ネタバレ
Posted by ブクログ
2019年10月04日
瀬名秀明さんの新刊が出たらしいと聞き、久々に読んでみようかと思ったら、長い上に定価は税別2,700円…。ちょっと迷ったが、以前は新刊は欠かさず読んでいた作家である。少しは懐具合に貢献することにした。
主人公はレストランで働くマジシャンのヒカル。テーブルを巡って客にマジックを披露する。そんなレス...続きを読むトランに行ったことはないが、ロボット技術が大きく進んだこの時代設定では、ポピュラーな業態なのだろうか。
ヒカルは高校時代に辛い過去を持っていた。その過去に関係ありそうな男が店に現れ…という第一話。何だか重そうで早くも気乗りしなくなるが、まだ先は長い。そして、ある老紳士からミチルというロボットを託される。唐突というか、勝手というか。第二部からが本番だが…。
好意的に解釈すれば、《ル・マニフィック》の料理とサービスを体現するような作品を目指したのかなあ、とは思う。ヒカルのマジシャンとしての成長記。ロボットのミチルとの交流記、あるいはミチルの成長記。SFであり、過去に繋がるミステリーでもある。色々な読み方ができる。
贅を尽くした作品であるのは間違いないが、盛り込みすぎてテーマがぼやけた感がある。瀬名秀明らしいといえばらしいけれども。一時期のような哲学的難解さはないが、わかりやすくもない。いや、共感しにくいと言うべきか。ミチルに共感できるヒカルは、感受性が豊かなのだ。
色々テーマが絡み合う中で、一つ読みどころと言えるのは、マジックの描写なのだろうが、瀬名秀明の力量をもってしても、イメージが湧きにくいのが正直なところ。少なくとも、ヒカルのマジックを目の前で披露されたお客さんの感覚にはなれない。あの舞台については、大変興味があるが。
マジックとロボットを絡める必然性も気になる。それぞれ主張が強いテーマである。一皿の上で融合しているとは言い難いかな。最後の第四話は再び重い展開になる。人間の悪意と対峙した末に、ヒカルが至った結論とは。まあ、彼が救われたと思うなら、それでいいのだろうが、じゃあ彼女の人生って…。
マジシャンってこんな過酷な職業なのだろうか。もっと本人が楽しむものなのでは、と擦れた読者は思うのだった。もちろん、感動したという声もあるが、一見さんが手を出すには、長さと価格はネックだろう。