著者の哲学の入門書。認識論、存在論、実践論の3部で構成されている。
第1章では、著者の「四肢的構造」論が解説されている。著者はまず、意識対象・意識内容・意識作用という三項図式を取る近代的認識論の枠組みの問題点を指摘し、現にあるがままの知覚風景的な場面から出発しなおすべきだと説いている。その上で著者
...続きを読むは、知覚的現相には「個別的・直接的でレアールな所与を、それ以上のイデアールなあるものとして覚知する」という機制がそなわっていると論じる。それ以上の「あるもの」は「所識」と呼ばれ、「所与」と「所識」という二肢構造に基づいて、哲学的判断論を再構築するための道筋が簡潔に示されている。
一方、こうした覚知をおこなう主体のほうに目を向けてみると、私たちが何らかの判断をおこなうとき、文化的・社会的に同型的な判断主体として振舞っていることが確かめられる。そのつどの個別的・具体的判断をおこなう主体は、共同主観的な主体を僭称しつつ、判断をおこなっているのである。つまりここにも、具体的・個別的でレアールな主体である「能知」と、共同主観的でイデアールな主体である「能識」という二肢構造が認められるのである。対象の側の「所与-所識」と、主体の側の「能知-能識」の連関を説くのが、著者の四肢的構造論である。
第2章では、こうした著者自身の存在論に基づいて、従来の存在論の再検討がおこなわれる。とりわけ、世界には客観的な合法則性がそなわっているという理解がどのようにして成立したのかが論じられている。
第3章では、本格的な実践論に向けての導入として、著者自身の役割存在論の骨子と、行為の妥当性や価値、さらに人格が、どのようにして説明されるのかが論じられている。