Posted by ブクログ
2012年01月22日
全体的に物語が進展した。また以前に比べてトリックも「なんじゃそりゃ」というのがなくなり、満足。那智・三國に由美子が加わった2作目からさらに狐目の彼や冬狐堂も登場し豪華になり、やや手の込んだトリックが紹介されるのが見どころだ。もちろん那智と三國の絶対的な上下関係も相変わらず笑わせてくれる。年を取ったら...続きを読むその分だけ楽しめるだろう作品。
なによりも「それほど面白そうなネタがあるのに、どうしてフィールドワークを行わない」「自らを研究材料に出来るなんて、民俗学者としてこれほどの栄誉はないはずだ」(p.17)と言ってしまう那智と那智にひと睨みされると決意が砂上の楼閣のように揺らぐ三國が最高!
「憑代忌」:(あらすじ)最近やけに写真を撮られる――。女子大生に頼まれれば悪い気はしないが、学校の不思議的なこじつけの迷信に異端の民俗学者・蓮丈那智の助手・内藤三國が要素として組み込まれてしまったのだ。同時にフィールドワークに先で「お守様」をめぐって事件が起きて――。(あらすじ終わり)
神話や伝説に秘められた真実は時には闇がある。だがそれは過去の事ではなく、自らの欲求のため出会ったり思想の本末転倒により不幸をもたらすのは人でもある。それを感じ取った名作で、那智のスマートな強さに感心した。
「湖底祀」:(あらすじ)小さな村で水底に沈む鳥居が見つかった。これを機に鳥居についてなぜ「鳥」なのか、など那智の命令により調査することになった三國。絶対的な彼女の言葉により呼び出されたその村で、事件は起きる。(あらすじ終わり)
民俗学的な見地と実地調査をする村役人の対立が描かれ、さらにそこに潜む闇を上手くミックスさせ書いている。やや強引な気もするが那智と三國の関係がこっけいさ・軽さを演出しているので、さほど気にならない。知的好奇心も満たされる良作。
「棄神祭」:(あらすじ)那智因縁の御厨家へ向かう。其処で行われる祭祀は守り神たる神の像を燃やすものだった。過去の事件と向き合うと祭祀の意味も浮かびあがる。そこには驚愕の事実が隠されていた。(あらすじ終わり)
トリックがもろ個人的に好みだった。これは事件はともかくとして時代考証をすると実際にあり得るのではないか。疑心暗鬼に怯える人は勘違いから罪を犯す。以外に簡単に解りそうなトリックだが、すっかりだまされてしまった。やはり北森鴻は物語を書くのがうまい、と再認識した。
「写楽・考」:(あらすじ)斬新な――冒涜的な民俗学の論文が掲載され、三國は戦慄する。著者式直男の正体とは、そして式家文書なるものは実存し、締めくくられる「べるみー」とは何なのか。疑問を抱いていたところ、その当の本人式家にフィールドワークへ出かけることになる。式家文書を拝もうとしたところ失踪事件が発生し――。(あらすじ終わり)
冬狐堂の再登場や狐目の彼が本格的に動き出すなどシリーズが大きく進展した印象があった。トリックは4作品の中で一番手が込んでいるからこそ、豪華の顔ぶれの登場に相応しいのだが。タイトルと本編の関連がこじつけに見えたが(だっていつまでたっても写楽が出てこないんだもの)、ユーモラスなラストに悪い感じはしなかった。