木村敏作品一覧

  • あいだ
    4.0
    自己が生命の根拠に支えられて世界と出会う行為的原理である「あいだ」。その構造を、ゲシュタルトクライス理論に拠りつつ、ノエマ・ノエシスの円環的関係を西田哲学の「行為的直観」と関連づけて、多面的に解き明かす。自己が主体として生きるということは、生命一般の根拠の「おのずから」の動きにかかわると同時に、間主体的な世界を維持することではないか。ユクスキュル、ブーバー、レヴィナスらへの言及を通じて自他の関係を考察し、ダブル・バインド仮説の可能性を改めて問う。独自の学問的地平を切り拓いた著者の世界をわかりやすく示す。
  • 異常の構造
    4.5
    臨床の場に身を置きつづけながら、綺羅星のような著作および翻訳を遺した稀代の精神病理学者木村敏(1931-2021年)。その創造性は世界的に見ても人後に落ちない。 著者の名を世に広く知らしめるとともに、社会精神医学的な雰囲気を濃く帯びていることで、数ある著作のなかでもひときわ異彩を放つ名著に、畏友・渡辺哲夫による渾身の解説を収録。 「異常」が集団のなかでいかに生み出され、また「異常」とされた人々のうちでなにが生じているのか、社会および個人がはらむ「異常の構造」が克明に描かれる。私たちはなぜ「異常」、とりわけ「精神の異常」に対して深い関心と不安を持たざるを得ないのか。「自然は合理的である」という虚構に支配された近代社会が、多数者からの逸脱をいかに異常として感知し排除するのか。同時に患者のうちで「常識の枠組み」はどのように解体され、またそのことがなぜ「正常人」の常識的日常性を脅かさずにはおかないのか――。 「あとがき」に刻印された「正常人」でしかありえない精神科医としての著者の葛藤は、社会における「異常」の意味を、そして人間が生きることの意味を今なお私たちに問いかけ続けている。(原本:講談社現代新書、1973年) 【本書の内容】 1 現代と異常 2 異常の意味 3 常識の意味 4 常識の病理としての精神分裂病 5 ブランケンブルクの症例アンネ 6 妄想における常識の解体 7 常識的日常世界の「世界公式」 8 精神分裂病者の論理構造 9 合理性の根拠 10 異常の根源 あとがき 解 説(渡辺哲夫)
  • からだ・こころ・生命
    4.0
    著者は、常に臨床の現場に身をおきながら精神病理学と哲学を往還する独創的な学問的地平を切り拓いてきた。症例分析を通じて「もの/こと」や「あいだ」といった柔軟かつ強靱な概念装置を創出し、独自の自己論、時間論を展開、その思索は生命の根拠の探究へと旋回する。「からだ」と「こころ」はどのように関係しあっているのか。「生きる」とは、そして「死」とは? 木村生命論の内実と射程を雄弁に語る好著。解説:野家啓一 (講談社学術文庫)
  • 新編 分裂病の現象学
    5.0
    実践的な臨床の経験から、分裂病(統合失調症)を治療すべき異常なものとする論理に与することなく、人間という矛盾に満ちた存在そのものに内在している自己分裂に根差したものとする地平から紡ぎだされた珠玉の初期論文。西田哲学における自‐他論や時間論を敷衍し、分裂病者の自閉性や体験の基本的構造に注目することにより、自我障碍よりも人と人との「あいだ」における自己の自己性の危機、自己と身体との乖離を論じる。
  • 時間と自己
    4.4
    時間という現象と、私が私自身であるということは、 厳密に一致する。自己や時間を「もの」ではなく「こと」として捉えることによって、西洋的独我論を一気に超えた著者は、時間と個我の同時的誕生をあざやかに跡づけ、さらに、ふつうは健全な均衡のもとに蔽われている時間の根源的諸様態を、狂気の中に見てとる。前夜祭的時間、あとの祭的時間、そして永遠の今に生きる祝祭的時間――「生の源泉としての大いなる死」がここに現前する。
  • 自己・あいだ・時間 ──現象学的精神病理学
    5.0
    精神の病態を一時的な疾患としてではなく人生全体の示す歴史的な歩みとして位置づけ、独自の思想を重ねてきた著者の代表的論考のかずかず。自己と他者の「あいだ」の病態として捉えられてきた分裂病を、「時間」の病態として、現象学的な思索を展開する。とりわけ鬱病者の“あとのまつり”的体制に対し、分裂病者が“前夜祭”的な時間体制をもつという新しい構図は世界的に大きな波紋を広げた。他者や世界との「あいだ」、自己自身との「あいだ」の歴史性における患者の生のあり方を追究した本書は、精神病理学と哲学を自由に横断する独創的な学問的達成であるといえよう。
  • 自分ということ
    3.0
    「自己」とか「自分」とは、私たち個人の内部的ななにものかだろうか。自分の「自」は「おのずから」の「自然」となり、また「みずから」の「自分」となり、両者の間で根源的な生命は躍動する。自己あるいは自分とは、私の内部にあるものではなくて、私と世界との、総じて人と人との「あいだ」にあるのだ。自己の自己性にかかわる危機として分裂病(統合失調症)や離人症を取り上げ、「あいだ」の時間性や、自己の「もの」的ありよう・「こと」的ありように光を当てる。著者の内面の歴史を背景に語られる木村哲学への最初の一歩。
  • 分裂病と他者
    -
    精神病理から人間存在の本質にいたる思索をさらに深め、分裂病者にとっての「他者」の問題を徹底して掘り下げた木村精神病理学の画期をなす論考。ハイデッガー、西田幾多郎らに加え、デリダ、ラカン、レヴィナスなどの構造主義と正面からわたり合い、自己と他者との関係のありかたを「あいだ=いま」という本質的な項を媒介として見つめ直す。研ぎ澄まされた治療感覚をもって、患者の生き方を知覚し、治癒をめざして真摯な長い対話を重ねる著者の思策と営為。今、「臨床哲学」の地平が開かれる。

最近チェックした本