【感想・ネタバレ】なめらかな世界と、その敵のレビュー

ユーザーレビュー

Posted by ブクログ 2020年04月25日

傑作。ゼロ年代以降のSFの潮流をすべて取り込みつつ、百合やソ連などの独自性が際立つオリジナリティの高さ。今後の日本SFを背負って立つ作家になることは間違いない。

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Posted by ブクログ 2020年04月24日

 描かれたのは青春であり、恋愛であり、そして何よりSFだった。過去の名作に引けを取らないようなSF的なアイデアを核にしながら、ストーリーテリングを疎かにすることなく、物語としてきっちり楽しめる、非常に欲張りな短編集。
 バリエーション豊かな物語も魅力だけど、何より構成の上手さに舌を巻いた。様々なアプ...続きを読むローチからストーリーを描こうという試みや、SFらしい仕掛けも見られて、一風変わった、けれど爽快な読書体験ができると思う。SF好きにこそ、ぜひ読んで欲しい一冊。
 ワードのインパクトが重視されがちなSNSでは、絶賛の票は今ひとつ信用しきれないことも多いが、この本は間違いなく傑作だし、伴名練は間違いなく天才だ。



 ついでに、各話の簡単な感想も記録として記しておきたい。ネタバレは基本的にないが、予備知識ゼロで読みたい場合は読む必要はない。

「なめらかな世界と、その敵」
 特異な設定も相まって、読みやすいとは言い難いが、全貌が明かされる頃には慣れるだろう。特異(その世界では平常)な少女を通して、特異性を失ってしまった少女の苦悩を描く。読みながら、色々と想像が膨らんだ。
 選び取られた結末は、美しいと思うけれど、すんなりと選び取るには酷過ぎるように思った。裏表紙にあるように、青春を描いた作品と見るなら、正しくそれに相応しい締めくくりだった。

「ゼロ年代の臨界点」
 偽史に基づく、1900年代のSF文学史を扱った論説ーーという体裁を取ったフィクション。このアプローチも面白いが、これが一般的な小説的ではなく「史料的」な文章であることが、物語としてみた場合に、状況を描き切らないもどかしさというか、第三者の視点を通して記述されたことによる不透明感みたいなものが介在するように思う。漫然と文字を追うだけでは全貌が捉え切れないかも。
 それによって解釈の余地が生まれるのは、また面白い部分でもあるだろうと思うけれど。

「美亜羽へ贈る拳銃」
 伊藤計劃へのリスペクトがみられるだけじゃなく、名作が、とりわけ伊藤計劃の神話化が、ある種メタ的に取り入れられている。しかし、登場する技術の面白さ、それが物語に与える作用、叙述トリックめいた小洒落た言い回し、そして勿論、二転三転する物語としての魅力があって、オマージュ的な要素抜きでも十分に評価できる小説だろう。

「ホーリーアイアンメイデン」
 ある人物からある人物へと向けられた手紙を通して、その間に何があったのか、どういう関係性なのかを浮き彫りにしていく、書簡小説。
 内容に即した、良いタイトルだと思った。

「シンギュラリティ・ソヴィエト」
 前4つの短編は、面白く読んだが、これを読んだときには打ちのめされた心地がした。負けたと思った。
 詳しくは控えるが、歴史改変ものとしての面白さは勿論のこと、短編小説として凄まじい完成度を誇る一編だ。
 冷戦下というシチュエーション、ぶっとんだガジェットが出てきても「まあ仕方ないか」と思えてしまう空気感、それを醸し出す独特のネーミングも刺さったし、作中メインとなる二人のバックに控える存在にも心躍る。その構図が凄く良かった。

「ひかりより速く、ゆるやかに」(感想をまとめたことで、物語の流れを予見させるような表現になってしまったので、ここだけは読破してから読んで欲しい)
 この一編によって、青春SFで始まって、青春SFで締めくくられた、という印象を受けた。
 主人公が内に秘めた思いが好みだったし、物語としても、淀み、停滞していたものが一気に解放され、やがて疾走感へと変わる、非常に爽快な話だった。理論的な要素は少し控えめで、SFらしい解決ではないと感じたが、これはこれで良いだろう。これもまた、構成の上手さに度肝を抜かれた一本だった。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2020年04月23日

