【感想・ネタバレ】母のレビュー

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2023年01月29日

小説「蟹工船」で有名な小林多喜二の母・セキが語る、小林多喜二および小林家の歴史。
この小説のすごいところは、セキの語り口調が自然な東北(秋田?)の方言で、まるで実際にセキからインタビューしたみたいに書かれていること。
あとがきによると、三浦綾子さんは夫の光世さんから「小林多喜二の母を題材に書いてほし...続きを読むい」と言われて、取材をしたり資料を集めて書いたのだそう。「きっとこんなふうに話すだろう」と、母としての立場とその心情を想像しながら、それを小説に落とし込んでいったってことだよね。すごすぎ。
三浦綾子はやっぱすごい。

近藤牧師が「神の恵みです」と言いながら泣いたとき、私も一緒に泣きました。そうなんだよ、キリストと一緒にいたいと思えるって、神の恵みなんだよね・・・。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2023年01月05日

秋田弁で人好きのする語り手は小林多喜二の母、セキがモデル。終始話し言葉なのに飽きないで読んでいられる。自分が話を聞いているようで心が和んだ。言葉からぬくもりを感じ、このおかあさんになら何でも話してしまいそうだ。
百姓の貧乏な暮らしから抜け出せない負の連鎖が辛かった。世の中を良くしようと立ち上がる人が...続きを読むいなければ変わらない。
神も子を失っているという視点を初めて得た。殺された多喜二をイエスに、セキをマリアに重ね合わせるのは確かにそうなのかもしれないと思わされた。
なによりも、セキが遺した文章に心が動かされた。幼少期勉強をしている余裕がなかったから、あとから文字を学んだという拙さがあるからこそ、心情を吐露したこの文章に率直さが表れていると感じる。言葉ってなんて貴重なものだろうかと思う。
文字を読めないセキに話して聞かせる多喜二や、絵を見せて語る近藤牧師のような、分け隔てなく学びの場を設け共に進もうとする姿勢に感銘を受けた。一生を通して考え続けることは決して無駄じゃないと思う。

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Posted by ブクログ 2022年11月05日

小林多喜二は名前を聞いたことがあった程度で、三浦綾子も初めて読んだ。
語り口調でかつ訛りも入ってるのに、すごく読みやすくてページをめくる手が止まらなかった。
母の子を思う気持ちが溢れていて、私も涙が止まらなかった。
小林多喜二についてもっと知っていきたいし、三浦綾子の作品もどんどん読んでいこうと思う...続きを読む

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Posted by ブクログ 2021年02月20日

多喜二のすること信用しないで、誰のすること信用するべ

母さんはいい母さんだ。体はちんこいけど、心のでっかい母さんだ。

そんな会話ができる子育て、素晴らしい。学歴じゃない!

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ネタバレ購入済み

母心の切なさ

jun
2020年09月19日

「蟹工船」で知られる小林多喜二の母小林せきの全生涯が印象的。秋田の貧しい小作農の家に生まれ(明治6年)、3,4歳で庄屋の赤ん坊を負ぶって子守をし、小学校にも行けず、その代わりに副業の自宅そば屋を切り盛りし、恐らく口減らしの為に僅か13歳で嫁にやられたと云うのですから。でも周りも皆貧しく、自分は女郎に...続きを読む売られなかっただけ、まだましだったと言うのです。海外での反響が大きかった「おしん」の映画版DVDを先日見たのですが、東北の農家の貧しさが切ない。長女を出産後直ぐに亡くし、中学入りたての長男も亡くし、多喜二が高商を卒業し、働き始めた矢先には連れ合いを亡くしと苦難の人生にも拘わらず、せきの明るさ、強さが凄い。でも多喜二の悲惨な死に様は相当応えた様子で「多喜二が死んで5年がほどは、多喜二の夢ば見ない日は一日もなかった」には、こちらも胸を塞がれます。最後に出てきたせきの書いた殆ど平仮名のどたどしい詩が、その稚拙さ故に圧倒的な力強さで私の魂をゆさぶりました。

