【感想・ネタバレ】千年の愉楽のレビュー

\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

購入済み

圧倒的な物語力

2014年04月14日

物語の強度に圧倒された。

「血」の持つ宿命に抗いながら翻弄される男たちと、その生と死を見守る語り部たる産婆。

作者のいうところの「路地」、すなわちひとつの(被差別)部落の中で展開するストーリーがこれほどまでに広がりと深さと崇高さとエロスを持ち得るとは。

登場する6人の男たちの魅力も...続きを読むさるものながら、時空を超えて彼らを語りつくす産婆=オリュウノオバの奔放な思考が、本作品の常ならぬトーンを作り出している。
そして緻密で難解は文体も、この物語を支える不可欠の存在だろう。

それで、映画は.......どうなんだろう?

1

Posted by ブクログ 2022年09月03日


全編通しバキバキに覚醒しており、水分が無くなるまで煮詰めた煮物の様な文体で脂の乗りまくった中上作品。本作以降に現れ始める“神話性”の様なものが、以降作品に強い魅力を加えていると思う。
他作含め読み手を非常に選ぶのは間違い無い。

0

Posted by ブクログ 2018年02月19日

本作品には鬼が宿る。大江健三郎や三島由紀夫など読んだ瞬間に圧倒的才能を感じさせる天才が稀に居るが中上健次もその一人であろう。彼が「路地」と呼ぶ所謂部落出身者の湧き出る熱情を血で綴るように中本の一統の5つの物語を紡ぐ。説明的な読者への配慮は一切なく濃密で息苦しい程の言葉の茨が読者を捉える。

極めて優...続きを読むれた表現だと思うが筆者がいう「高貴で澱んだ血」を受け継ぐ者たちをオリュウノオバを軸に暴力や女性蔑視の表現を以て語られる。時空間や常識の概念に捉われず「高貴で澱んだ血」に縛られる。

芥川賞受賞作「岬」も凄い作品であったが本作はそれをも超えている。この作品がなんであったかは説明が難しい。ぜひ読書体験いただきたい。

0

Posted by ブクログ 2016年12月05日

ネットがこんなに発達していない時代、こういう本は読者一人一人の心の中の、誰とも共有されない深い深い部分にしまわれていたのじゃないかな。
他人の感想が聞きたいし語り合いたい気持ちもするけれど、それをしてしまえば何かがすっと手の中から飛んで行ってしまいそう。
だからどんなに狂おしく興奮した部分があったと...続きを読むしても、それを感想に記すことは出来ない。
でも、たまらない。本当に。

0

Posted by ブクログ 2015年04月09日

生と死、エロスとタナトス、あの世とこの世、文字と声、文学と物語…それらの混淆と対峙。10年ぶりに読んだけど、改めて名作。

0

Posted by ブクログ 2014年08月05日

夏芙蓉の甘い薫りが漂うと金色の鳥が甘い蜜を吸いに来る。熊野の山は烏天狗が舞い、天女が羽を休めにくる。龍は天へと昇っていく。鶯の声、梟の声が聞こえ銀色の川が流れる。蓮の池の上につくられた浄土は路地という。四民平等に憤り竹槍で刺されるは落人狩りをした土民たちの再現か。千年もの長きに渡って受け継がれてきた...続きを読む澱んだ血の所為か先祖が歌舞音曲に狂った報いの為の仏罰か。歌舞伎役者のような男振りに淫蕩、盗人は澱んだ血の為せる業。百年も千年も生きていたオバ。産婆と毛坊主の生と死を司る夫婦。非業の死を遂げる男衆たち。

紀州熊野の山村を舞台にした連作短篇集。ゾラのルーゴンマッカール家の遺伝を彷彿とさせる中本の血、マルケスのマコンドのような生者と死者、怪異が一体となった混沌とした世界観、有島武郎の『カインの末裔』のような土臭さ。面白い。中上健次は初読みだったが気に入ったので「紀州サーガ」をもっと読みたい。


