作品一覧

  • P+D BOOKS 北の河
    4.0
    1巻715円 (税込)
    戦争ですべてを失った母の絶望と孤独。  昭和20年、すでに夫を喪い、家も戦火に焼かれてしまった母子が、遠縁を頼って東北の寒村に身を寄せる。だが、そこは安住の地ではなかった。  頼るべき知己もおらず、終戦後は都会に戻るという希望も断ち切られ、迫りくる厳しい冬を前に、母は自ら死を選ぶ……。ノンフィクション作品のような感情を抑えた筆致が、かえって読む人の想像を掻き立てる。  第54回芥川賞に輝いた表題作のほか、やはり身近な人の死をテーマにした「夏の日の影」「霧の湧く谷」、大学の二部に通う学生たちの葛藤を描いた「浅い眠りの夜」の三篇を収録。
  • 半日の放浪 高井有一自選短篇集
    3.5
    1巻1,254円 (税込)
    疎開先で入水した母の遺骸を凝っと見つめる、少年の目。二世帯住宅にするため、明日は家を取り壊すという日、嬉々とする妻をよそに、街に彷徨い出た初老の男の目。――戦争と母の自死を鮮烈に描いて文学的出発を告げた、芥川賞受賞作「北の河」、人も街も変質する世情への微妙な違和感を描く「半日の放浪」など、透徹した観察眼で昭和という時代を丸ごと凝視し続ける、高井有一の自選7短篇。
  • 遠い日の海
    -
    1巻660円 (税込)
    米軍の機銃掃射で両親を失い、孤独に生きる27歳の下嶽安芸子、家主の息子で新制高校生の槇枝静吾、その級友でラグビー部の花形・久慈史郎。3人の青春には、それぞれ戦争の傷痕が微妙に刻みこまれている。青春の友情、愛、絶望感に、社会の移ろいが濃密に投影していた昭和20年代を、精錬された手法文体で描く文芸作品。
  • 少年たちの戦場
    -
    1巻1,045円 (税込)
    「私は怖れていたのだ。私などが絶対に踏み込んでは行けない場所を頑なに守っている生徒という他人が怖かったのだ」――敗戦の色濃くなった昭和20年の初め、農村に学童疎開した34名の少年たちの、不安と飢えの日。最もおとなしいはずの生徒の脱走の波紋。没後見つかった引率教師の当時の日記に綴られた、激しく揺れる文字。少年らの裡に生まれる孤独を見据えて描く、鮮烈な秀作。
  • 時の潮
    3.0
    1巻1,463円 (税込)
    今日、昭和が終った。天皇崩御のニュースをきいて、近くの御用邸に記帳に出かけた。昭和に生まれた私は、私の時代が終わってしまったような気がした。元新聞記者の私は、10歳年下の共同生活者・真子と葉山に暮らし、四季を楽しんでいる。しかし、さまざまに形をかえて潮だまりが出現するように、二人の間にわだかまりがないわけではない。戦時下に生まれ、戦後を生きる男と女を静かに描く、野間文芸賞受賞作。
  • 立原正秋
    4.0
    1巻605円 (税込)
    独自の美学に貫かれた華やかな作家活動の背後に、秘められた二重の生涯があった……。日韓の狭間に生きた五十四年間に、六つの名前を持ち、年譜さえも虚実とりまぜて自ら創作せざるを得なかった、孤独な苦闘の軌跡。生れながらの日本人以上に日本人になろうとした、人間・立原正秋の哀しいまでに必死な生と死を、克明かつ友愛をこめて照らしだした画期的評伝。第33回毎日芸術賞受賞。
  • 時のながめ
    -
    1巻1,760円 (税込)
    郷里秋田の角館の山桜、六月の葉山の若い緑の木々、敬愛する唐木順三氏の信州の別荘から見はるかす富士。家を焼かれ逃げ惑った空襲の悪夢、終戦のあとに命を絶った母、尼になった叔母。田宮虎彦、藤枝静男、後藤明生、江藤淳、三浦哲郎、秋山駿……亡き友人知己への痛烈な想い。清冽な文章で書かれた、九年ぶりのエッセイ集。
  • この国の空
    3.5
    1巻605円 (税込)
    戦争末期の東京――空襲に怯え、明日をもしれぬ不安な日々を過ごす十九歳の里子。母と伯母と杉並の家に暮らす彼女の前に、妻子を疎開させた隣人・市毛が現れる。切迫する時代の空の下、身の回りの世話をするうち、里子と市毛はやがて密やかに結ばれるが……。戦時を生きる市井の人々の日常と一人の女性の成長を、端正な筆致で描き上げた長編文学作品。谷崎潤一郎賞受賞作。
  • この国の空

