【感想・ネタバレ】慟哭 小説・林郁夫裁判のレビュー

\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ 2015年09月30日

[揺れた人]1995年3月に発生した地下鉄サリン事件の実行犯の1人であり、オウム真理教の「治療省大臣」だった林郁夫。ある罪に関する取調べ中に、「サリンをまきました」と突如告白したその男は、裁判を通して自らが犯した罪への反省をのべ、教祖であった麻原彰晃(本名:松本智津夫)に対する「対決」を挑む。彼とそ...続きを読むの裁判を徹底して追跡した作品です。著者は、『復讐するは我にあり』で直木賞を受賞した佐木隆三。


松本智津夫が法廷で沈黙を貫き通したことにより、「真実は闇の中」という見方が定着した感のあるオウム真理教に関する事件ですが、本書のあとがきで述べられるように、少なくともその一端を林郁夫という男が明らかにしている(または体現している)ように思えました。裁判をとおした林氏の心の変遷は読者に強く訴えるものがあるかと思います。


なぜあのような事件が起きたのかという問いに対し、下記の林氏による証言と彼の取調べを担当した方による「結婚詐欺」の話は非常に説得力があるように思えます。本書が実はオウム真理教という「マンガチックな物語」への対抗勢力となっている点も評価できるのではないでしょうか。

〜やっぱり地下鉄は、生活の場だったのです。いろんな人の被害状況だけでなく、一人一人の生活がよく表されている。それに比べて、私たちの当時の思いというのは、現実から離れたものでした。〜

もう20年が経ったんですね☆5つ

0
ネタバレ

Posted by ブクログ 2012年10月24日

そんなつもりはなかったのに、
誰かを救おうとして、または自分が救われようとして、なぜかいつのまにか彼は犯罪者になった。これは怖い。本当に怖い話だ。でもかけがえのない教訓だ。

0
ネタバレ

Posted by ブクログ 2011年02月08日

元オウム真理教信者、医療省大お臣、林郁夫の話。小説となってるが、ほぼ実話。オウム信者の林が教祖の呪縛から逃れ、犯した罪を認め、真摯に謝罪するまで。

0

Posted by ブクログ 2016年09月20日

地下鉄サリン事件の実行犯、林郁夫の実録風の裁判記録。著者は、実際に起きた連続殺人事件である西口彰事件をもとにしたかなり古い小説『復讐するは我にあり』で有名な佐木隆三。いくつも傍聴した裁判の中でも著者が最も印象に残る裁判として挙げた林郁夫裁判について一冊の本にまとめたものが本書である。ここに書かれてい...続きを読むる林郁夫の出家の経緯、犯行に及んだ経緯、そして麻原を否定して自らの犯罪を告白するに至る経緯はわれわれが知るべきことであるように思えた。

地下鉄千代田線でサリンの入った袋を先端を尖らせた傘で破り、その対応に当たった駅員二名を死に至らしめたにも関わらず、林郁夫は検察からの求刑は死刑ではなく無期懲役となり、そして求刑通り無期懲役が確定した。一方、他の実行犯がほぼ死刑求刑を受けている。林郁夫の告白が自首として扱われたこと、彼のもたらした情報から多くの真実が明らかにされたこと、真摯に自らの行動について反省していること、などが評価されてのことであった。そしてその謝罪の姿勢が遺族にも受け入れられたことも大きいとされている。

自分がサリンを撒いた実行犯であるとある日の取り調べが終わったときに突然告白したとき、その言葉を聞いた取り調べ担当の捜査官はまさか目の前にいるのがサリンの実行犯であるとは思いもしていなかったという。組織犯罪の常識として、そのような実行犯の役割は幹部ではなく若手に回されるのが常であるからだ。そこに宗教的な妄信がその動因でもあたサリン事件の特異性がある。

阿含宗・仏教にも造詣が深く、真剣に人生について考えを巡らせていた林郁夫。麻原の最終解脱者としての言葉に信を置いていた彼が出家を決断したのは、坂本事件で教団が疑いを持たれている状態に対して、自分のようなある意味でまともで地位もある医師が出家することによって、世間の見方が少しでも変わることを期待してのことだった。その坂本事件がやはりオウム真理教の仕業であるとわかったと疑われたことが、自らが実行犯に選定されたことの理由ではないかと思い至ったときの巡り合わせの皮肉さを呪う。麻原を本当に最終解脱者であると信じ、子供を含めた家族で出家し、それまでの預貯金を布施し、教義に付きしたがって修行を重ね、犯罪の指示についても宗教的に意義あることと自らに言い聞かせて実行に至る。この哀しいまでの真摯さは、逆説的に命を扱う医師という職業についていたことも関係があったのではなかったか。

徐々にオウムや麻原からの呪縛から解き放たれるようになったとき、自殺を考えた林郁夫が、その前に何かを描き残したいと考え、自分が殺めた二人にはその暇さえ与えられずに死んでいったことを思って絶望したと告白する。裁判の証言で、林郁夫は「慟哭」する。

林郁夫は、地下鉄サリン事件被害者のインタビューからなる村上春樹の『アンダーグラウンド』を三度読んだそうだ。その本に収められたサリン事件の被害者およびその家族の言葉を読んで、林郁夫はどのように考えたのだろうか。林郁夫は何度も時間を戻してやり直したいと語る。その思いの切実さが伝わってくる。

林郁夫がしたことは許されざるものであるということは簡単だ。それでは、なぜそのようなことが起こったかという理由にはいつまでも行き着けないような気がする。


あれからすでに20年以上が経つ。日本では同じようなテロ行為は起きていないが、世界では明らかに宗教的信条をベースにしたテロが数多く発生している。林らも、犯行の実行により宗教的ステージが上がることを餌にして実行に至ったことを思うとオウムの事件から何かを学ぶべきなのではないかと思うのだ。

麻原彰晃に裁判遂行能力があったとし、その限りにおいて裁判の審理と終結を優先するのをよしとしているのはうなづくことができない。「「昏迷状態で訴訟能力がない」と、刑事責任を免れることを期待するしかないだろう、私に言わせると、それが「沈黙の真相」である」という。その結論はあまりに皮相的ではないかと思うし、著者(を含む多くの人)の願望を映し出しているだけのように思われる。この本では、麻原彰晃が面会者との接見のときに陰茎を出して自慰をしていることがごまかさずに書かれているが、この事実ひとつを取っても何らかの精神的な不調があったと認めざるを得ないのではないか。この点に関しては森達也の『A3』の議論についても考えてみるべきだと思う。

他にオウム関係では、先に出た村上春樹の『アンダーグラウンド』とそれに続く『約束された場所で』、松本彰晃の次女アーチャリーが本名で書いた『止まった時計 麻原彰晃の三女・アーチャリーの手記』は読まれるべき本だと思う。

オウム事件はいまだ方が付いていないのではないか。長い裁判の末に判決が出たがゆえに、逆にそのように感じてしまう。

0

Posted by ブクログ 2012年02月20日

読みながら犯人はいったい、いつになったら現れるんだろう・・と思っていたら、突然現れました。とは言っても、心の中では(まさかね~)とは思っていたのですが、思わずひっかけられました。

まず、『この人が犯人だろう』というのは分かっていましたが、この犯人、最後まで冷静で、かといって普通の人かと言えばそうで...続きを読むはなく、常識で考えれば、そんなことはありえない、と分かっている事を信じこもうとした所にこの人の悲しみの深さがあったのかもしれません。

読んで、楽しくなる内容ではありませんが、ハラハラするミステリーを読みたい方にはお勧め。

0

「ノンフィクション」ランキング