【感想・ネタバレ】土に贖うのレビュー

ユーザーレビュー

Posted by ブクログ 2020年02月19日

抗えない時代の流れの中で衰退していく産業を生業として生きた北海道の人々を描いた短編集。
養蚕、ミンクの毛皮、ハッカ油、アホウドリの羽毛、蹄鉄、煉瓦をモチーフに、人と自然の関わりの中で人生の悲喜が丁寧に描かれている。
自然は観賞するものでも、動物は愛玩するものでもなく、生きるという本質で関わっている。...続きを読む

『颶風の王』『肉弾』そして本作品と、一貫して「生きる」とはなにか問続けられている。生きる、生き抜くことは辛く哀しく、そして尊いと。
「贖う」とは、自ら生きるために搾取した他の生への償いの意味と同時に、代償を払ってまでも手にいれなければならない生きる哀しみなのだろうか。
物質的豊かさを享受してきた私たちは、この「贖う」の意味を見失ってしまったのでないかと、読み終わった後も考え続けている。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2020年01月26日

7編の短編集ですが、短編と呼ぶにはもったいない重厚感。よく歴史を調べて勉強されて作品に昇華されたのだなと尊敬いたします。北海道にはまだまだ題材になるものが眠っていると思います。
誰かがいつか、こういう話を書くだろうと思っていましたが、思いがけない若い方からそういう人が出てこられた。
今後は羊飼いをや...続きを読むめて、専業作家になられるとのこと。
文章が丹精で、言葉もよく選ばれているし、方言も検証されているでしょう。タイトルのセンスも素晴らしい。並んでいるタイトルを見るだけで、この人が並みの作家でないことが伝わります。
今まで誰も書けなかった北海道の話をこの方はまだまだこれから紡いでいくだろうと思います。これからの日本の文学を牽引する一人になっていく方だと私は感じます。

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Posted by ブクログ 2020年01月05日

養蚕、ミンク養殖、ハッカ栽培、煉瓦製造など、北海道の地場産業を巡る人々の何とも切ない話。連作集。

北海道というと自分には広い大地と大空、観光地のイメージが大きい。だが本書を読むと開拓の歴史があったことを教えてくれる。寒い気候、決して豊穣とはあえない土地。そんな土地にしがみついて生きてきた名もなき市...続きを読む井の人々。経済構造の変化に巻き込まれていく。

一つ一つの話が実に切ない。

楽園を追われたアダムとイブ。大地にしがみついて雑草や害虫、気候変動と大地大地闘っていかねばならない。そんな情景が思い浮かぶ。人の原罪について考えさせられた。

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Posted by ブクログ 2019年11月07日

北海道で羊飼いをしながら執筆をしている河﨑秋子さんの短編集。どの話にも共通しているのは、いまはもう廃れてしまった仕事に従事する人を描いているということ。養蚕、ハッカ栽培、馬での農耕、レンガ作りなど…。厳しい労働と対峙しながら必死に生きる人の姿が胸を打つのだが、これは昔の北海道だけの風景ではなく、現代...続きを読むの日本どこでも仕事は移り変わっていっている。現代では仕事と人生が切り離されて考えることも可能だけれど、それでも暮らしを支える生業の存在は大きい。生きることそのものを考えさせれた。

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Posted by ブクログ 2019年11月03日

なんとも言えない、複雑な読後感。
力強く、泥臭く、リアリティが凄まじい。それでいて繊細な心の動きも描かれている。それぞれ7話の物語。

過去のものとなった、数々の産業、ハッカ、レンガ、陶器。開拓と生業に使われたミンク、海鳥、馬などの動物たち。
今なお新たな意味を持って続いている産業もあるが、過去とな...続きを読むったものには、動物たちの悲哀が溢れている。