    Posted by ブクログ

    夏に読むべき本。といいつつ、長谷川博己様信者なので映画のビジュアルから入った不純な動機で読み始めました。
    戦争末期の物語というと悲惨さが際立つものが多いけれどこれは戦争末期をそれぞれの生き方で行き過ぎる人間模様を描いた小説だった。

    妻子を疎開させたアラフォー男子の市毛、母子家庭となり伯母と母の仲を取り持ちつつ生きる里子。裏表紙のあらすじにもある通り二人が通じあっちゃうわけなんだけれど、
    それがメインの不倫メロドラマというわけでもなく、ただ、昭和の男女関係という雰囲気は漂う。勝手ともいえず一途でもない。戦時下という特殊な状況でそれでも人の生きる力はすごい。

    この関係の捉え方が二人とも全然違っ

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    2022年07月05日
  • この国の空

    Posted by ブクログ


    読み始め一見ありきたりな戦争文学だと思ったが、静かで丁寧な筆致、主人公である少女のイノセントな感性に段々心を動かされた。
    戦時下という特殊な環境でしか育まれないであろう妻子持ちの隣人市毛との関係、大人と子供で絶望的に乖離している孤独や恐怖、読みどころは沢山あり満足できた。
    シームレスに入る回想で少し迷子になるが、読後感も素晴らしい納得の谷崎賞受賞作。

    0
    2023年12月30日
  • P+D BOOKS 北の河

    Posted by ブクログ

    朝日新聞の文学紀行での1冊である。北の河のなかでは、東北地方のどこかが全くわからない。他の短編でも自分の父親、叔父の死がテーマである。最後の浅い眠りの夜では、死ではなく、自分が二部の授業を受けている大学で警官に殴られて入院しているという状況が説明されている。
     大学生が読んで共感を受けるかどうかは不明である。

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    2023年11月24日
  • この国の空

    Posted by ブクログ

    太平洋戦争末期の東京・杉並に暮らす19歳の里子の日常が、淡々と粛々と綴られる。すっかり最近(……というのは少なくとも平成)の作品かと思っていたんだけど、読むのも終盤になってから1983年に発表された作品だったことを知った。それがわかると何となく、小説らしい小説だなと思いながら読んでいたのの裏づけがとれたような気がする。
    「小説らしい小説」とは、三人称で書かれていること、情景や心情の描写が多く占めること、「 」(会話)が延々と続くことがないことといったところだろうか。悪く言い換えれば古くさい小説ということになってしまうだろうけど、きちんと練られたストーリーと書きぶりに、淡々・粛々としていながらあ

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    2022年01月23日
  • 半日の放浪 高井有一自選短篇集

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    北の河がほんとうに読んでよかった作品だった。言葉にならない部分を情景(東北の冷たい河)が補う。そういう意味で完璧なバランスの上に成り立っていたように思う。起こってしまったこと(戦争によるそれまでの生活の崩壊)をそういうものだと受け取れる15歳の僕と、これまでとは明らかに変わってしまったと考える母。この決定的な違いを話の中に見れた気がした。だから母は息子とふたりで生きていかなければならないこの先について耐えられなく思い、命を絶つ。15歳の僕にはどうしようもできない。そのどうしようもなさが手に取るように分かる。描かれているすべての情景や空気感が、この話の核を包括している。あるべくしてある小説だこれ

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    2021年04月30日

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