Posted by ブクログ
2014年12月28日
「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」のジョナサン・サフラン・フォアの24歳の頃のデビュー作。なんの前知識も無く題名に惹かれて読み始めたが、ホロコーストにまつわる物語だった。感想がまとまらない。
作者がモデルであるアメリカ人青年ジョナサンは、ユダヤ人祖父を助けてくれた女性アウグスチーネを探し...続きを読むにウクライナを訪ね、怪しい英語を使うウクライナ人青年アレックスとその祖父、犬のサミーデイビス・Jr. Jr.と旅をする。物語は3層構造になっていて、アレックスからジョナサンに宛てた手紙、アレックスの手記、ジョナサンが書いたウクライナの歴史小説が組み合わさる。アレックスの文章はユーモラスで、ジョナサンの小説は神秘的でエロスと死の香りがする。
手紙と手記はアレックスの怪しい英語のために読んでいてかなりの取っつきにくさであるが、このウクライナ人青年アレックスが、通じないかもしれない言語を使って、それでも果敢にユダヤ系アメリカ人ジョナサン(と、ジョナサンを通した私達読者)に語りかけるところが肝である。アレックスは懸命に書く。最初はどことなく能天気に思われたが、旅が進むにつれ、異邦人であるジョナサンと心通わせるようになり、もっと、もっと、と話し、書く、きみのことをもっと話してください。それは二人の間にとても距離があると彼が自覚しているからだ。
しかしその距離は実は彼らが思うほど遠く離れてはいなかった。旅の終わり、アレックスの祖父が堰を切ったように過去を語る。今まで誰にも言わなかった事を。ホロコーストのもとに「より小さな方の悪を選ぶ」という選択。アレックスの祖父とジョナサンの祖父は、ウクライナのどこかですれ違っていたかもしれない。どこかで何かがずれていればアレックスとジョナサンは出会うことは無かったーー。
私はこの物語の終わりが好きではない。だが自分の弱さと愚かさに歯噛みをする日々の私には、アレックスの祖父を責める資格が無い。彼の過去の選択と、そして最後の選択は……何と言っていいかわからない。どちらも家族を思ってした事で、間違っているとも間違っていないとも言うことが出来ない。過去とのつながりを断つためにした事は、かえってその過去と孫のアレックス、そしてジョナサンとのつながりを強めてしまったし、アレックスは心がズタズタになっただろう。
死なないで欲しかった。たとえそれまで自分一人で何十年も抱えていたとしても、旅を終えたアレックスと一緒に、自分の過去のその選択を、生きて考えていって欲しかった。そして作者はそうやって彼らを傷付けることで読者にボールを投げたのだ。
この本には答えが無い。私が出来るのはずっと考えていく事だけだ。彼の、そして私の選択を。
それと……読みながら、「映画になってそうだな」と思ってたら、なっていた。しかも何年も前に映画館に観に行っていた。読んでて全く気が付かなかったので脳がスポンジ状の可能性ある。