ここに創作の上でのファンタジーは感じられない。いろいろなことを曖昧にしたまま生きている私には、堪え難い描写もあった。しかし、人の運命、人生、心の動きには創作の妙が随所にあって、唸らされた。どれも中編なのに重厚な読み応えがある。

産業動物として羊を飼い、生業としてきた作者には、生き物への揺るぎない生死感があり、現実の重みがある。
私にはそれがない。そのことを実感することは、おそらく一生できないが、小説を通じて触れることができ、考えることはできる。

昭和40年代まで、根室、オホーツク地方には電気が来ていない場所があった。本多勝一郎の「北海道探検記」(探検、ですよ!)を読んだ時、そこに生きる人の姿に愕然とした。
折しも高度成長期、都会ではものが溢れ始め、消費に突き進んでいた。しかし、北国では生きるために冬場の出稼ぎが当たり前だった。そのことを思い出すと、明治を描いたこの小説から、ほとんど時代の差を感じられなかった。
消費するばかりの都会の生活を享受している我々に、強烈なカウンターパンチをくれる作者から、これからも目が離せない。デビュー作「颶風の王」、「肉弾」と、一作ごとに確かな手応えが増していくのも素晴らしい。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2019年10月05日

鬱蒼とした森林だった土地を木一本、草一束から一つ一つ抜いて畑にする。
人さえも踏み入れたことのない"無"の状態を"有"の状態へと発展させ、その土地に適した産業を自らの手で興す。
自分達が日々を生き抜くためだけでなく、未来の子孫にも脈々と受け継がせるために。

...続きを読む北海道を舞台にした7編の短編集。
北の大地は容赦がない。
自然の理を前に夢敗れ足掻く者も少なくないのが厳しい実情。
それでも簡単には諦めない、先人達の開拓者精神には本当に頭が下がる。
「しぶてえよ。でないと生きていかれない」
先人達の持つ誇り、強かさ。
努力して何かを産もうとする開拓者精神のない現代の我々に勝ち目はない。

蚕、ミンク、ハッカ、羽毛、装蹄、レンガ…昔から当たり前にある産業の数々は、先人達の並々ならぬ自然との闘いの産物。
けれどその結果は決していいことばかりではない。
あんなに苦労したのに時代とともに廃れたもの、良かれと信じて興したことが未来で思いも寄らない事態を生んだこともまた事実。
タイトルに付けられた『贖い』はそんな先人達への鎮魂のような気がしてならない。

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Posted by ブクログ 2019年09月23日

1979年、北海道別海町生まれ、河﨑秋子さんの作品、骨太です。はずれなし。魂を揺さぶられる作品、いつも吸い込まれています!「土に贖う(あがなう)」、2019.9発行。蛹(さなぎ)の家、頸(くび)冷える、翠(みどり)に蔓延(はびこ)る、南北海鳥異聞、うまねむる、土に贖(あがな)う、温(ぬく)む骨の7話...続きを読む。生糸、ミンク(毛皮)、北見のハッカ、アホウドリ(羽毛)、馬の蹄鉄、赤レンガ、陶芸をテーマに、北海道で暮らす人々の生きて行く上での苦労と苦悶、そして開き直りの強さが描かれています。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2019年09月23日

明治から昭和の時代の北海道
ミンク毛皮コートのための殺生、極北のシベリア抑留で毛皮に生かされた話、正しさを問われると答えられない。
ハッカ栽培農家の努力と意地と作物を生産するということ、生活のための経済活動と、
アホウドリの羽毛を捕るのに撲殺を楽しむ男
江刺市の春の匂い馬糞風 馬だげが偉い
野幌粘土...続きを読む 赤レンガの製造
人と動物の、骨と血と汗と涙の土で造り出す
陶芸、北海道の大地の土を拓く。

