Posted by ブクログ
2020年10月24日
本作は吉田修一先生の作家生活20周年を記念し、刊行された作品とのことで、初めて本著者の作品を読んでみた。上巻の感想であるが読み応えがあった。
文体が「~でございます。」「~なものでした。」で、少し慣れない丁寧な口語で描写されているため、NHKの朝ドラを思い浮かべながら読み進める。
長崎の任侠ものか...続きを読むと、少しテンションが下がりながらも、作者の経歴を調べてみると、長崎出身であることを知り納得する。(が、長崎はあまり関係がなかった)
「任俠の一門に生まれながら、この世ならざる美貌を持った喜久雄。上方歌舞伎の名門の嫡男として生まれ育った俊介。二人の若き才能は、一門の芸と血統を守り抜こうと舞台、映画、テレビと芸能界の転換期を駆け抜けていくが――。長崎から大阪、そして高度成長後の東京へ舞台を移しながら、血族との深い絆と軋み、スキャンダルと栄光、幾重もの信頼と裏切り、数多の歓喜と絶望が、役者たちの芸道に陰影を与え、二人の人生を思わぬ域にまで連れ出していく。(吉田修一さん新刊「国宝」1万字インタビューより)」
歌舞伎は人生で1度しか足を運んだことがなく、一般的な知識しか持っていない。柳広司先生の「風神雷神」で、宗達の想い人が阿国であった設定で、その時に歴史的なことを少しだけ調べたくらいである。
歌舞伎の起源は、1603(慶長8)年、出雲の阿国による「かぶき踊り」が京都で始められたとされている。
柳先生の「風神雷神」では、この阿国と伊年(後の宗達)が恋愛よりもっと冷めてはいるが、そんな関係になる。そして、阿国が伊年の元を離れている間に遊女歌舞伎が人気となる、というような記載もあった。調べるところによると、歌舞伎の歴史は、阿国、遊女、そして少年が行う若衆歌舞伎を得て、今の成人男性が女形を演じる今の歌舞伎に至ったということを知る。商売(金儲け)を考え出す人の知恵と規制は、いつの時代からもあるのだなぁと感心した。
演目は、江戸時代の歴史的な出来事「時代物」、江戸時代の人々の生活「世話物」、そして、歌や音楽に合わせ踊る「舞踊劇」の3つに大きく分かれ、本作でも出てきているが、『仮名手本忠臣』、『道成寺物』、
『信州川中島合戦』、『勧進帳』、『曽根崎心中』などがある。
本作の中で演目の説明があり、それが参考になる。演目の読み方、ストーリーの説明を知ることができ、本作への興味が広がる。
本作の「丹羽屋」という屋号は、実際にはない。立花喜久雄は父親を殺された後、上方歌舞伎の名門「丹羽屋」の花井半二郎にお世話になる。美貌な容姿と、自身の努力もあり、半二郎の名を継ぐことになる。血族の関係が深い世界に飛び込んだ元任侠の息子。芸能界での栄光を垣間見たのも束の間、落ちた者に対する執拗な弱い者いじめ。成功への道から外れた喜久雄がいかして這い上がっていくのであろうか。