国内小説 - 講談社 - 小田実全集作品一覧

  • 「アボジ」を踏む 【小田実全集】
    -
    震災後に書いた「ぼくは生まで帰る」から始まる表題作は、三十年に一度と言われる名作として川端康成文学賞の審査員たちをうならせた。「アボジ」の済州島での野辺の送りは万葉集やホメロスの時代の葬送を彷彿とさせる。太平洋戦争やナチの強制収容所、大震災で無念のうちに死んでいった人の記憶を刻む『「三千軍兵」の墓』の他、1957年、63年、74年、80年、87年に書かれた五つを含む計七篇の短篇。人間がそれぞれの時代に遭遇する戦争、国境、漂泊、死を見つめた「短篇全体小説集」。
  • 暗潮/玉砕 【小田実全集】
    -
    1930年代末、大阪の町に戦争の影がしのびより、庶民の暮らしぶりも変っていく。『暗潮』は、著者の「大阪物語」の第2部として書かれた。第1部は『風河』。外地で展開されていた日本の戦争の潮は、ひたひたと主人公たちを呑みこんでいく。著者が生涯追い求めてきたテーマ「戦争と平和主義」を最上の文学作品に昇華させた『玉砕』は、ドナルド・キーン氏の英訳、英国BBCラジオのドラマ化によって全世界に知れ渡る――おぞましき戦争の本質と無意味を現代に問う「戦争文学」の傑作。
  • 生きとし生けるものは 【小田実全集】
    -
    かつて南洋の島々は、日米死闘の地だった。もっとその前はスペイン、ドイツの植民地。今はアメリカの戦略的基地だ。その間、現住民の名前も生活も次々と変っていった。バブル絶頂期の日本で南洋出身の力士を集め、相撲のリーグ戦を考えついた85歳の会社経営者は、南海の島にリゾート施設をつくろうと現地へ乗りこむ。現住民に「平和と繁栄、幸福」を約束するといきまいたが、物語の結末で見るドンデン返しは圧巻。痛快で機知に富む笑い、倒錯する想像力、悪ふざけ、諷刺喜劇の傑作。
  • XYZ 【小田実全集】
    -
    1巻1,320円 (税込)
    「東西ベルリンの壁」を越えようと殺された主人公は甦り、ナチ時代を彷徨する。普段の日常の流れや命を突然奪う戦争の悲惨は、やがてトロイア戦争や「メロスの虐殺」で殺された者たちを甦らせる。「生老病死」の命の完結を途中で断たれる誇り高き魂のアプロディテ。古代ギリシアのスーパースターたちの名前をもつ登場人物や昔の家具調度、服飾品。自由と民主主義を旗印に戦争や侵略をくり返した古代国家の様相は、現代世界を生き写す鏡。紀元前から現代に至る戦争歴史をたどる圧巻小説。
  • 大阪シンフォニー 【小田実全集】
    -
    1巻1,320円 (税込)
    焼跡には瓦礫の堆積で出来た30センチの高さが残る。大阪大空襲による死者の亡骸と魂がコヤシとなって残る廃墟は、戦争の跡地。悲惨も何もかも飲み込んだ焦土の上に生きのびるため、前代未聞の「闇市コミューン」をつくろうと奔走する戦災孤児マルコ・ポーロとクレオパトラ、その仲間たち。愛すべき彼らは恐るべき子供たちなのか、それとも歴史の証言者なのか。甘苦くも、端正な力強さで奏で上げる交響曲は、あの戦争と難死の意味を問いつづけて鳴りやまない。知りたかった、大阪物語。
  • 終らない旅 【小田実全集】
    -
    1巻1,540円 (税込)
    久美子の父は阪神大震災で、ジーンの母は「9・11」後、共に死ぬ。ジーンの突然の訪日で次々と明かされる娘たちの親の日米を挟んだ秘められた偕老同穴の結婚の夢。長い時間をかけ、国境を越え人はなぜ人を愛するのか。人間の姿、愛の形を縦糸に、大阪大空襲からベトナム戦争、「9・11」等、父が生きた戦後史の時空を静かに娘へ語りつぐ哲学的小説。普通の人びとの力は微力だが無力ではない。西洋の「動」に対して東洋の「静」のもつ力。ベトナム反戦運動の文明史的意義は生き続ける。
  • 海冥 【小田実全集】 太平洋戦争にかかわる十六の短篇
    -
