ネタバレ
Posted by ブクログ
2019年04月26日
深水黎一郎作品としては異色作だった『言霊たちの夜』。その中に収録の「情緒過多涙腺刺激性言語免疫不全症候群」という1編が、本作の原点と思われる。一言で述べるとメディア批判、テレビ批判であるが、ご本人としては風刺小説という意図があるらしい。
最初の「生存者一名あるいは神の手」からテーマが実に重い。...続きを読む自然災害が発生する度に繰り返される、メディアが遺族を追い回す図。自分が追い回される立場になったとしたら。誰でもなり得る。抗う気力もないケースがほとんどだろうが、主人公の男性の場合は…。
…んー、ここまで腐っているか? 本当にやったらBPOが動く程度では済まないだろう。さて、最後に主人公がとった行動によって、その後の展開は2つに分かれる。結局両方読むわけだが。まず「女抛春(ジョホールバル)の歓喜」に進むか。ジョホールバル?
テレビ業界の内幕なんて、まあこんなもんでしょ。働き方改革なんてこの業界には関係ない。ADは下手すりゃ奴隷以下。バラエティ番組の進行がシナリオ通りなんて視聴者はわかっているし、フリートークが本当にフリーなわけがない。風刺も何も、事実を列挙しただけでは。
そこに先ほどの男性がどう絡んでくるのか? 業界人としては看過できないが、こういう議論は一般層にはさっぱり受けない。テレビそのものへの関心の低下も一因だろうが、その割にはネット上で盛り上がるのは芸能スキャンダルばかりという現実もあり…。
最後に行きましょう、「童派(ドーハ)の悲劇」。ドーハ? エリートを自称する男性。「彼」は、メディアをぶった切る聡明な恋人との会話に満足していた。結婚する予定だった。ところが、「彼」が1年間の研修を終えて、帰国してみると…まったく予想外の展開が待っていた。
芸能界やメディアにある種の忖度は確かにあるだろうが、さすがにここまでは…。苦笑いしか出てこない。一つ言えるのは、「彼」みたいなタイプはうざがられるだろうということ。多くの一般人にとって、テレビは真剣に見るものではないし、真剣に戦う相手でもないのだ。
風刺として成功しているのかどうかは、何とも言えない。自分が本作から感じ取ったのは諦念かな。既存メディアとネットって、結局持ちつ持たれつなんだよね。