Posted by ブクログ
2018年10月07日
「西洋」の終わり 世界の繁栄を取り戻すために
ビル・エモット
エネルギーという商材を扱うESSは、地政学が事業に及ぼす影響が大きいため、国際情勢に対する感度を高く保つ必要があると私は考えている。著者の論旨は上述のように明確であるが、これに加えて各国に対する分析が秀逸で勉強になる。
西洋という...続きを読む概念のもとに国を運営してきたヨーロッパ諸国、アメリカ、日本、その他国々はブレグジット、トランプ政権誕生という転換点に際してどう対応すれば良いのか?ということが主題の本。
西洋繁栄の源泉は開放性、権利の平等、社会の信頼であるが、民主主義のもとではともすれば当然視され、維持しようとする努力を怠りがちになる。中国の台頭とロシアの強硬姿勢に対し、国際ルールは揺らぎ、西洋社会に分断が生じている。著者はこうした現状に警鐘を鳴らし、西洋という理念が多くの成功を納めてきたことを指摘し、見通しは暗くないこと、復活への戦いを提唱している。
◯民主主義が直面する課題
・これまで大成功を収めてきた西洋の理念が深刻な窮地に立っている。
開放性と平等という特質が内外の新しい脅威や状況に対して進化をもたらしてきた。この利点は悪用されやすいという弱点もある。
・政治献金により政治的影響力を増す、例明らかに独占なのに咎められていないグーグルやウォール街による、金融政策への影響
・不平等な意思決定とそのコストが大衆に負担される不条理
・開放性と平等性を再び回復できるかが課題
◯アメリカを正道に戻す
・失業者への保険が厚い一方、再就職の支援が薄い。
・ウォール街への反トラスト法を実行し、権力の集中を打破、ロビー活動の影響力を減じる。
・変化を求めるポピュリストの圧力を超党派の活動で改革を進める力として使い、ホワイトハウスから議会に主導権を移す。
◯分かりにくいイギリス
・長期の慢性病で、利益団体が強く、経済成長が乏しい。
・サッチャーの時代に労使の関係が改善し、自動車産業が回復し、クリエイティブ産業が成長した。
・EU離脱の是非は要因が複雑に絡むが、大きかったのは移民の流入を防ぐためというもの。
◯欧州の麻痺
・金融危機はアメリカで起こったが、失業率は欧州のが高かった。ユーロがドイツ並みの低金利を経済の弱い国にも、波及させ規律が乱れた。
・移民危機がEUの理念に最大の損害を与えた。非難合戦。
・EUには改革の是非を決める頭脳がない、合議制。国レベルで経済、社会、政治に不調を抱えている。
・イタリアは質の高いブランドを有するが、15人以上雇用すると企業側が不利になる労働法があり、規模が大きくなると政治家と犯罪者ごすり寄ってくる。裁判費用が高すぎて訴えられない。悪循環。
・しかし、EUを、立て直す方法はある。欧州諸国が協調的なものを目指す
◯日本という謎
・明治維新、敗戦、と壊滅的な危機が無いと徹底した変容はない。
・基本的な問題は、需要の低迷、所得の低下、新たな富を生む起業と企業投資の不足、これによる硬直化。
・家族よりも会社が中心で、取引先や株主よりも上司、社員のために尽くす文化。
・ウインストンチャーチル「正しいことを常にやると当てにできる、ただし他の選択肢が尽きた時に」
日本が国際化と言いながら国際化しないのは、内需が大きく変わる必然性が無かったから。しかし、選択肢が尽きてきている。
◯スウェーデンとスイスの奇術
・スウェーデンの躍進。1991年の金融危機が転機となり、減税と全てのプログラムでの規制緩和を行い経済が好転。その根底には10年前から変革の機運があり、足並みが揃う土壌があった。
・スイスは永世中立国であり、閉ざされた国のように見えるが、実態は孤立した開放性を持ち、労働市場が柔軟で他国からの移民も多い。海外から頭脳が流入してきた。
・いずれも先進国ながらテクノロジーを駆使した経済の好循環があり、これを財源として高い社会福祉を実現している。
◯野蛮な来訪者(中国の台頭)
・国際安全保障に関する三つの問題
1. 中国が自国利益のため国際ルールの新解釈や改変の圧力
・中国は特別扱いと敬意を要求しており、最もトランプにとって最も厄介。その圧力が一時的ではないから、そしてその願望は変化し続ける。アメリカと台頭な大国になりたい。
・東、南シナ海における領有権の主張は明確に違反(国連憲章や国際海洋法条約)。昔の時代の現状維持を主張している。そして既成事実化して推し進める。
・偉大な国で、南シナ海を支配する必要があり、その能力もあり、それが正当だという見方の元、公益、すなわち平和な国々の権益を守るために軍事施設の設置を行なっている(フィリピン沖の岩礁に人工島を建設)。法律を尊重し、指示するが、必ずしもそれに従うとは限らない、並ぶもののいない大国だから許されるという理屈。
・中国との交渉の余地は皆無に近く、また、中国も交渉を必要としていない。
・西洋の同盟、友情、思いやりにより維持されてきた強力なネットワークは自発的に形成されたもので、アメリカの覇権に頼っているわけではない。同盟を見下し、損得勘定で考えるトランプの姿勢は重大な危機であり、中国に優位性を与えてしまう。
2. 被害妄想に取り憑かれるロシアが世界で暴威を振るい、ルールに従わないのに、対処できない
・産油国のロシアは原油高の時期に財政が潤い、軍事拡大に動いた。
・ロシアの目的は西洋の結束を崩し、ロシアが孤立し弱体化していることを際立たせないこと。ウクライナ、クリミア、バルト三国へのサイバー攻撃、大統領選挙への介入によるトランプアシスト
・最大の脅威は西洋そのものの分断と優柔不断、経済を再建し政治力をたかめ、同盟、友情、正当性の柱を育む。
3. ISの反文明思想、宗教の極端な解釈を悪用し、戦いを起こす
4. 北アフリカ、中東、中央アジアの失敗国家やその予備軍が過激組織の活動ができる空白を持つこと。
◯西洋復活のために
・西洋をこの半世紀形成してきた国々が理念と価値観を守り抜き、それぞれの国の状況に応じた形に創り直す自信があるかどうか。
西洋社会が従うべに8原則
1. 開放性が最も重要だが、常時開かれなくても良い(資本、移民、制限や段階措置は必要)
2. 平等ここ全て、金だけが重要ではない(教育の機会平等、雇用形態によらない労働者平等、富裕層の特権の固定を防ぐ)
3. あらゆるレベルと年代の教育(平等を支える唯一の重要な柱)
4. 若年層と高齢者の世代間の平等(高齢化への対応)
5. 法の支配は交渉の余地のない保証(贈収賄、政治家と民間の利益が結びついたところに生まれるえこひいき)
6. 言論の自由
7. 退屈で変わらないことが、経済成長の好ましい目標
8. 国際的な法の支配と国際協調を育むこと