    果てしなく広がる太平洋の島々で、日米の戦争があった。細長い極限のジャングル、絶海の孤島での激戦は、兵士や軍属を次々と「玉砕」や餓死へ追いやる。太平洋での海の戦争は、やがて空の戦争に変り日本を空爆。それは地上を焼きつくす土の戦争となった。戦場の勇者、帝国臣民として駆り出された植民地出身者ら全ての戦死者の屍が眠る戦場の海。太平洋が著者に語った無数の、縄のようにもつれた「流民」の話。戦後に生きる普通の人びとの切っても切れない、戦争の影を追った16の短篇。
  • 河(上) 【小田実全集】
    -
    1~3巻1,980円 (税込)
    日清・日露戦争、大逆事件、富国強兵へと邁進する激動の20世紀初頭の日本で少年主人公・重夫は朝鮮人の父と日本人の母のもとに生まれる。関東大震災で生き別れた父の後を追って母とともに神戸、上海、広州へと移り住む。アジアの独立をもとめてたたかう中国、朝鮮、インドシナの人々、そして彼らを助ける日本人、米国人、アイルランド人など、東アジアの近現代史という「河」に鳴り響く、人間の涙と血と愛がいっぱい詰った未完成交響楽物語。小田文学が到達した六千枚のライフワーク。
  • ガ島 【小田実全集】
    -
    1巻1,100円 (税込)
    1973年頃、大阪のうまくて安いトンカツ屋チェーン店の主人西川と妻の姉キヨ子が、香港旅行の時、マカオで知り合った若い不動産屋中島に誘われて南海の孤島「ガ島」へ行く。三人は、島で出会ったドイツ人青年と共にかつては「人食い人種」が住んだというジャングル奥地の部族を訪ねる。読者は、登場人物たちのドタバタ喜劇の語り口に導かれ、部族の神話やジャングルの精と出会うことになる。が、物語の裡に隠された真実は、日米戦場の島ガダルカナルに眠る、兵士の遺骨拾いの旅だった。
  • 義務としての旅 【小田実全集】
    -
    本書は、著者が1965年9月から翌年9月まで、ミシガン大学で開かれたベトナム反戦の国際集会に出たのを皮切りに、アメリカ、ソ連、ヨーロッパ、インドなどを回り、各国の反戦運動を担う人々と出会う中で感じた思いや悩み、もどかしさを一冊の書物のかたちで差し出した。一人の作家が、自ら拠って立つ平和思想に基づいて、ベトナム戦争という「汚い戦争」をどのように受けとめかねているか、その苦しみの一つの中間報告である。冒頭の「十三の星の星条旗」は、とりわけ印象深く象徴的。
  • くだく うめく わらう 【小田実全集】
    -
    「人間の死は石膏の塊で、生は水の広がりだろう」。人の世の無常、はかなさを深い愛着をもって書き砕く「震災文学」。父の死から30年近くたって初めて書く父と息子の姿。ベトナム戦争の終りと母親の死。娘を伯母や従兄弟に会わせるために行った北朝鮮旅行。震災二年後、人工島の高層ビルに隣接する仮設住宅に住みながら花を植える老人と孤独死。地震から生き残っても、二重ローンや生活苦に喘ぐ被災者。自らの家族を描いた物語三つと、被災地における生者と死者の物語四つの短編集。
  • 玄 【小田実全集】
    -
    アメリカは世界中から移民がやってくる何でもありで、何でも自由な国。60歳半ばの主人公ミネは、乳癌を患う中、昔愛したアンという名の異者(女装者)に会うためNYへ。アンは生物学的には80歳近い男。二人の清潔で透明な逢瀬には性的倒錯者のコンプレックスはなく、「性交」描写は、まるで上品な会話場面。自由の象徴である「異装異者」と共鳴する追憶は、太平洋戦争、朝鮮戦争、ベトナム戦争、そして中国の文革にまで及ぶ。ゲイ文化が写す、時代に翻弄される人間の悲しみと怒り。
  • 現代史(上) 【小田実全集】
    -
    1~2巻1,760円 (税込)