〈どうせこの世がうたかたの夢で自分一人どこまでも自由だと思っても御釈迦様の手のひらに乗っているものなら何をやって暮らしてもよいと言いたかった。〉〈生きながらえ増え続けボウフラの如く生命がわきつづける事が慈悲なら空蝉のように生れて声をかぎりに鳴いて消える生命も慈悲のたまものだった。〉

0

Posted by ブクログ 2014年08月02日

日本人ならこいつだ!!と久々に思えた傑作。
この濃さがたまらなくよい。
『カラマーゾフ~』一族の濃さも最高lvだが負けてない。
路地という閉鎖空間ももちろんこの濃度をあげているが。
人物は粗野なのに文体は精選、
内容は血なまぐさいのに視点は常に冷徹。
この対比が、切り詰めた空気を作っている。
部落地...続きを読む区の話ではあるのだが
(外界との交わりから)相対的に差別が描かれる、のではないので、被差別がテーマではない。
外界との比較なしでここまで濃い地縁を描いているのがまたすごい。

0

Posted by ブクログ 2016年08月15日

★★★
山にへばり付くような土地作られた”路地”は、昔は町への出入りも制限され、男たちは革をなめしたり土木仕事をするしかない集落だ。
オリュウノオバはその路地のただ一人の産婆で住民の親世代は全員取り上げた。夫だった礼如さんは寺の和尚がいなくなってから在宅の坊主になった。坊主と産婆の夫婦である二人は、...続きを読む路地の住人の人生の出口と入口を見てきた。
礼如さんは中本家の血統。浄く澱んだ血を持つ中本の男たちは女を腰から落とすようないい男揃いで享楽に生き動物のように女と交り、決して長生きできない。
今は年を取り寝たきりとなったオリュウノオバはその床で中本の男たちの人生を想う。
中本の中でも格段の男振りを誇る半蔵、
体中から炎を吹き毛燃えるように生きていけないなら首をくくって死んだほうがましとヒロポンを打ち逢引相手の夫を殺す三好、
まるで異形との間に生まれたかのような文彦、
南米に移住して新天地を夢見るオリエントの康、
盗人生活から南米に渡り銀の幻影を見る新一郎、
北海道で路地と同じような境遇のアイヌ集落で発起しようとする達男。

寝たきりのオリュウノオバの意識の漂う時間は、過去も未来もない交ぜで、路地の過去千年を見てきて、そしてこの先の千年も見るだろう。
オリュウノオバの道徳観も、人が殺されればその分産んで増やせばいい、生まれたらみんな仏だ、というもの。中本の男たちが死んでも、自分が取り上げた子が死んだと嘆くのではなく、その死により中本の罪が清められたと拝む。

濃厚かつ圧倒的で吸引力のある作品です。
★★★

巻末の吉本隆明氏、江藤淳氏の解説が、論文のようで世界背景を解説してくれています。

作中の現実的出来事はかなり過酷だが、オリュウノオバの漂う意識という語り口で、同じ文章内でも複数の語り手からの目線で語られるために、幻想的でもあります。

作品内で圧倒的な文章力を見せつけられた二つの場面。長すぎて「引用」に入らないので書き出してみる。

(二つ目はネタバレのため、嫌な人は避けてください)

