Posted by ブクログ
2022年03月29日
「私、人を殺しました」
通報者は高次脳機能障害を持つ女性、柏原真由子。彼女は数分前の記憶を保つ事が出来ない。20年前、通り魔 閤田幹成の手によって両親を殺され、自身も逃げる際に車道に飛び出し車に撥ねられてしまう。記憶障害はこの事故での後遺症だ。その後、車を運転していた事故の加害者 柏原光治と結婚す...続きを読むる。
彼女はメモに残す事で記憶の補填をするのだが、それを復讐心の維持に利用する。だがその行為によってメモを見る度に両親が無惨に殺された事実を知る事となる。これが数分置きに繰り返されるなんて....。心はそんなに強くできているものなのだろうか、考えただけで真由子の置かれた境遇に心が潰れそうになる。
数分後の自分に向けて「今は幸せです」と一言残せばこの苦しみから解き放たれ一生思い出す事は無くなるのに、彼女はそれを選ばなかった。ここの執念に圧倒されてしまった。
しかし、私もきっと同じ境遇に立たされたら忘れたくないと願うはずだ。苦しい。真由子に対する同情心で更に潰れてゆく....。
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記憶が維持出来ない恐怖を、真由子は障害として、刑事優香は母の認知症と重ね介護の苦しさも同時に表現している。完全なるフィクションに絶妙なリアルが混入していた。
正直に言うと、ぶっ飛んだ設定を内心面白がり箸休め程度に手に取った作品だった。最初は記憶を無くしては補填する、取り調べや留置所での真由子視点の歩みの遅さにもどかしさすら感じていた。そしてココにそれを愚痴の如く書き連ねる未来の自分も視えていた。...はずだったのだが、恐ろしい程物の見事に感情移入していき、どんどん心臓が圧迫されていく始末だ。久々に読書後に気分が落ち込んでいる。
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終盤に訪れる怒涛の二転三転は見事としか言い様がない。そんなに苦しみを増やさないでくれと心が嘆いていたのも事実だが、小説としての面白さで考えると素晴らしい構築だったと思う。強いて言う不満は、刑事はバディでなくて良かった事くらいだ。ここだけは著者の女子を感知してしまい居心地が悪かった(笑)
そう言えば、真由子の旦那 光治に全く触れなかったが、19年の介護生活は愛か打算か、読者はどちらでこの物語を追うのか、読者の心に巣食うのは天使か悪魔か、物語の真実は喜びか悲しみか、是非ご自身の目で見届けていただきたいと心から思います。
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唐突だが、夢は人に話すと実現しなくなるなんて話を聞いたことがある。これを例に、辛い 悲しい話はどんどん産み出され、発信されるべきだと私は思う。そして絶対にその物語を現実に連れ出してはならない。悲劇を学ぶのだ。
なんちて、持論展開で気持ち良くなってみようと試みてみたのですが、暫くはこの気分の落ち込みは続きそうだなぁ...。安静にします...。
面白かったです^ ^