    この小説は、日本が若かった1964年東京オリンピックの頃から約1年間を背景に、共産圏との貿易に成功した大阪の造船会社社長一族の物語。若くて美しいヒロインが恋愛と見合いを通じて少しずつ成長をとげる丁寧な心理描写は、その時代を動かしているさまざまな階層の人間たちが次々と登場することとあいまって、小説の醍醐味を放つ。小説としての面白さとともに、風俗、国際関係、そして歴史や社会的関係性の中で重層的に日常を生きる人間の総体は、今の日本社会の出発点を照らし出す。
  • 子供たちの戦争 【小田実全集】
    -
    戦争は、戦争が始まる前と後を考えることが大事だ。満州事変、日中戦争、太平洋戦争、そして大阪大空襲で終る敗戦までの15年間、多感な少年が戦争を克明に見つづけた。子供の世界は大人の世界の鏡。最初、戦争はいつも日本の外で行われていたが、戦況が険しくなる頃、外での戦争は日本の中にも入ってきた。戦争による階級の逆転、強さへの憧憬は、いともたやすく戦争文化を鼓吹し、無垢な子供心を殺伐とさせる。9・11で幕開けした21世紀の初頭に子供の眼で「15年戦争」を描く短編集。
  • さかさ吊りの穴 【小田実全集】
    -
    世界の多くの国を歩き考えた著者が、65歳になって過去をはるかに見やる感動の短編12篇。美しかりし幼年時代に初めて出会った「西洋」の記憶、太平洋戦争時の「玉砕」の島々、ナチ・ドイツとベルリン、四天王寺と脱走兵、自爆攻撃とパレスチナ、知覧、古代ローマの饗宴と現代の餓死、旅券と国家、中国の乱世の英雄、インドの聖者、兵士と武器、戦争の悲しみとむなしさ。そして万国共通語としての英語は、世界各国のしがらみを削ぎ落とした本質的な言葉であり、母語もその中で磨かれる。
  • 「鎖国」の文学 【小田実全集】
    -
    1971年から75年にかけて書きつがれた著者渾身の文学論。高橋和巳の死から始まってソクラテスやアリストパネス、三島由紀夫、吉田健一、そして「戦後文学」、プロレタリア文学、さらには当時の流行文学や在日朝鮮人文学をも射程に入れた独自の視点。文学にとって大事なものは、私の「眼」と他者の「眼」をもつこと、文学の行為者は社会を観察する者であると同時に社会から観察されている、そして、「私」と「われら」の関係性を閉鎖的にするのでなく、それを「みんな」に開くことだ。
  • D/ベルリン物語 【小田実全集】
    -
    1巻1,100円 (税込)
    『D』は、世界の米軍基地を渡り歩いた末、日本で脱走した米兵トニイが現世を脱したがなかなか極楽へ入れず途中の路地で右往左往する物語。ワケありのおばあちゃんが彼とその恋人を助けようと最後に東大寺へ立てこもるが…。聖と俗、滑稽と悲哀の喜劇ロマン。『ベルリン物語』は、主人公が壁の都のあちこちで「昭和の少国民」であった自分の幼少期を思い出す話。竹馬の友、ドイツ好きの父、御堂筋、デパート。過去には見えなかった大切なものを家族との日常の中で掬いとった私的小説。
  • 羽なければ 【小田実全集】
    -
    かつては軍隊経験をもち、敗戦後は闇商売から転じて造船会社勤めを終えた老主人公は、典型的な大阪庶民。老人のモットーは、「人生のコツは、柳に風、ノレンに腕押し、降参したと見せかけてねちねちと生きることですわ。」だ。七十近くのこの老人と、十六歳の岡本あつ子が繰り広げる奇妙な関係は、べっとりとした人情のなかにひそむ「差別」をあぶり出してくれる。この作品は、小説のプロローグにある鴨長明の『方丈記』の一節のように、人間ははかないが、出会いはもっと美しいと歌っている。
  • 冷え物 【小田実全集】
    -
    悲劇作品には、感情をゆさぶり泣かせるものと、何かもどかしい重苦しさを引きずるものとがある。「差別」問題に鋭く対峙して取り組んだこの作品は、大阪を舞台に日本社会の底辺に生きる「善良な」人たちのあいだにひそむ「差別」の心理や構造の奥襞に、虚飾なく分け入って描き出された、哀しくも緊張感みなぎる、1968年の「反差別文学」だ。「差別」問題を「世の中の問題」にしたいと願っていた著者の思いは、小説とともに自らの作品思想と、作品に対する批判を合わせ入れることで実現した。
