バロック、大航海時代、宗教改革、利子の問題から、プロタンティズムへ。
近代Ⅰ 感情と理性の対立、啓蒙の世紀を扱います。科学が発展するにつれて、宗教は世俗化していきます。
近代Ⅱ マルクス主義、プラグマティズムの成立。ヨーロッパの列強による植民地主義は、現代までその禍根を残すことになります。キリスト以前の古代の発見、文献学、実証主義。
現代 20世紀は戦争の世紀であり、哲学は、ナチスなどの全体主義や、科学技術に対抗できずに、戦争という悲劇をもたらした。哲学はこうして、反省を強いられる。
<世界哲学と辺境>
哲学を内部と外部ととらえて、その境界を辺境ととらえ、辺境へとおもむくことを旅ととらえる。辺境と接し、刺激を受けることで新しい思考を生んでいく。
中央で生まれた宗教は、辺境に生きる落差に苦しむ人々を搾取から救済すること、それが普遍的な宗教と説く。
<世界哲学としての日本哲学>
まず、空海が紹介される。三蜜 身体・言語・心、関与しあう知の在り方を、空海は、世界哲学を実践したと語る。
つぎに、道元の正法眼蔵を扱う、荻生徂徠の先王の道、本居宣長の漢意(からごごろ)、和辻哲郎、西田幾太郎、鈴木大拙、井筒俊彦へと続く。
井筒は、再び、空海の真言密教の核心へともどってくる。日本の哲学を時系列に再構築したものである。
<世界哲学のスタイルと実践>
哲学を論ずるのは、その論理性からなのか、それとも、その哲学を記述している言語の文法からなのか、伝えられ、翻訳されたテキストをどう読み解くかという問題を扱っている。
<漏れ>
・ふりかえりに、近代の哲学は、デカルトに始まるという紹介があり、そこで、デカルトの情念論が、この冒頭にあるのであろうか。わからなかった。
・フランシスコ・ザビエル宜しく、イエズス会と中国との関連性が述べられている。それまで中国の原典までさかのぼっていなかった、中国研究は、四書におよぶようになるのである。
・考える私をめぐっての論議。鈴木大拙は、考える私を、空にすること、そして、シモーヌ・ヴェイユに対しても大拙の考えが受け継がれていく。「善は四方八方にあるのに、おまけにみずから身まで差し出しているのに、意志には善が見えない。意思をどれほど行使しても、善は手に入らず、みずからの力を放棄したときにようやく願いが始まる。」という考えが示されていた。
・インドの論理学についての紹介、インドの論理学は、「因明」といい、主張、論理因、実例の三項目かを提示するもの。インドでは、推論という形式の論理が、学術的基盤になっている。
・イスラームの聖典であるクルアーンはアラビア語でかかれていて、その論争は、本来の論理学と、アラビア語の文法の解釈からくるものとがある。それを言語神秘主義と、象徴文字論といっている。
・道元が再び登場する。「日本の生んだ最も偉大な哲学者のひとり」である道元の修行と悟りを軸として、自己とはなにか、世界とはどのようになりたつのかをかたっています。「自己をわするるといふは、万法証せらるるなり」。包括性、一貫性、透徹性、綿密性に富んだ道元の思想は、「正法眼蔵」を先駆として、西洋哲学と比較されていたことを語っている。
・ロシアの現代哲学、ロシアの知識人は、自らを、西洋哲学なのかそれとも東洋哲学なのか、という問いで悩みつづけている。ビサンチンに伝わった東方キリスト教は、ロシアにも伝えられで、西欧とはちがった発展をした。また、共産主義のもと、冷戦後は、近代の超克にも近い形での影響をうけた。
・イタリアの現代哲学は、フランスやドイツとちがって、国家の縛りをうけてこなかった。イタリアの哲学は、感性の学、思想からではなく、美学から出発していることを示される。
・ユダヤ哲学は、19世紀からのユダヤ人の西洋世界への同化の失敗と、大戦による、西洋的価値の崩壊という二重の危機に遭遇した。それゆえ、現代のユダヤ哲学は、西洋哲学を全面的に否定する。
・ナチスの農業政策については、アーリア人が森から平野にでてきた農耕民族であること「森への愛着」そして、血と土が語られてる。この場所のナチスの農業が挿入された理由はわからない。
・ポスト世俗化、チャールズ・テイラーを軸に、宗教と世俗の二分法がかたられている。
・モンゴル仏教について、共産主義を生き残ってきた僧侶については、現世の救済のためのシャマニズムとして生き残ったという話。宗教家ではなく、呪術師としてである。
・ジョン・ロールズの正義論がかたられています。脱西洋主義、聖徳太子の17条憲法、イスラームのサラディン王国、ネルソン・マンデラのタウンミーテイングが非西洋的な事例として紹介されている。
目次は以下の通りです。
はじめに
Ⅰ 世界哲学の過去・現在・未来
第1章 これからの哲学に向けて 「世界哲学史」全八巻を振り返る
1 「世界哲学史1 古代Ⅰ 知恵から愛知へ」
2 「世界哲学史2 古代Ⅱ 世界哲学の成立と展開」
3 「世界哲学史3 中世Ⅰ 超越と普遍に向けて」
4 「世界哲学史4 中世Ⅱ 個人の覚醒」
5 「世界哲学史5 中世Ⅲ バロックの哲学」
6 「世界哲学史6 近代Ⅰ 啓蒙と人間感情論」
7 「世界哲学史7 近代Ⅱ 自由と歴史的発展」
8 「世界哲学史8 現代 グローバル時代の知」
第2章 辺境から見た世界哲学
1 辺境から見た哲学
2 辺境とは何か
3 源泉としての辺境
4 哲学における辺境
5 非中心への希求としての世界哲学
第3章 世界哲学としての日本哲学
1 空海へのリフ
2 フィロロジー
3 世界崩壊と自我の縮小
4 古さはいくつあるのか
5 反復せよ、しかし反復してはならない
6 世界戦争と生
7 戦後の日本哲学の方位
第4章 世界哲学のスタイルと実践
1 哲学のスタイル
2 テクストと翻訳
3 世界哲学の実践
Ⅱ 世界哲学史のさらなる論点
第1章 デカルト「情念論」の射程
第2章 中国哲学情報のヨーロッパへの流入
第3章 シモーヌ・ヴェイユと鈴木大拙
第4章 インドの論理学
第5章 イスラームの言語哲学
第6章 道元の哲学
第7章 ロシアの現代哲学
第8章 イタリアの現代哲学
第9章 現代のユダヤ哲学
第10章 ナチスの農業思想
第11章 ポスト世俗化の哲学
第12章 モンゴルの仏教とシャーマニズム
第13章 正義論の哲学
あとがき
編・執筆者紹介
人名索引