「どの国においても、墓地は美しい。東京の墓地も例に漏れない。しかし、私の見た限りでは、ほかの国では見られない特色がいくつかある。第一は、花の季節になると町中でもっとも賑やかな場所となることである。まるで盛り場。死者と生者が交流して花を楽しんでいるといった感じである。日本人ではないから、これは神道の影響であるといった差し出がましいことは言えないのであるが、なにかそういう関連があるような気がする。アメリカの開拓時代にも、亡くなった者を裏庭に埋葬する習慣があった。幾分似ているような気がする。とにかく桜の花の満開の時は、賑やかな谷中墓地は独り歩きに理想的な場所であった。…………町を散歩するとき、昔から金のたっぷりある界隈よりあまり裕福でない所の方が好きである。谷中の墓地の中でもっとも惨めな墓は、高橋お伝のものであろう。墓地の端っこの公衆便所のそばで今にも滑ってなくなりそうな感じである。私はここが大好きで、側に立ってお伝の顔を想像して、ご苦労さまと言いたくなる」東京は湯島に住みなして、三社祭の見世物化を憂い、四季の桜・藤・朝顔を愛でながら、浮世を眺め暮らす。古今の日本文化を味得したアメリカ生まれの文人による極上の随筆34篇。

ジャンル
出版社
みすず書房
ページ数
208ページ
電子版発売日
2013年06月14日
コンテンツ形式
EPUB
対応端末
  • Lideo
  • Win PC
  • iOS
  • Android
  • ブラウザ

谷中、花と墓地

Posted by ブクログ 2008年09月29日

 親しい人からは「サイデンさん」と呼ばれていたそうだ。通常は英語で書かれた文章を日本語に翻訳依頼していた原稿も、このエッセーは身辺雑記でありタウン誌に連続掲載されるものなので、サイデンさんの日本語文章なのだ。そのたっぷりとした成熟した文体は魅力的。川端先生、三島先生と丁寧な言葉使い。そして最も尊敬す...続きを読む

このレビューは参考になりましたか?