Posted by ブクログ
2021年06月20日
「世の中には娯楽や嗜好品が溢れていて、それらのほとんどは生活に不可欠というわけではない。ピザやラーメン、本や映画が無くなっても、世界はきっと回っていかだろう。だけどそれでも、あったら嬉しいの気持ちは世界には不可欠だと思う。」
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とか、
オリンピックが延期になんてなるわけないというモノローグは、
コロナ禍を意識して書かれたものか。
この時代、この時期を生きているからこそ伝わる小説の体温を感じた。
どうして小説って、この今しかない、世の中とか生きにくさの感じを写真より動画より鮮明に切り抜けるのだろう…。
そう思うと、音楽に近いかもしれないな。
例えば10年後に読み返しても、本屋も開いてないからネットで置き配で頼んで、在宅勤務の合間に一人で読んでいるこの部屋の感じ、
ワクチン接種とオリンピックに向けて不安と興奮の中を進む世の中の感じを私は思い出すだろう。
自分以外の人間がほんとうに生きているなんて思っていない。
他人の人生を背負う不自由に耐えられない。
オリンピックだって今は開催に向けて動き出して、いろんな意見がとびかっているけれど、結局感動に弱い人間は終わったあとには忘れてしまうだろう。
正しい、正しくないなんて決められることではないし、
「いいじゃん、愛なされなくても別に。」
女性誌から「愛され」「モテ」のキーワードが消えたと言われる。
今は「自己肯定感」の時代だと言われるけれど、どう持っていいのかわからない人は多いと思う。
そんな二人が出会って、孤独ではなくなること。
人間だと認めあって生きていくこと。
ラストの、匂いや音が立ち現れてくる感じがとても泣けた。
二十歳と二十二歳のふたりが、多くの「あったら嬉しい世界」に出会いますように。