Posted by ブクログ
2020年01月04日
日本での貧困と途上国の貧困はどう違うか、あるいは同じなのかという問いに答えられずにいた。
大抵の情報は別々に書いてあるし、自分の中できちんと結びついていなかった。それがこの本で、はっきり理解できた。
この本にも書いてあるが、年寄りの「自分たちの若い頃(終戦直後)はもっと貧しかった。それでも必死で頑...続きを読む張って、日本を経済大国にしたのだ。今は貧しいといっても物乞いも餓死者もないじゃないか。ゲームしたりスマホ持ったりしてるじゃないか。甘えとる。」というような発言を何度も聞いていて、そのたびに反論できないが不快な思いをしてきた。
この本を読んで、このもやもやはおかしいものではなかったのだ、とわかった。みんなが貧しければ卑屈になることはない。自分を貶める必要もない。そもそも戦争を起こしたのはそういうことを言っている老人の親の世代であって、戦争中子供であった彼らには何の非もないことが明らかなのも堂々とできる理由の一つだと思う。途上国の子供たちが貧しくても生き生きとしているのも、自分が惨めだとか、劣っているとは思っていないからだ。みんなが貧しく、だれも学校に行かず、豊かな暮らしを見たこともないなら、卑屈になりようがない。
しかし、現代の貧困は違う。ほかの子供は塾に行ったり習い事をしたりする。家族で旅行にも行く。学校では同じ制服を着て、同じ給食を食べていても、貧困家庭の子供は自分は劣っていると感じる。家庭が不安定で勉強できないのに、できないのは自分がバカだからだと思う。自己肯定感の反対の自己否定感にとらわれ、自分なんて何の価値もないと感じる。そういう子供が成長すると、一瞬の幸せを感じたいからドラッグをやったり、愛情を感じたくて売春をしたりする。
そして、途上国でスラムからもはみ出したストリートチルドレンや、親を殺されて少年兵になった子供たちにも自己肯定感はない。考えてもいいことは何もないから考えない。刹那の楽しみに逃げる。
「人は一度考えることをあきらめてしまうと、泳ぎをやめた魚のようにどんどん沈んでいくことになる。この先何年も自分が売春の世界に留まればどうなるのか、これ以上自分が傷つけられればどうなるのか。そういうことが想像できないので、自分が光の届かない恐ろしい海底へと沈んでいっていることさえ自覚できない。そして気が付いた時には、もい二度と浮き上がれないところまできてしまう。」(p126)
日本の貧困それが引き起こす社会問題、途上国の貧困とそれが引き起こす国際問題は、つながっている。
それをどうやって変えていくのか。
貧困の当事者の若者がどう考え、行動するかはもちろん、私たち大人が何をすればいいのかもちゃんと書いてあるのが素晴らしい。
貧困をテーマに多数の著作がある著者だからこそ、貧困が引き起こす様々な実例を挙げていて説得力がある。
世界にいる1億人のストリートチルドレンが幸せを感じることなく死んでいっているなら、それは核ミサイル以上の殺戮であり、彼らの死因は社会の(私の、私たちの)無関心である、という指摘は強烈だった。今まで何もしてこなかったことを本当に申し訳なく思う。
この本は17歳(高校生)に向けて書かれているので、もちろん責めてはいないのだが。
学校教育の意義について書かれているところも、深く肯首した。
学力はもちろん大切だが、主張の仕方や助けを求める方法を学んだり、いろいろな家庭や社会があることを知り、「自発的に自分や社会の問題を解決していく力を手に入れること」(p133)が大切なのだ。
「君が学校で身につける教養は、それ(人々の無関心)を打破して社会をより良いものにしていくことのできる最良の武器なんだ」(p133)
こういう視点で教育している教育者がどれほどいるだろうか。東大の入学式での上野千鶴子の言葉を思い出した。アインシュタインやガンジーの言葉も紹介されていたけれど、皆同じことを言っている。あなたの力を、ほかの人のために使いなさい、と。
高校生が関心の高い(けれど学校では教えてくれない)ドラッグとセックスの関係について、また性風俗に従事する女性の背景についてもきちんと書かれている。偏差値が高い生徒でも間違った解釈をしていることが多いので、ここは本当に良かった。
社会に出る前に、ぜひ読んでおいてほしい。
実際に取材した情報だけでなく、数々のデータ(もちろんすべて出典あり)をグラフで提示しているので説得力もある。
本当に読んでよかった。