【感想・ネタバレ】星の文人 野尻抱影伝のレビュー

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Posted by ブクログ 2019年06月09日

ひゞきなきサジテリアスの弓の緒の門の枯木にかゝるこのごろ
 会津八一

 歌人会津八一や相馬御風らとともに、早稲田大学文学部英文科初の学生となったのが、野尻抱影。天文民俗学者で、「星と伝説」「星の方言集」はじめ多くの著書・翻訳書がある。ライフワークは星の和名収集だが、「冥王星」という和名の提案者とし...続きを読むても、広く知られているだろう。

掲出歌は、抱影の初めての著書「星座巡礼」に寄せられた歌。「サジテリアス」はいて座のことで、銀河の中心から放たれた弓矢が、この日本にひっそりと届いたような、風情ある祝歌だ。
   
抱影は、1885年(明治18年)、横浜市生まれ。本名は正英【まさふさ】。1977年、享年91で他界したが、石田五郎による評伝ではユニークなエピソードが次々に登場し、連続ドラマになりそうな生涯だ。

たとえば、雑誌編集者でもあった抱影と、全国の読者との密接な交流ぶり。星の和名の収集源も、愛読者からの手紙や葉書であり、新情報提供者には、ラブレターを超えるほどのほめ言葉で返信したという。

 「初恋」の星座は、中学時代に見たオリオン。愛妻がスペイン風邪で急死し、それを回想した悲痛な小説でも、妻に、一番美しい星座はオリオンと語らせている。

 さて、驚きの文学史的エピソードを。抱影の一まわり下の末弟は、作家の大佛次郎。「鞍馬天狗」「天皇の世紀」等で著名だが、実は戦後の一時期、抱影が大佛次郎名で翻訳書を出していたとか。抱影による代作も若干あったようで、何とも気になる。
(2019年6月9日掲載)

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