ネタバレ
Posted by ブクログ
2020年11月03日
松本清張作品を彷彿させるような人間の欲望や社会をうまく織り交ぜたミステリー、エロスなどを取り込んだ作品で、なんとも言えない重厚感を味わいました。
100歳の男が死亡した事件。これを皮切りに様々な人間たちの渦巻く欲望が交差していきます。
基本的には3人(途中もう一人加わります)の視点を入れ替えながら...続きを読む、進行していきます。
一人目は、介護士の豊田佳代。死亡した男がお世話になっていた介護施設で働く。恋人はいるが、冷めた関係である。愛を感じない日々だったが、ある事を境に刑事と求め合う関係になっていきます。
二人目は、刑事の濱中圭介。死亡事件を捜査する刑事。妊娠中の妻がいるが、ある事がきっかけで、介護士と不倫してしまう。
三人目は、記者の池野立哉。最初は別件で取材をしていたが、段々と死亡事件と繋がることに。
序盤は死亡事件の捜査なのですが、次々と予想もつかない展開が出てきたので、世界観に引き込まれました。途中まではこれって「湖の女」じゃないの?と思うくらい、題名に違和感がありましたが、後半から増えていくので、意味合いがグッと深まっていきました。
今の状況では満たされない欲望が、これでもかと描かれていて、個人的には理解に苦しみました。
不倫に至るまでの道のりが唐突過ぎて、これで発展するんだと衝撃を受けました。欲望の果てに見える「愛」の形は、当事者にしかわからないものであり、理解不能でもありました。
「愛」を描くだけでなく、事件としても欲望が渦巻いていました。真実がどんどんねじ曲げられていき、あたかもそれが真実かのように変換していく。自分を守るために人間の本性が次々と表れていくので、腐っているなと思ってしまいました。
全体的に不穏な空気感で、嫌な気分にもなりました。
上手い具合に現実に起きた出来事や発言を取り込めながら、作品と融合しているので、リアル感もありましたし、重厚感も感じました。
事件はどうなるの?と思いながら、読んでいましたが、最終的には・・・ちょっと残念かなと思いました。
真相は闇で、なんとなく分かるような真相でしたが、個人的にはっきり示して欲しかったなと思いました。
そういった意味では、同じ作者の「犯罪小説集」を読んだ後味に似ていました。