Posted by ブクログ
2019年08月31日
旧日本軍の軍艦を調べていたある日、偶然目にした一枚の写真に写る若者が気になりその人物について調べていくと、菅野直という旧帝国海軍の戦闘機パイロットであることがわかった。
本書には題名通り、その菅野直の出生から死を迎えるまで書き綴られている。
23年の生涯はあまりにも短すぎると思えたが、当時の厳しい...続きを読む世相の中を精一杯に生きた一人の青年の生涯は大変濃厚なものであった。
菅野直というと、その生涯を通じて子供のような腕白さを持つ人という印象が強い。
大胆で、決して並の人間ではできないようなこともすいすいとやってのける行動力。でも、手に負えない乱暴者というわけではない。
軍人となった後もその手の話は尽きない方だけど、一見粗野にも思える彼の行動の根幹には、常に守るべき他者の存在を感じる。それは友人であり、家族であり、部下でもある。彼の原動力というのはそうした身近な人のためにと、実にわかりやすく温かみのあるものであった。
腕白で粗野。けれど、それがただの自己中心的な暴力ではないのは、彼が持つもう一つの面、文学少年であったことも影響するのではないか。
荒っぽい一面と文学を好む繊細な一面。その反する性質からなかなか複雑な人柄であったことを考えずにはいられないが、かえってその質のおかげで戦乱の中にあっても今も語り継がれる伝説的な活躍をされるに至ったことだと思う。それを本人が良しと思うか否かは知るところではないが、当時の日本に対しマイナスの感情しか持てずにいた私が当時の人物(それも軍人さん)について書かれた本を手に取るに至ったように、入り口は違えど多くの人が彼に惹かれる。本当に魅力的な人であった。
当時の軍人というと、とても遠い存在のように思えて仕方がないが(尽忠報国とか、個よりも全(国)と、とにかく個人というものを感じさせない雰囲気。民衆との間にも厚い壁を感じる)、この一冊を読み、菅野直という軍人の生涯を知ると、軍人もまたひとりの人間であり、それまでに至る人生や人間関係、趣味もあるという当たり前のことを当たり前と感じさせてくれた。
菅野直の生涯として読むのも面白いが、軍人とはどんな人であったかという視点からみても今まで感じていたものが変わる、そういう一冊であった。