2010年代以降の日本SF史を彩る傑作短編集。
表題作「なめらかな世界と、その敵」は無数の並行世界をスライドしつつなめらかに生きる少女と、それを可能にする「乗覚」に障害をきたして一つの人生しか生きられなかったマコトの物語で、まずパラレルワールドを行き来するというアイディアに脱帽である。ネタ自体は珍し...続きを読むくないのだが、自由意志で常に並行世界を行き来する日常というのが斬新で、それがそのまま未成年たちの無限の可能性を表しているという点が巧みである。そして「乗覚」が当たり前だからこそ、それができないマコトの絶望感は真に迫るものがあり、だからこそクライマックスは花火のように輝いている。本作は喧伝されている通りの百合であり、多少の陰謀などもあるものの、骨子はまさに女子高生同士の関係性にあり、その無鉄砲さと後悔を引き換えにしても失いたくないものが読後に突き刺さるのだ。

「美亜羽に贈る拳銃」は伊藤計劃の傑作『ハーモニー』に捧げるトリビュートであり、愛もそれに纏わる感情も人格さえもブレインインプラントで望むままに規定できる世界において、愛の本質を試される物語である。人間が人間であるためのほとんどが代替可能ながら、そこで描かれる葛藤はなによりも人間らしく、二転三転する展開に翻弄されるが、オチはやはり美しい。

個人的に目を引いたのは「シンギュラリティ・ソヴィエト」で、人工知能が東西冷戦を収束させたという歴史改変もさることながら、合衆国の人工知能「リンカーン」とソ連の「ヴォジャノーイ」の駒となってしまった人間を描きながら、スパイ同士の緊迫感のある問答が光る。作中に仕込まれた謎の正体も驚かされたが、人間の叡智を超えた「ヴォジャノーイ」が画策したものがただのバースデーケーキというオチのぶっ飛び具合が素晴らしかった。余談だが、ドウエル教授の生首というベリヤーエフネタが出てきたのには笑ってしまった。

書き下ろしである「ひかりより速く、ゆるやかに」はこの短編の殿を務める作品として一番完成度が高く、青春要素はかなり強い。低速災害と呼ばれる未曾有の時間災害に巻き込まれた新幹線と、そこから断絶して現代に取り残されてしまった少年という取り合わせが魅力的である。西暦4700年後に彼らを乗せた新幹線が到着するという絶望感と、足掻こうとする取り残された少女である薙原、そして人知を超えた災害によって徐々に壊れていく日本の描写には食い入るように読まされてしまった。ソシャゲやインスタ、LINE、ガチャ、小説投稿サイトなどの2010年代の高校生カルチャーなども相まって、ぶっ飛んだ設定ながら土台には現代的なリアリティがしっかりと根付いている。そんな中で、作中に挟まれた西暦4700年が主人公の小説というネタは完全に虚をつかれたし、そこから主人公の犯した罪と、それに対する購いのクライマックスへと繋がる手腕は見事。まさに青春であり、しっかりとしたハッピーエンドにまとめたのは作者の非凡さを感じてしまった。

どの物語も、問われているのは人間の本質であり、彩るのは人と人との関係性である。自由奔放なアイディアと、キャラクター要素が強いながらも感情に切々と訴えかけてくる登場人物たちの心境こそが最大の魅力で、判名練は追いかけて行こうと決意した傑作である。

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Posted by ブクログ 2020年04月23日

「これいいよ、すごく面白いよ」と妻と娘に本を見せて言うと「えっ、何この表紙の絵…まるで」「ライトノベルみたい?」「そう、それ」-ライトノベルばりにこの短編集は読み易いSFだ。
SFといえば、現実離れした訳の分からない小説だと思っていたが、このSF小説にはがつんときた。難解で哲学的なテーマではなくて、...続きを読むここで問われているのは、人への愛、文明の進歩への疑義なのである。どんな形態の小説であっても、普遍的なテーマはあり得るということを改めて知らされたし、物語性豊かであるほうが私にはそれが響いてくることも分かった。
「なめらかな世界と、その敵」並行宇宙を行き来する世界での少女の友情を描く。
「ゼロ時代の臨界点」架空のSF黎明期を描いてSFへの愛を謳う。
「美亜羽へ贈る拳銃」攻殻機動隊の世界ばりの脳を改変するのが常態となる近未来を描きながら、やはりテーマは愛なのだ。
「ホーリーアイアンメイデン」人を抱きしめるだけで性格を聖人並みにしてしまう能力について描き、極楽浄土の是非を問うている。
「シンギュラティ・ソヴィエト」IA社会の行きついた先に希望はあるのか。人間の自由意思がテーマか。
「ひかりより速く、ゆるやかに」主人公の弱さ、卑怯さは私のものだ。それでも彼はひとり身を投げ出して友を人々を救おうとした。やはり愛と再生の物語なのだ。
―と勝手に解釈してみた。読者それぞれにいろいろ考えさせるのが優れた小説なのだろう。