「あーまたこの二月の月かきた
ほんとうにこの二月とゆ月か
ーーー
なきたいどこいいてもなかれ
ーーー
あーなみたかてる
めかねかくもる」

小林多喜二は昭和8年2月20日に29歳で亡くなっています(特高による虐殺)。

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Posted by ブクログ 2018年04月07日

読み終わって一言。しんどい。とにかくしんどい。
読んでいてこれ程までに胸を締め付けられるような小説がこれまであっただろうか? そう自問する。

読めば読む程、(殺されていい人なんていやしないのだけども)この人程、こんな死に方をしてはいけない人はいないだろうに、そう思って苦しくなる。
こんなに優しい人...続きを読むが、こんなに家族想いの人が、どうしてあんなに酷い死に方をしなければいけなかったのか。そればかりが頭の中でぐるぐると回った。
作中でお母さんも口にした疑問。小林多喜二はあんな目に遭わなければいけないような極悪人だったのか。そんなわけがない。元からそう思ってはいたが、この小説を読んでますますその思いが強くなった。
人一倍優しくて、誠実で、真面目な普通の人だ。

今ならば誰に咎められることもないような、当たり前のことを当たり前に言って、殺されるなんて。そんなことがあっていい筈がないのに。

ただただ悲しくて、それだけがぐるぐると胸の内に渦巻いているような、そんな感覚。
会ったこともない、それどころか私が生まれるずっと前に亡くなった小説家に、随分と惚れ込んだものだな、と自分でも不思議な気持ちになる。
知れば知る程、彼の小説を読めば読む程、彼が遺した作品は勿論のこと、彼自身もどんどん好きになっていくのだから本当に不思議なものだ。

それ程長くはないとはいえ、最初から終わりまでほぼ一気に読み切った。頁をめくる手を止められなかった。文字を追うのをやめられなかった。悲しい最期は知っているのに。

いつも以上に何もまとまらないけれどこれ以上書こうとしても悲しいとか辛いとかそんなことしか書けない気がするのでこのあたりでやめにしましょう。また読んだ時に、もう少し整理して何か書けたらいいと思う。
何度読んでも同じことになりそうではあるけども。

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Posted by ブクログ 2017年07月08日

小林多喜二の母が語る、多喜二や家族のこと。母の言葉そのまま書かれているからこそぐっと距離が縮まり、子への気持ちが手に取るように伝わってくる。子を虐殺された母、どんなに辛かろう。母は子が全て。だから多喜二が何をしたとか、世の中がどうとか関係ない。なぜ小説を書いて殺されなければならなかったのか。この一言...続きを読むにつきる。多喜二が殺されて、数十年たち母はクリスチャンとなり共産党へ入党する。が、母の軸はここでも多喜二。多喜二がいいと言っていたのだから間違いはないと道を行く。宗教思想政治すら凌駕する母の想い。強く大きな愛。

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Posted by ブクログ 2017年04月20日

本屋さんでふと手に取った文庫本
三浦綾子だし、小林多喜二だし、読んでみようかなあと
よかったあ!
一気読み
三人称で綴られていたらここまでの感動はなかったと思う
学校へは行かれなかったけれど聡明でまっすぐで愛情深い母セキさんの秋田弁の語り口がなんとも切ない
丹念な取材と文献を調べた結果だろうが、やは...続きを読むりキリストと多喜二を重ねた作者はすごいと思う
手に取ってよかった一冊
友人に薦めたい

治安維持法と共謀罪法案と根っこが同じようで空恐ろしいのです

≪ ただ信じ 息子の理想 後たどる ≫

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Posted by ブクログ 2017年02月20日

三浦綾子にはまっていたのは2009年。「氷点」&「続氷点」、「道ありき」を読んだ以来8年ぶりに彼女の著書を手に取ってみた。
小林多喜二の母であるセキが一人称の形で綴られている「母」。面白く読みやすく一気に読んでしまった。
「蟹工船」は買ったもののまだ読んでなかったな。マンガバージョンでなら何...続きを読む度か読んだけど。