 P127
≪オリュウノオバは眼を閉じ、風の音に耳を傾けてさながら自分の耳が舞い上がった葉のように風にのって遠くどこまでも果てしなく浮いたまま飛んでいくのだと思った。見るもの聴くもの、すべてがうれしかった。雑木の繁みの脇についた道をたどり木もれ陽の射す繁みを抜け切ると路地の山の端に出て、さらにそこをふわふわと霊魂のようになって木の幹がつややかに光ればなんだろうと触れ、草の葉がしなりかさかさと音が立てば廻り込んでみる。それはバッタがぴょんととび乗ったせいだと分かって、霊魂になっても悪戯者のオリュウノオバはひょいと手をのばしてバッタの触角をつかんでやる。風が吹いたわけでもないし他の危害を加える昆虫が来たわけでもないのに触覚に触れるものがあるとバッタは思い、危なかしい事は起こりそうにはないがとりあえずひとまず逃げておこうとぴょんとひと飛びするのを追い、さらに先に行くのだった。そこから朝には茜、昼には翡翠、夕方には葡萄の汁をたらした晴衣の帯のような海まではひと飛びで、田伝いに行って小高い丘から防風に植えた松林までえもいわれぬ美しい木々の緑の中をオリュウノオバは山奥から海に塩をなめに来た一匹の小さな白い獣のように駆け抜けて浜に立ってみて潮風を受け、ひととき霊魂になって老いさらばえ身動きのつかない体から抜け出る事がどんなに楽しいかと思い、霊魂のオリュウノオバは路地の山の中腹で床に臥ったままのオリュウノオバに、
「オリュウよ、よう齢取ったねえ」とつぶやきわらうのだった。「寝てばっかしで、体痛い事ないんこ?」
「痛い事ないよ」
オリュウノオバは霊魂のオリュウノオバにむかって、いつも床に臥ったままになってから身辺の世話や食事の世話をしてくれる路地の何人もの女らに訊かれて答えるように言って、霊魂のオリュウノオバが風にふわりと舞い、浜伝いに船が一隻引き上げられた方に行くのを見ていまさらながら何もかもが愉快だと思うのだった。オリュウノオバは自由だった。見ようと思えば何もかも見えたし耳にしようと思えば天からの自分を迎えにくる御人らの奏でる楽の音さえもそれがはるか彼方、輪廻の波の向うのものだったとしても聴く事は出来た。≫

≪以下ネタバレ!!≫


P76(中本の血統の一人、三好が首をくくった時のオリュウノオバの幻想)
≪オリュウノオバはため息をついて、三好の背に彫ってあった龍がいま手足を動かしてゆっくりと這い上がって三好の背から頭をつき出して抜け出るのを思い描いた。これが背の中に収まっていた龍かというほど大きくふくれ上り梢にぶらさがった三好の体を二重に胴で巻きつけて、人が近寄ってくる気配がないかとうかがうような眼をむけてからそろりそろりと時間をかけいぶした銀の固まりのようなうろこが付いた太い蛇腹を見せて抜け出しつづけ、すっかり現れた時は三好の体は頭から足の先まで十重にも巻きついた龍の蛇腹におおわれてかくれていた。龍が抜け出た背中の痛みを舐めてなだめるように舌を出して腹のとぐろの中に頭を入れる度に宙に浮いた形のまま龍の腹はズルズルと廻り、風で物音が立つと飛び立とうとして顔を上げた。龍が急に顔を空に上げ、空にむかって次々と巻いた縄をほどくようにとぐろを解きながら上り一瞬に夫空に舞い上がって地と天を裂くように一直線に飛ぶと、稲妻が起り、雲の上に来て一回ぐるりと周囲を廻ってみて吠えると、音は雲にはね返って雷になる。
三好が死んだその日から雨が降りつづけた。
オリュウノオバはその雨が、中本の血に生まれたこの世の者でない者が早死にして夫にもどって一つこの世の罪を償い浄めてくれたしるしの甘露だと思い、有難い事だと何度も三好にむかって手をあわせた。≫

0

Posted by ブクログ 2013年05月13日

この世の彼岸、生と死がただ循環する路地世界の中で、血脈の時を越えた年代記であり、それを見届ける聖の物語である。その異界いや新世界に一読者として浸るのはまさに愉楽であり皆苦でもある。新たな小宇宙を創り出す著者の力量には感服です。

0

Posted by ブクログ 2011年11月24日

密度の詰まった濃密で圧倒的な文章にノックダウンされます。登場人物も生き生きとしていて鼓動まで伝わるかのようです。美男率高し。中上の書く青年は本当魅力的。映画はどうなるんだろう?!