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Posted by ブクログ 2020年02月19日

日本の短編SFもレベルが上がったなあ!
飛浩隆以外にも、こんなの書ける人いたんだ!
表題作も、美亜羽へ贈る拳銃も ラストが良くて・・・・
ひかりより速く、ゆるやかに も 読み直したら ラスト良かったかも。
文体も 読みやすくて 状況・情景がわかりやすくて、秀逸だと思う。
パラレルワールドの描写も 意...続きを読む味わからなかったけど わかったように読み進めたし。ちなみに 表題作の主人公は はづき、ひかりより・・の主人公は ハヤキ
名前のセンスはいまいちかも。

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Posted by ブクログ 2020年02月17日

表紙がラノベ調であるように、本書のノリは割と軽やかで、普段SFを読まない人にも入りやすそうだ。一方で、本作のリファレンスとなっている数多のSF作品を知る人にとっては、それが出汁のようにじわじわと美味しさを感じさせてまた面白い。どれくらい面白かったかというと、読み終わりたくないので途中でわざと停止した...続きを読むくらいだ。
個人的に気に入ったのは、リアルタイムPSYCHO-PASS状態と東西冷戦をお題にとった「シンギュラリティ・ソヴィエト」。
表題作は、(波動関数という単語は出てこないのですが、)私的ジャンル分けをするなら波動関数SFで、美しい描写とともに百合が美味しい。
「美亜羽へ贈る拳銃」には、伊藤計劃の『ハーモニー』『The Indifference Engine』、梶尾真治の『美亜へ贈る真珠』、イーガンの『しあわせの理由』など が”聖書”として出てきます。実際”聖書”にしているSFファンに対しての若干メタい言及もあり、これら新旧の名作SFが与える本歌取りの奥深さに大満足です。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2020年02月16日

「ひかりより速く、ゆるやかに」が傑作。頻繁に東海道に乗っている身としてはかなり感情移入できる青春SFだった。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2020年02月16日

スマートニュースの代表との関係はよくわからないが、そのタイトルで読もうかなと思った本。
SFだけど、その設定が一度頭に入ってくると、その描写力から、逆にリアリティーが圧倒的に押し寄せてくる感覚になった。
恋愛小説のような感傷に浸れるかもしれない。

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Posted by ブクログ 2020年01月19日

「あぁ、これが結末か…」と思って残りのページを確認すること数度。
斜め45°上を時速300㌔で走り抜けて、期待を飛び越える未来を描いてくれた。

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Posted by ブクログ 2020年01月06日

めちゃくちゃすごかった。
SF×巨大感情、これがエモというやつかしら……。「ひかりより速く、ゆるやかに」が噂通り鳥肌たつくらい圧倒的で、でも敢えて「シンギュラリティ・ソヴィエト」を推したい。これは……語彙が飛ぶわ……すごい本でした……。

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Posted by ブクログ 2020年01月03日

Rebuildでの紹介で知って読んだ。
噂に違わぬ素晴らしいSF短編集。「テッドチャンに並ぶ」って聞いた時は「嘘つけよ」って思ったけど、間違いないです。「テーマはテッドチャン的で、ストーリー展開はラノベ的」ってのも正しかった。

こんな天才が日本にいるのが誇らしい。知れてよかった、、!
次回作に超絶...続きを読む期待。

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Posted by ブクログ 2019年12月31日

伴内練氏のSF短編集
寡聞な所為だろうが、表題作に於ける平行世界の扱い方が新鮮だった
また、それによる文章表現も、何でこんな書き方が出来るのだろう、と感心した
読んでいて自然に内容を把握出来るが、設定を踏まえて書いてみろと言われたら、まず書けないと確信できる

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Posted by ブクログ 2019年12月20日

from #rebuild.fm

SF短編集なんですが、どれもこれも設定が面白いですね。個人的には、「なめらかな世界と 、その敵」「美亜羽へ贈る拳銃」が良く、そして、最後の中編「ひかりより速く 、ゆるやかに」が一番好きなお話でした。どうやったらそんな発想出来るの?っていうお話です。