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Posted by ブクログ 2020年03月11日

すっかり追っかけるべき作家として登録されてしまいました。「肉弾」「颶風の王」に続き本作もまた地に足がついて根が生えたような佳作でありました。
短編であり、通底した主人公は北海道の肥沃で厳しい大地そのもの。今では廃れつつも、当時は隆盛を極めた一次産業に従事する人々の姿を、力を込めた筆致でがしがし書いて...続きを読むいます。
まだ労働者の権利云々なんて微塵もない時代から、額に汗して寡黙に働き続けてきた人々。これは北海道だけでは無くて、我らがご先祖様たちが綿々とつなげてきた命の歴史でもあります。
どれもこれも救いが特にあるわけではないのですが、その後今の我々につながっていくというストーリーの元なので、その先には彼らにはまだ見えない光が有ることを我々は知っています。そう意味で他人事ではなく等しく身内を思いやれるそういう本かもしれません。

残酷な話もあるし、今となってはそう意味で廃れた産業も多いです。生き物たちの命を糧に人間世界を発展させてきた事は否めませんし、そもそも色々なものを絶滅させてきた人間社会全体がそういうものだと思います。

過去に思いを馳せる時に必要なものは想像力です。どういう風に生きて死んでいったのかは、ドキュメンタリーよりもこういった小説の方が圧倒的に体にしみ込んできます。魂の入った創作は本物に匹敵します。

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Posted by ブクログ 2020年02月21日

明治から昭和にかけて、厳寒の北海道の各地で、地を這うような地道でひたむきな人々の歩みがあった
しぶとく、しぶとく。しぶとくないと生きていかれない労働の末に、自分たちが作ったものが世界市場の中核を成し、巨万の富で町をにぎやかに染め上げていた時代があった

養蚕、ミンク、ハッカ油、羽毛、蹄鉄、煉瓦・・
...続きを読む自分たちが絹の着物に手を通したり、ミンクの毛皮を羽織ることも、羽飾りのついた帽子をかぶることも、煉瓦造りの家に住むこともない貧しい日々の暮らしの中で生み出された産業

しかし、これらが近代産業の柱として日本を支えたことは確かだ
今は過去の栄光として忘れ去られようとしている
忘れるどころか、知りもしなかった
しかし、忘れまい

北海道だけでなく、日本各地にその土地に根ざした人々の労働の歩みがあったはず
衰退したものもあれば、地場産業として今に受け継がれているものもあるだろう
ともすれば未来に繋がる技術革新に目を奪われがちだが、ひととき、こんな人々の歩みの上に今の日本が成り立っているのだということを思い起こすことができた

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2019年11月30日

短編集。「土に贖う」と「温む骨」は連作。
北海道。札幌。野付半島。茨散。北見。江別。野幌。
産業。養蚕。養狐。農業。陶芸。
ミンク。毛皮。ハッカ。羽毛。アホウドリ。白鳥。オオミズナギドリ。
馬。馬搬。蹄鉄。レンガ。陶芸。
明治。昭和。平成。戦争。死。

容赦がない現実と生活。
「頸、冷える」は最初の...続きを読む登場人物を孝文かと思っていて、最後ドキッとした。

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Posted by ブクログ 2019年11月12日

北海道を舞台に、開拓後、主に明治後期に隆盛を極めた後、衰退をたどった産業の担い手たちの、過酷で哀しい6編(プラス1編)の物語。
「蛹の家」・・・桑園(そうえん)の養蚕
「頸、冷える」・・・茨散(いばさん)のミンク養殖
「翠に蔓延る」・・・北見地方のハッカ農家
「南北海鳥異聞」・・・離島の鳥の羽採取業...続きを読む
「うまねむる」・・・江別の蹄鉄屋
「土に贖う」・・・野幌地区のレンガ工場
「温む骨」・・・江別の陶芸家(「土に贖う」とは一つの作品)