0

Posted by ブクログ 2009年10月04日

彼の著作の中で私が最も好きな本だ。一人の作家の多くの作品の中で一番好きな作品と言うものを選び出す方が難しくあるが、この物語は醜い、儚い、力強い、そして美しい。

0

Posted by ブクログ 2023年10月22日

秋幸3部作よりも、鳳仙花や千年の愉楽のような女性視点で描かれる中上健次作品が好き。
例えば、夕焼けがきっぱりと夜に包まれるまでの描写一つにしても、その美しさに衝撃で震える。谷崎潤一郎も真っ青。

0

Posted by ブクログ 2023年04月15日

「路地」の高貴で穢れた血筋を持って生まれた男たちの美しくも儚く短い一生を、彼らを産婆として取り上げたオリュウノオバと呼ばれる女性の目を通して描いた短編集。
運命づけられた一生を懸命に生き切ろうとする姿を神話的な要素を交えながら描いており、全編を通して生の力強さを感じさせる作品です。
いい意味で脂ぎっ...続きを読むた物語を読みたい方は是非。

0

Posted by ブクログ 2021年03月16日

血と土地と宿命と
彼らはそれに縛られているのか?
はたまた誰よりも自由なのか?
縛られているとしたらそれは果たして本当に血なのか?
刹那的に生きることでしか彼らは生きられなかったのではないのか?

オリュウノオバの語りで三次元という小説の一般的な枠組みを超えて、物語は過去と現在と未来をつなぎ、路地か...続きを読むら世界へと、全てが並列につながる。

この作品の到達点こそ、日本文学の誇りであり、改めて中上健次という圧倒的な才能に震える。
何よりこの作品には切実さがある。ここにある物語は語られねばならなかった物語たちなのである。

出会えて良かったと心から思う作品だ

0

Posted by ブクログ 2018年12月15日

中上健次の作品は、血と地に縛られてるのだと思ってましたが、そうか、むしろ解き放つものなのだと思いました。

0

Posted by ブクログ 2016年09月16日

6篇の短編集。路地の若者達の人生を産婆の目を通して眺める視点。時代を超越し、時間の経過をかき乱す文体。読み進むうちに脳内に浮かぶビジュアルが印象的。売り飛ばさずに本棚に残す本。

0

Posted by ブクログ 2015年09月12日

美しさ=早世である
女をよろこばせる⇒天性
描写がとても官能的である
理性にではなく本能に訴えるような表現だ
淡々と悦に達し死に向かっている

0

Posted by ブクログ 2012年12月29日

本の雑誌12月号で「中上健次ならこの十冊を読め!」の記事があった。
僕は枯木灘しか読んでいない。路地を舞台にした物語群を知り、読む気になった。
産婆のオリュウノオバが語る中本の家の澱んだ高貴な血のもとに産まれる男達。女がほっておかない色男で、彼らは女たらし、ヤクザ者、泥棒、大陸浪人。そして運命のよう...続きを読むに短い命を終えていく。

紀州の山と川と海しかない土地。山で行き止められた路地。濃厚な生と死と血の匂いがぷんぷんと湧きたつ。性表現もアブノーマルでかなりドギツイのだが、何故かこの世のものとも思われない。
異種婚姻の誕生譚もあり、どこか神話のようでもある。
時に、彫琢せずゴロリと目の前に転がされた文章にぶつかる。読者を何処かに置き忘れているのかも知れない。そういう文章に吉田健一に似ているなとふと思う。

しかし、南米や北海道に主人公が移ると途端に磁力が低下するような印象。後半は読む集中力が持続しなかった。ガルシア・マルケスの「百年の孤独」ほどの神話性は無かったかな。
とは言え、あまりに独特の作家。他の作品も手にしてみるつもりである。