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Posted by ブクログ 2019年11月24日

SF短編集。普通は短編に星は付けないのだが、良かったので。
表題作は人類が無限にあるそれぞれのパラレルワールドへ自由に行き来出来る世界において、事故でその能力を失ってしまった友人との物語。人間は辛いことから幾らでも逃げられる世界。その中でたった一つの人生しか得られない高校生。うーん自分だったら耐えら...続きを読むれるか?
その他にも、インプラントでどんな感情でも自由に制御できる時代における恋愛とは。SFでありミステリであり恋愛小説であるこの作品も良い。主人公の恋心に痛みを感じ、共感もでき、結末はまぁそうなのだが、感情とは何かを考えさせられる作品だった。
米ソの宇宙開発競争で、ソ連が先に月面へ到着していた話。東側のIT技術が自由主義陣営よりも格段に進んでいる世界も面白い。
特に好みであったのは、修学旅行帰りの高校生らを乗せた新幹線のぞみ123号が、突然時間の進行に後れを生じ、通常世界の1/2700に減速してしまう話。車両の内部にはアクセスできず、車内の人間は1/2700のスピードで普通?に過ごしている。目的地名古屋駅到着見込みは2,700年後!外側では車内で生き生きとして且つ殆ど止まっている高校生をコンテンツとして費消し尽くしていくなど騒ぎは拡大していく。そんな中、今度は航空機が同様の事象を起こす。
世界的に高速の移動が恐れられ、極端に移動が減少し経済がシュリンクしていく中、当時修学旅行を欠席した二人の男女が車中のクラスメートを救出すべく奮闘する。
いずれの話も発想が良くて楽しい。長編を読んでみたい。
追記:このSFが読みたい 1位受賞

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Posted by ブクログ 2019年11月23日

面白かった。SFとしては「シンギュラリティ・ソヴィエト」、ライトノベルとしては「ひかりより速く、ゆるやかに」が好み。

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Posted by ブクログ 2019年11月22日

短編集6編
それぞれ味わいも違い世界観も違うがみな面白く甲乙つけがたい.なめらかな世界はあまりの場面の切り替わりの早さについていけないぐらいだが,こういう状況を文章で伝える力もすごいと思った.「美亜羽へ贈る拳銃」では脳の潜在性に驚愕しまたストーリーも見事で,「ひかりより速く,ゆるやかに」はいわゆるは...続きを読むやりの「愛」ではあるが読みやすくストンと胸に落ちてきた.

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購入済み

すごい面白い

むのな 2020年02月12日

読む前は、値段高いな、と思ってましたが、読んだら、まあ面白い。びっくりする。読みごたえある。自分がストーリーを理解できて楽しめるのがちょっと誇らしいし。ボリュームあって、私はまだ読み終えてないけど、その事も、「まだ面白い話に 新しい発想に(短編集だから)出会える」のがうれしい。

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Posted by ブクログ 2019年11月15日

全部傑作。年末にふさわしい一冊で、年初のランキングも期待大。みんないいけど、個人的には、美亜羽と、ソビエト、そして最後の書き下ろしがツボ。イーガンとか読み慣れてるとそんなに珍しくないのかもしれないが、それぞれ、日本の新しいSF、を感じさせてくれる。

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Posted by ブクログ 2019年11月03日

#日本SF読者クラブ 良作揃いの短編集。表紙の女の子は、表題作に登場するマコトちゃんかな。この表題作と書き下ろしの「ひかりよりも速く、ゆるやかに」がお気に入り。

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Posted by ブクログ 2019年10月17日

刊行前からTwitter界隈にて異常なまでの熱量で期待されていた本作。幼少期から数多のSFを読んで育ったという著者の脳内をそのまま文章にした様な非常にエモーショナルな作品群。個人的には、ソ連とアメリカのAIが神の如く競い合う歴史改変物「シンギュラリティ・ソヴィエト」、低速化という謎の現象に巻込まれた...続きを読む新幹線とそれをめぐる人々の物語「ひかりより速く、ゆるやかに」あたりが刺さった。著者のSFへの熱い想いは『「2010年代、世界で最もSFを愛した作家」伴名練1万字メッセージ』で公開されているのでぜひ読んでほしい。

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