戦中、言論統制、思想統制が強くなる中、信ずることを表明し広め社会を変えていこうとした多喜二。針を刺されながらも血を吐きながらも世の中が間違っている、これからは人間こう生きていかねばならないと唱え続けることができるその姿を、イエス・キリストと重ねて見た三浦綾子。

三浦綾子だからかけた小説だなぁと思う。彼女の本引き続きもう少し読み進めたい。

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Posted by ブクログ 2016年08月28日

小林多喜二の母の一人語りの形で書いてある。学はないが、愛情はたっぷりある、そんな母の視点で多喜二を描くのは易しいことではなかったと思うが、第三者視点の小説では成し得ない生き生きとした、かつ生々しい多喜二を知ることができる傑作だと思う。これは三浦綾子だから書けた、三浦綾子にしか書けない小説。
召天され...続きを読むて久しいが、再び戦前のようなキナ臭い今の時代に生きていたら、何を書いただろうか。

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Posted by ブクログ 2015年12月11日

警察に撲殺されようとも信ずる道を突き進む多喜二を、人の心を掴むのが長けている母親が語りべとして朴訥と語る。その飾り気のない静かな語りが、かえって当時の凄まじさが際立たてせている。この本を読んだすぐ後に多喜二生家後に行った。小樽築港駅の線路端の砂利場で当時の面影はない。

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Posted by ブクログ 2014年08月09日

随分前に買いカバーのまますっかり忘れていたこの本。何に惹かれてこれを買ったのかも忘れていました。
小林多喜二のお母さんが人生を語り口調で伝えるので、よりその心情が伝わり引き込まれてました。
小林多喜二が『蟹工船』を書いた作家と言うことぐらいしか記憶になかったけれど、あまりに悲惨な最期を迎えた時代背景...続きを読むが本当にやるせない。
時代と言う権力の恐ろしさ。権力と戦い自分の命も惜しまなかった多喜二。信仰によって悲痛な想いから救われる母親の気持ちも素直に受け入れられました。

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Posted by ブクログ 2013年11月02日

学生時代、大事なことは三浦綾子の小説から学びました。人とは、赦し赦されるとは…。今の自分に活きているかは、まあおいといて。

最近受けた講義で先生が紹介していて懐かしくて再読。

階級とはなにか、解放されていきるとはなにか。
そして、そうすることを阻もうとする社会、人がどれだけ多いか。

...続きを読むれをも越えて闘おうとする多喜二、多喜二を奪った社会を許そうとする母の姿をかなり強烈に描いています。
多喜二の地元は秋田。貧しくて、女性は身売りに出され、男性はボロボロになるまで働き、それでも税としてほとんどが奪われる。
「こんな時代もあったんだ。うちら幸せだね。」
って話ではないハズ。


胃腸炎でぐるぐるになりながら読む拷問から帰ってきた多喜二の描写…。
しんどかったわ。

大学時代、階級を鮮烈に教えてくれたのはこの本と「ダンサーインザダーク」だったと思われます。

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Posted by ブクログ 2013年02月11日

蟹工船「小林多喜二」の母のお話。
貧乏でも心が豊かなら幸せな人生が送れる。
他がためにを改めて気付かせてくれた。

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Posted by ブクログ 2012年06月27日

貧困の東北の農村から豊かさを求めて北海道に渡った家族。口減らしに身売りされ体でお金を稼ぐ娘たち。出稼ぎに出たきり戻ってこない父親。入ったらそれきり出て来れないタコ部屋の過酷な労働に耐えきれず死を覚悟で脱出しようとする人たち。小林多喜二の文学を読むにあたって参考になればと読み始めた本だったが、それ以上...続きを読むに日本の歴史の裏側を見せつけられて衝撃的だった。人権がゴミのように扱われていた。その人権を守ろうとした人が事もあろうに「国」によって弾圧されていた。その歴史的事実は隠蔽されてはならない。幼い頃のセキが親切にしてもらった駐在さんの記憶と彼女の息子を拷問で死に至らしめた特高警察の対比がすごく印象的だった。