養蚕をしても絹織物を纏うこともなく、ミンクを育ててもその毛皮で温まることもない、レンガを焼いても暖かいレンガの家に住むことさえない彼らは、生きるために手を汚し、我慢を重ね、苦労しても得られるのは家族が生きていくだけのもの。
時代の移り変わりと共に産業は廃れ、束の間の特需に沸いた日々も夢のあと・・・
印象に残ったのは、女たちの強さと男たちの実直さ。そして、人間のために命を落としていったたくさんの動物たちのことを思うと苦しい。

「颶風の王」でも感じた、過剰な心情の吐露もなく淡々としたやりすぎ感のない描写がこの作者の特徴なのかな。それでも、短い物語はどれも深くて、それぞれにある数行ほどの山場では涙がじわり。
羊飼いとして北海道に暮らし、自然と動物に近いところで暮らす人ならではの目線で描かれた潔い作品でした。

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Posted by ブクログ 2019年11月05日

北海道を舞台に7編からなる短編集。
養蚕業、ミンクの養殖、ハッカ栽培、装蹄屋、レンガ工場
汗が染み込んだ大地で、時代に翻弄され
廃業を余儀なくされた者たち。

「うまねむる」
心に残る一文
P190
「ああ、俺ら人間はみな阿呆です。馬ばかりが偉えんです」
全てが、言い表されている気がする。

アホウ...続きを読むドリを撲殺し、羽をむしり取る。
羽毛として西洋に高く売りつける仕事を担う人々の悲しさ。
「南北海鳥異聞」が衝撃だった。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2019年09月23日

「颶風の王」に続き2作目。
しっかりと地に足がついているなぁ、というのが伝わってくる。
実体験も大いに含まれているのだと思うが、流石に明治は体験されていないかと…でも、北海道開拓といえばこの人という気がする。
(放送終了が近い朝ドラなんかとは比べものにならない骨太さ。短編集なのに)
「南北海鳥異聞」...続きを読むは読んでいてかなりきつかったけど、蚕、ミンク、ハッカ、レンガ…モノは変わっても生活のため、生きるためにいかに人々が産業に翻弄されてきたか。
「土に贖う」の中で、自分の子供たちにはそんな苦労をさせまいと思う親心に胸が熱くなった。
続編「温む骨」は良い意味で裏切られた。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2020年04月10日

表題作をはじめとする7編からなる短編集。
それぞれの作品で取り上げられているのは、一時期は盛んであったが今は主流の座から遠く離れてしまった仕事ばかり。
中にはアホウドリから羽毛を剥ぐといった残酷な仕事も含まれている。
読んだことはないが農民文学というジャンルの本もこういった取り上げ方をしているのだろ...続きを読むうか?
知らない仕事が多いので、内容は古臭いが読む者には新鮮さを与える。

4/16追記 
2020年度新田次郎賞受賞!おめでとうございます。

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Posted by ブクログ 2020年01月27日

これまで北海道で牧羊をしながら作品を発表してきた河崎さん。馬と家族の、明治から平成まで6世代の歩みを描いた『颶風の王』に続いて2作目です。

今回は明治から昭和の北海道を舞台に、今は衰退した養蚕・ミンク飼育・薄荷・羽毛採り・蹄鉄屋・煉瓦工場などの産業に従事した人達を主人公にした短編集です。
寒い北海...続きを読む道で、蚕やミンクを育てながらも自らは絹物や毛皮を身に着けることもなく。泥にまみれ、貧しく、挫折を味わいながらも、なお地に足をつけて生き続ける人々。その姿が見事に描き出されます。
そして、その周りには生き物たちの死が身近にあります。厳しいけれど優しい。でもそれは都会のペットに向けるフワフワした優しさでは無く、尊厳を持った優しさのようです。

力強く、泥臭く、でもちょっと不器用な作家さんという印象を持ちながら読んでいました。
でも最後の一編で印象が変わります。
ひとつ前の作品と繋がる現代の物語。暗くて重い前の6編とは違った明るさ纏いながら、その裏に過去の集積を感じさせる。
いや、上手い作家さんなのかな。

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