0

Posted by ブクログ 2012年08月31日

路地と呼ばれる被差別部落を舞台に、
美しくも呪われた血筋の男たちの生と死を
オリュウノオバを語り部に描く。

どろどろとした欲や情念はそのままに
その中に垣間見える、人間らしさ、というものを
世界中にに掘り起こそうとしている。

0

Posted by ブクログ 2012年06月10日

薄い文庫ですが、中身は濃厚で、土俗的な雰囲気。
改行も少なく、ぎっつり畳みかけるように。
熊野の地で、「路地」の若い者のすべてを取り上げた産婆オリュウノオバが見守っていく。
中本の一統という血をひく様子が、色々な子に現れる。
蔑まれる貧しい暮らしでも、なぜか生まれつき見た目は良く、色白で顔立ちが整っ...続きを読むていて人を惹きつけ、先祖に貴族でもいたのか、それも放蕩を尽くした千年前の平家の家系でもあったのではと思わせるほど。

しかし、男達はどこか危なげな性格で、澱んだ血が内側から滅ぼしていくかのように早死にしてしまう。
主人公は一話ごとに変わっていくので、やや読みやすい。
男ぶりが際だっていた半蔵は、女の方から次々にやってくるのだが、ついには…
盗みや博奕に入れあげ、ヒロポンのせいか目を病んだ三好。
オリエントの康という異名のある男。
集団で南米の新天地に移住しようと企画するが…

男女の仲も本能のままに肉弾相打つといった露骨さ。
戦争中、戦後まもなく、などという時代設定も、危ういものをはらんだ空気にフィット。
夫が僧となり、オリュウノオバは子供らを取り上げるという生死に関わる暮らしをしていた夫婦。
しだいに百年も千年も路地を見守ってきたような感覚になっていくオリュウノオバ。
命が立ち上る原初の時代のようで、圧倒される熱気だが、読んでいて妙に醒めてくることも。
諦観や毒気も混じっているせいなのか…?

オリュウノオバと呼ばれた女性は実在し、晩年に作家が何度か取材して聞き書きしたことをもとに書いた小説。
ただし、産婆ではないそう。
オリュウノオバの夫で寺を持たない僧侶となった礼如のモデルは、法名を礼静といって、かなり実像に近いという。

著者は1946年、和歌山県生まれ。
76年、「岬」で芥川賞受賞。
この作品は1980年から連載開始、82年単行本化。
92年、急逝。

0

Posted by ブクログ 2020年07月15日

独自の、確固とした世界観を持った、圧倒的な物語だった。
倫理も法も縁のないような埒外の世界には、人ならぬ者が決めたような、自然のままに出来上がる秩序のようなものがある。

その路地で子供が産まれる都度、産婆として一人一人をとり上げてきたオリュウノオバからは、何世代もの時の移り変わりによって自ずと形成...続きを読むされる、「血」としか言い様がない宿業のようなものが見えるのだろうと思う。

その、逃れようのない連続した生命の流れを俯瞰しているような視点は、ガルシア・マルケスの「百年の孤独」に似たものを感じた。しかし、片方はこの業を「孤独」ととらえて、もう片方は「愉楽」と名づけている。

古代ギリシャの神々や、日本古来の神々が、倫理を超えてただ在るがままに在ったように、この物語の中の人々というのは、人間というよりももっと原始的な存在に近い。この、あまりにも混沌とした猥雑さと生命力を悦びと考えるのは、とても日本的なおおらかさである気がする。

この、ある面では放恣に過ぎる俗世事を神話のように昇華させているのは、やはり語り部としてのオリュウノオバの存在が大きい。銀河鉄道に乗るメーテルのように、時を超越して全体を見渡す視点があってこそ、若さも愚かさも美しいと思える。

文章は、なんだか込み入っていて、主述の関係もよくわからないし、読みにくくはあるのだけれど、それが気にならないぐらい、語られる内容そのものに力がある。素晴らしい小説だと思う。