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Posted by ブクログ 2023年09月20日

朗読会の作品として取り上げられていたため、読んでみたかった。
三浦綾子作品はほぼ読んだつもりだったが、知らなかった。
蟹工船の作者である小林多喜二の母セキの物語。
セキが自分語りをする中で浮かび上がる、貧しさと明るさ、清らかさ。
7人産み3人が亡くなる。そのうちの一人が次男である多喜二。多喜二が身請...続きを読むけしたタミちゃんのこと。

日本一の小説家でなくていいから、朝晩のごはん、冗談を言い蓄音機を聞きぐっすり眠る、そんな夢も叶わなかった

もちろん時代も違うけど幸せの基本はここにあると痛感する。多喜二が警察で拷問を受け亡くなったとき、
私は多喜二だけの母親ではない、と生き続けたこと。
産んだ子を失う、それだけで十分に辛い。それが3人、そして一人は拷問を受ける。それを忘れはしないが、キリスト教の教えと、子ども、周りの人に支えられ生きていく様子が目に浮かぶ。
作中、いくつか疑問に思うこともあったが、それ以上の
『母』。

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Posted by ブクログ 2022年05月24日

多喜二の母がご自身、多喜二のことを語るのを三浦綾子さんを通して書かれている。明治期〜戦前の様子がよく分かる。人と人の繋がりも今よりも濃厚だったのだなぁ。悲しみの中に優しさが溢れている本でした。

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Posted by ブクログ 2019年12月07日

多喜二のお母さんの方言の語り口、すこぶる良かった。美しい日本語ってこういうのなんじゃないだろうかと、思った。多喜二もすごいしお母さんもすごい。最後はちょっと泣いた

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Posted by ブクログ 2019年10月13日

「シルバーミウラー」まで残すところこの一冊だったので読み始めたのだけど、この作品に限らず三浦綾子作品は読後感が気持ちいい。何か得られたような、希望が持てるような気がする。読むというより、おばあちゃんのお話を聞いている感じだった。

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Posted by ブクログ 2016年09月04日

仕事関係の方に勧められた本
小林多喜二の書いた本を一冊も読んだことがないけれど
警察の拷問で亡くなった方というのは知っていた
その方のお母様の言葉として書かれた小説
やはり、切なく悲しく愛に溢れて、しかし淡々と書かれていた

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Posted by ブクログ 2015年06月07日

小説を読んでこんなに泣いたのは久しぶりかも…。

この作品は三浦綾子作品の中でもそれほどキリスト教に焦点を当てていない(と個人的に思った)ので、宗教的な作品が苦手な人でも無理なく読めると思います。

何より、お母さんの語り口がいいです。
元々は秋田の出身だそうなので、もちろん秋田弁が主なのでしょうが...続きを読む、所々に北海道弁が混じっていて…。

私自身、小樽ではありませんが札幌出身、それほど裕福な家庭に育ったわけではなかったけれども、こうして大学にまで進学させてくれた両親のおかげで今なんとか一人で生活できるようにまでなったので、本当に私自身の母を思い出しました…。それにより余計に涙が…。

小林多喜二に関してこれまであまり勉強したことは無かったですが、これを機に一度調べてみようと思いました。

最後に、お母さんがイエスの言葉に関して「わだしの心の財布の中に、ちゃあんと大事にしまってあるの。」という一行があります。私の心の財布は最近閉じっぱなしになっていたような気がするので、今日こそ開いて整理してみようと思います。