  • HIROSHIMA 【小田実全集】
    -
    1巻1,100円 (税込)
    主人公の「馳ける男」は、世界初の原爆実験があった米国南部出身者。戦闘機乗員として対日戦に参加、撃墜され捕虜となり広島で被爆。広島では日本人、植民地出身者の朝鮮人、日系アメリカ人もともに被爆する。日米が引きおこした戦争に個人が巻き込まれる時、国家のわくを越えて被害者が加害者、加害者が被害者となる複雑な歴史の現実を寓話性に託しながら独自に構築した名作。原子力の恐怖、現代の「核」に新たな光をあてた衝撃作は、英訳本、BBCラジオ劇(1996年)にもなった。
  • 風河 【小田実全集】
    -
    閉塞感と戦争の足音が鳴り響く昭和八、九年の大阪。「日韓併合」の下、植民地から渡日した朝鮮人医学生と日本人女学生の愛とその破滅を描いた物語は、天王寺の五重の塔を倒壊させた室戸台風で幕を閉じる。戦前の日本と朝鮮半島に横たわる歴史的矛盾は、禁断の「暗い風の河」となって愛する者たちを切り裂く。少女が見た昭和初期の大阪。大人の生活空間、極楽と現世を象徴する天王寺の西門、そして四季折々の祭事や子供の遊び、小旅行。心を揺さぶる郷愁と時代への諷喩がここにある。
  • 深い音 【小田実全集】
    -
    アルミのパイプ椅子がある明るいフルーツパーラーは家族づれや女子高生らの笑い声でいつもいっぱいだった――都会で一人で暮らす中年女・橋本園子の地震前までの記憶だ。ゴウッという深い音を聞いた園子は地震の瓦礫の中から救出され病院へ運ばれる。病室で会った命の恩人黒川と隣のベッドの芳美との出会いは園子を思わぬ出来事に巻き込むが、阪神大震災後の孤独感や悲しみを共有する三人は、やがて心を開き支え合う間柄になる。人間の悔い、死者への追悼、向き合い方が滴り滲む長編。
  • ベトナムから遠く離れて(上) 【小田実全集】
    -
    1~3巻2,200円 (税込)
    1980年代、世界初の海上埋め立て都市をもつ一港都に、異人館で高級仕立屋を営む女主人公と家族、縁者、風変りな外国人が蠢く。抱腹絶倒の過剰な性の倒錯、欲望、虚栄が渦まく中、人は何のために生きているのか? と問うようにベトナム戦争の影がつきまとう。かつて「ベトナム」は世界の中心だったがもう誰もふれようとしない。ベトナムから遠く離れた世界、人間はどこへ行くのか? ディエンビエンフー、パリ、カマウ岬、メコン河……。バブル時代と人間の悲喜劇を描いた傑作長編。
  • 円いひっぴい(上) 【小田実全集】
    -
    1~2巻1,540円 (税込)
    主人公の安井は、52歳で会社の中間管理職。戦中も戦後も保身のためには「うるさいやつ、いやなやつにならんことや」が口ぐせ。ある日、前妻ミツ代の養子“円いひっぴい”が次々ともち込む事件に巻き込まれていく。“円いひっぴい”は日本人と米兵の混血児で人気歌手。秀れた才能と人間らしい心をもつが、社会の仕組みとぶつかり、グアムに世界中の少数者のためのコミューンをつくろうとする。庶民の中心をなす、保守的中間層の心理と感覚、倫理と思考をくらしの言葉、大阪弁で精密に描く。
  • 列人列景 【小田実全集】
    -
    1巻1,100円 (税込)
    1970年代の半ばに書かれた著者初の短編小説連作集。40をすぎた「タダの人」を主人公に、人間にとって切実なテーマである原風景、愛、性、志、生老病死を魅力的なタイトルのもとに描く。性的「見せもの」、いろんな人が来るデモ行進、聖と俗のガンジス河、砂漠の国の不思議、人混みの中の大仏、日本と第三世界交渉史、歴史的陰影をもつ異邦人の在日朝鮮人、人生のほとんどを旅して歩いた西行の景色……。それら人間の列と風景の列が短編のひとつひとつとなって連なっていく絵巻物。

最近チェックした本