オリュウノオバは人の家に上がり込み物を盗る事はさして難しい事でもないがそれをする必要もないからやらないのだと三好に言ってやりたい気がしてむずむずし、どうせこの世がうたかたの夢で自分ひとりどこまでも自由だと思っても御釈迦様の手のひらに乗っているものなら何をやって暮らしてもよいと言いたかった。(p.62)

赤ん坊は決して虫と同じものではないが、生命は水たまりにわいてくるボウフラのようになんの大仰な手続きもなく甘い香りを放つ白い夏芙蓉の一夜の夢のような路地の中に次々とわき出し、その度にこれが食うこともかなわぬ親たちによって昔の事ならつかの間の明りを見ただけで闇にもどされたのだと思い、何よりも手足を振って泣く赤ん坊そのものが貴い小さい仏の化身のような気がし、虫のようにわく生命そのものが有難いものだとオリュウノオバは手を合わせたかった。(p.62)

オリエントの康はまた空想癖が出たようにここは蓮池の上に出来た土地で、どこかで眠る人間の一瞬の夢のようなところだと花恵に向かって言って、痛みが体中をしびれさせているのに花恵を胸に抱きよせ、花の蜜のように血が包帯から滲み出していると驚き、外から肥った姉の声がし女らが声を殺してわらうのを聴き、犬らの群が路地の辻を駆けめぐる音がする。(p.174)

0

Posted by ブクログ 2022年05月27日

リービで解説というか分析されていたので読んだ。中上らしい性と暴力の小説である。オリュウノオバという産婆が自分が取り上げた赤子が若くして殺されることを、その子どもごとにいくつかの話にしたものである。
 全集5の中で読んだ。これがリービがいうほど素晴らしい小説かどうかがわからない。

0

Posted by ブクログ 2018年05月17日

感覚的にやや距離を感じた物語でした。血筋によって運命付けられているというその諦念には哀れも感じるが、取り上げた子らの生き様を見るオババの視点が面白い路地サーガ。

0

Posted by ブクログ 2016年10月01日

他の方もおっしゃってるように、どことなくガルシアの『百年の孤独』を想起させるような、題名と内容。
「高貴で穢れた血」を持つ者の生き死にを、路地唯一の産婆のオリュウノオバが追憶する物語でした。

半蔵や三好など個々の人物とその淫蕩な人生に焦点を当てつつも、中本の一統の血筋への悲哀と諦念、そしてオリュウ...続きを読むノオバによる生命の尊さ、清らかさの賛歌が全編に渡って貫かれている。淡々と流れるような言葉の紡ぎ方と、内と外の関係性、その三段階の視点の設定が特徴的。

淫蕩で怠惰だけれど高貴で尊い、という矛盾を矛盾させることなく描いているのが素晴らしい、けれども繰り返し繰り返し同じ言葉で直接的に語るのは若干単純な気もする。

0

Posted by ブクログ 2014年07月20日

ものすごく乱暴かつ陳腐に言い表すと、「生」と「性」が濃密に絡み合っている作品。通称「路地」を舞台にした連作短篇集ですが、<各篇が小宇宙、一冊で大宇宙>というより、<各編が大宇宙、一冊で無限大>という感じでしょうか。自分にはスケールが大きすぎて理解できていないことが理解できるので、評価は曖昧な★★★

0

Posted by ブクログ 2013年09月04日

一人の産婆の視点から見た
野良猫のように
生まれ死んでゆく
路地の男たちの物語。

短命なのは
中本の血のせいなのか
漢ぶりのせいなのか。

憧れる。

とりあえず
短命でも良いので
彼らのようになりたい。

0

Posted by ブクログ 2009年10月04日

中上 健次の描く世界は、日本語が持ち得るエネルギーの塊を熱いまま僕らに見せてくれる。
男はどこまでも強くそして心細く、路地裏の匂いと音が襲ってくる。

0

「小説」ランキング