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Posted by ブクログ 2014年09月17日

お母さんが、誰かに語りかける口調で昔を思い出しながら話す文体です。東北弁ではありますが、分かりやすいです。
私はこの本を読むまでは、小林多喜二といえば、文学史で習った「蟹工船」しか思い浮かばず、実際に蟹工船を読んだこともないので、どういう思想の持ち主だったか全く知りませんでした。言論の規制の厳しい時...続きを読む代に、共産党だということで、拷問でなくなったそうです。
物語は、多喜二の生まれ育った、秋田の貧しい村と、移り住んだ北海道小樽を舞台に展開します。昔はどの家も、貧しくても7人などたくさんの子供がいたのですね。一人ひとりの子どもへの負担や、犠牲も大きく、特に先に生まれた子は、後から生まれる幼子を食べさせていくというプレッシャーもあったようで、読んでいてとても気の毒でした。よくこんなに貧しいのに次々産むもんだ、と感心するというか、3人くらいにしておけばそこまで貧しくならないのにと思ったりします。でも、とても温かいというか、家族全員がお互いに思いやり、それぞれ家族のために努力し、貧しいながらも惨めな感じが無く、幸せだったことは伝わってきました。多喜二は、家族のために風俗店で働く女性を不憫に思い、助け出し、長年恋人だったもののついに結婚できませんでした。でも、これは時代背景上、仕方なかったのかなとも思います。多喜二が警察の拷問で殺された時の母の悲しみや悔しさは壮絶で、親より早く死んではいけないと、当たり前のことを改めて感じました。多喜二の母が、息子を失ってから入信した、小樽の教会の牧師さんが素晴らしい方で、最後は救われてほっとしました。

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Posted by ブクログ 2013年07月14日

最初は課題だからと、だらだらと読んでいるだけだったが
しだいに語り手である「母」の優しさにひかれ、夢中になって読んだ。
最後の母の語りには思わず目頭が熱くなった。

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Posted by ブクログ 2017年08月17日

死因・心臓まひ。実は特高警察による過剰な暴行が原因で、小林多
喜二は築地署で命を落とした。

その多喜二の母が本書の主役である小林キセ。88歳のキセが自分の生い
立ちから息子・多喜二の死、その死後の生活を読み手に語る。

生まれは秋田県角館。貧農であった生家から嫁いだ先も、貧困にあえぐ
一家だった。...続きを読む

明治のこの時代、東北地方の貧しさは今とは比べものにならない。家族の
生活を支える為に娘たちは人買いの手に渡される。

そう、あの頃は普通にそんなことが行われていたんだよね。女性が学校に
行くことすら叶わなかった時代だ。

貧しいながらも温かい嫁ぎ先、優しく思いやりのある夫。そして子供たちに
囲まれた幸せな頃もあった。

それなのに、親思い・兄弟思いの優しい孝行息子は小説を書いたことが
原因で無残な死を迎える。

「そうそう、多喜二がよく言っていた話があったけ。
 昔々、仁徳天皇っていう情け深い天皇さんがいたんだと。お城の上から
眺めたら、かまどの煙が、細々と数えるほどしか上がっていなかったんだと。
それで天皇さんは、国民はみな貧乏だと可哀想に思って、税金ば取らん
ようになったんだと。したらば、何年か経って見たらば、どこの家からも
白い煙が盛んに立ち昇っていたんだと。天皇さんは大喜びで、国民が
豊かになったのは、わしが豊かになったのと同じことだって、喜んだ
んだと。
 この天皇さんと、多喜二の気持ちと、わだしにはおんなじ気持ちに思え
るどもね。天皇さんとおなんなじことを、多喜二も考えたっちゅうことにな
らんべか。ねえ、そういう理屈にならんべか。天皇さんば喜ばすことをして、
なんで多喜二は殺されてしまったんか、そこんところがわだしには、どうし
てもよくわかんない。学問のある人にはわかることだべか。」

小説を書いただけで殺される時代だった。しかも、死因さえも誤魔化され、
特高を恐れて司法解剖を引き受ける病院も医師もいない時代があった。
日本の暗黒の時代は、決して癒えることない哀しみを抱えた母を生み
出した。

セキは文盲であった。それでも獄に繋がれた多喜二に手紙を書きたくて、
ひらがなを覚えた。同じように文盲だった野口英世の母・シカが、息子に
金釘流で書いた手紙のことを思い出した。

