Posted by ブクログ
2020年10月09日
前に読んだ同作家さんの「狐と鞭」は日本霊異記をアレンジした作品集だったが、こちらは今昔物語を中心に『鬼』が出てくる話をアレンジした作品集。
第一話「鬼一口」の元ネタは瀬川貴次さんの『ばけもの好む中将』で春若君が真白君と仲良くなりたいと一芝居打った元ネタと同じで記憶に新しい。『ばけもの~』の方はズッ...続きを読むコケ落ちだったが、こちらは切なすぎる恋の顛末となっている。しかも主人公の外道丸が後に酒呑童子となるというエピソードにまで繋げるあたり、ワクワクする。
その後は山奥に住む母子三人家族を襲う悲劇、帝と后に起こるトンデモ事件、橋に現れる鬼を確認しに行った男のその後…など、様々な話が続く。
だが結局『鬼』とは人の内にいるモノと気付く。
恋に溺れ、何かや人に執着し、嫉妬や憎しみ、或いは何としても生きたいという強い意志が極限まで達した時、人は人でなくなる。
そしてあまりの惨劇、衝撃的な事件、口にするのも憚られるような出来事を隠すために『鬼』のせいにする。
ブラックな話が多かったが、中にはちょっといい話もあった。こんな風に使われるのなら『鬼』も嬉しいかも。
表題作はちょっと拍子抜け。格差社会にちょっとした仕返しをしても良いじゃないか、というのは分からないでもないが。
最後の二編は酒呑童子に関する物語。茨木童子と酒呑童子をこんな風に絡ませるとは。
そして退治する側の源頼光をこんな恐ろしいキャラクターにするとは。頼光が酒呑童子を一喝するシーンにハッとする。
同時に童話の『桃太郎』始め鬼退治の話は実のところこんな酷いことなのかも知れないと思う。
『鬼が本当に在るか在らぬかではなく、鬼に成るか成らぬか、だ』
鬼は人里離れた山奥にいるのではなく、人の住むところにいる。