貧しい家に生まれ、学校へも行けず、子守りで駄賃を稼ぎ、年端も行か
ないうちに嫁ぐ。

きっとセキの時代には多くあった女性の生き方だろう。ただ違ったのは、
セキの息子が小林多喜二だったことなのだろう。

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Posted by ブクログ 2023年09月20日

「蟹工船」の作者、小林多喜二の母、セキの話です。
この本を知ったきっかけは、「平台がおまちかね」という本。
私は蟹工船を読んだことがなく、「ああ、学校の授業で習ったなぁ」くらいにしか覚えてなかったのですが、「母」を書いたのが三浦綾子さん、ということで興味を持ちました。
昭和初期、というのはどうも、ど...続きを読むの本を読んでも思うことだけど、嫌な、暗い時代だったんだなと思う。
言いたいことを自由に言えない時代。
正しいことを言うと捕まる時代ってなんなのだ。
もしタイムマシンでこの時代に行けたなら、日本をこんな国にした奴(誰だか知らんけど)のところへ行って、「バカ」と頭を叩いてやりたい。
小林多喜二がどういう人で、どういう亡くなり方をしたのか全く知らなかったので、これを読んでショックを受けました。
常に貧しい人のことを考えていて、日本を良くしようと思っていた多喜二が、まさかあんな死に方をしなければならなかったなんて、セキさんの辛さは計り知れない。
俄然、蟹工船を読みたくなった。

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Posted by ブクログ 2020年10月18日

小林セキという小林多喜二の母の話。義理の兄の借金などで、ひどい貧乏に暮らしてきたが、そんな義兄もパン屋で当たって、小樽で夫婦で手伝うことになった。パン屋には、人夫たちも多くやってきて、苦労話や身の上話を手拭いで涙を拭き拭き語っていく。そんな人の話を聞いてあげることはとても良いことなんだと感じたものだ...続きを読むという。
多喜二は拷問の末に命を落とすが、本書が一定の明るさというか、ほのぼのしさが漂っているのは、小林一家が非常に明るい、貧乏だけど底なしに明るい一家だったからだろう。
貧乏で暮らしが苦しい描写がおおいものの、親と子と兄弟と親戚と、その夫婦と、お互いに気持ちの通いあった者同士がいたのが救いだった。

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Posted by ブクログ 2016年05月14日

小林多喜二の母の口から語られる、小林多喜二の生涯。母の深い愛情が、秋田の方言で発せられる語り口に溢れ出ている。

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Posted by ブクログ 2016年01月17日

なんとも温かい家族の物語。
小林多喜二。学校の授業などで、その名前くらいしか聞いた事が無かったが、此処まで芯の通ったかっこいい男だったとは本書を読んで初めて知った。
もっと、この人について知りたくなった。

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Posted by ブクログ 2015年08月29日

想像していたより面白く、惹き込まれました。
小林多喜二のことは授業で習った程度しか知りませんでしたが、
わかりやすい内容で、すとんと胸の中に入っていきます。

ただ、三浦綾子さんだから仕方がありませんが、
終盤はクリスチャンにこだわりすぎて、一気に感動が醒めてしまいました…

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Posted by ブクログ 2015年06月07日

小林多喜二とその母をモデルとした小説。

この本を読んだ時は確か10代半ばくらいだったと思います。
とても敏感な時期に読んだので、かなりの衝撃を受けたのを覚えています。

十数年経って母になった今、読み返してみたら
当時とは違った目線で読む事が出来るのだろうな。
実家から引っ張り出してこよう。

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Posted by ブクログ 2013年05月07日

小林多喜二の母・セキさんが生涯を語り聞かせる形を取った物語。
高齢の方が語って聞かせる昔話というのは、文章で読んでも、ゆったりと、しみじみと、染み込まれていくように感じるものなのだろうか。
文中でも語られているが、話が前後したり、同じことを繰り返したりというのはある。物語ならば読みにくいと感じるとこ...続きを読むろだが、おばあちゃんが語る話ということで、すんなりと受け入れられた。

小林多喜二についての予備知識は何もなかったのだが、読み進めるごとに、こんな明るくマジメで、家族思いの人だったのかと知って、胸が温かくなった。
そんな息子が、あんな惨い死に方をするなんて。
セキさんがたびたび嘆き、白黒つけてほしいと願った気持ちを思うと、たまらなくなる。

あらためて、蟹工船など、小林多喜二の本を読みたくなった。

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