情事と事情

小手鞠るい

「すべての愛には、裏がある。」

恋愛小説の名手が描く、大人たちの上品で下品な恋愛事情、その一部始終。

著書メッセージ:「不倫に嫌悪感を抱いているあなたにも、不倫小説が大好きなあなたにも」
だらしない女ときちんとした女。女癖の悪い男と誠実な男。天使と悪魔。結婚と不倫。純愛と情事。あなたは、どっちが好きですか。私はもちろん、だらしない女と、女癖の悪い男と、悪魔と、不倫と、情事です。だって、おもしろいじゃないですか、読むのも書くのも。きちんとした女と誠実な男が結婚したって、つまらない家庭しか築けませんよ。「幸福な家庭はどれも似たようなものだが、不幸な家庭はそれぞれに不幸なものである」と語ったのはトルストイですが、私はこう言いたい。「恋愛を描いた小説はどれも似たようなものだが、情事を描いた小説はそれぞれに不条理で病み付きになる」と。アメリカのテレビドラマシリーズを意識して、毎回ノンストップで読ませるエピソード7つ。今までの小手鞠るいとは、ひと味もふた味も違った悪魔的に優雅な情事小説です。
不倫に嫌悪感を抱いているあなたにも、不倫小説が大好きなあなたにも、自信を持っておすすめします。もちろん、恋愛小説が好きなあなたにも、嫌いなあなたにも。

• カテゴリ: 小説・文芸
• ジャンル: 小説 / 国内小説
• 出版社: 幻冬舎
• 掲載誌・レーベル: 幻冬舎単行本
• 電子版発売日: 2022年05月25日
• コンテンツ形式: EPUB
• サイズ(目安): 1MB

[ブクログ · ★★★★★]

出来の良いラズベリータルトみたいな一冊。鈍く重くずしりと甘いチーズケーキにスキッと酸味のある漆黒のベリーが満遍なく散りばめられている至高の一切れ。なんでこれが☆5個付かないのかね。割とマジで分からん。

まず、江國香織さんみたいな体言止めを使うね。文章の表面に生じる凹凸からの乱反射が、人物の主張や機微の輪郭をくっきりと縁取っている。恋愛モノには体言止め。これは必須だなぁ。

次に断定。○○なのが女という生き物だ、って表現がよく出てくるんだけど、強く断定されてしまうことに対して私はなぜだかそれを心強く感じた。まるで異国の現地ガイドになし崩し的に謎の観光プログラムに参加させられているような、そんな感覚。これが効果的に散らばっていて、本当に良かった。

あと最後は文章表現のセンス。下に表現例かくけど、なんだかとてもバランスがいいなと感じた。的の真ん中近辺を外さない、しっかり全ての表現で90点をとってくる。賛否両論あるのかもしれないけど、本当にセンスがいい。

内容についてもね、女の嫌なところ、奥ゆかしさ、そして面白さを登場人物それぞれのストーリーからしっかり抽出できているなと感じる。なし崩し的に男に翻弄される登場人物が多い中で「美しいものだけを愛する」という軸が終始ブレないアリサさんしか勝たんね。ロジックがどんな時も安定している事ほど、男にとって分かりやすく扱いやすいものはないので。多分。

以下、気に入った表現集です

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美しいものは、夢見心地でなくてはならない(21頁)

もしかしたら、あなたがこうなるように仕組んだ？あなたは私の味方のふりをしているだけ。ああ、こんなことを思う私こそ「女性の敵は女性」と、男たちに言わせてしまう女に成り下がっている(26頁)

最初のうちは、かわいそうなくらい疲れていて、しょんぼりしていたけれど、飲みながら、飲ませながら、ぽつりぽつり話をしているうちに打ち解けてきて、すると、知性のかけらが大理石のカウンターの上にこぼれ落ちてきて、彼女を輝かせた(45頁)

この、縁の欠けたコップで水を飲もうとしているような寂しさは、なんなの(91頁)

重役になったとたん、女から訴えられようとしている女のことを、修は思い出す。失脚させると自分で決めておきながら、可哀想な女だと同情する
。かわいそう、ではなくて、なぜか漢字で可哀想と(95頁)

似合わないことをがんばってするのは、きちんとした女。私はだらしない女だから、自分に似合わないことはしない(187頁)

[ブクログ · ★★★★☆]

どの人物にも共感できなかったのに、面白くて一気読み。
最後のアレには驚いて、数行を何度も読んでしまった。その後の展開が気になる。

男も女も、狭い世界で欲のまま好き勝手してる。
途中で何とも言えない気持ち悪さを感じたけど、ヤるとかヤらないとか、盗るとか盗られるとか、踏み台にするとかされるとか、男女がその時の欲に忠実すぎて新鮮。
自分がこの人たちとは違う普通の、そして退屈な倫理観を持っていることが残念にすら感じた。

小説として読むのはよし！
実際にこういう人たちがいるなら、どうか私とは離れたところでやってくれと思う。

[ブクログ · ★★★★☆]

作者いわく

「恋愛を描いた小説は

どれも似たようなものだが、

情事を描いた小説は

それぞれに不条理で病み付きになる」

だそうで　なるほどな
薄っぺらいな　と思いつつも

都合のいい恋愛を

求める気持ちが　分かる気がする

人より多めに　ずるさを持ってるほうが

魅力的だなんて

皮肉だなぁ

[ブクログ · ★★★★☆]

ここ最近、女性作家による恋愛小説、をフィクションか否かを問わず立て続けに（あくまで自分のペースだが）読んだ。また、男女の或いは人間の情愛について考えさせられる映画（ドライブマイカー）も観た。

私はこれまで、女性の恋愛観、性愛感、と言うものを全く理解していなかったのだな…と今更ながらに気付かされた。

この作品の登場人物はみな、情事を絡めて複雑に、（たまたま我々読者が客観的に見て）どこかで繋がっている、男女たちである。短い節？、とでも言うのか？、に分けられた各章を読み進めていく事は、今どきの恋愛小説を読んでいるかのように錯覚してしまうが、頁を読み進めていくにつれて、実に真剣な、どちらかと言うと女性の側に立った、まさに「情事の事情」を軸とした、情愛を描ききっている様に思う。

途中の経過ではもちろん色々な出来事があるのだが、ただそこにドロドロとした未練とか、誰もが望んでいない様な悲劇的な結末とか、は無いように思う。

佳作である。恋愛について考えたい、いや、考えるのでは無く自分に置き換えてシミュレーションをしてみたい、或いは色々な情愛の形を断片的に、客観的に、覗いてみて参考にしたい、と言うどちらかと言うと「大人の」女性の方にお薦めしたい。逆に言えば「恋」に悩む女性にはあまりお勧め出来ない、読み始めるときっと嫌悪感を感じるのでは無いかと、私は思うのだが…

[ブクログ · ★★★★☆]

個性豊かな複数の女性と男性が絡み合って「情事」を織りなす。場面の移り変わりが激しくて少し読みにくかったけど、それだけ人々の心のなかはいろんな感情が渦巻いているということか。情事のなかにはさまざまな事情と心情があって、それがリアルに描かれているのがよかった。ラストは衝撃的。

p.57 実家の母親からは、帰省するたびに「だらしない！」と、叱られている。まりもにとっては、いやいや会社に通って、我慢料みたいな給料をもらっている女性たちこそ「だらしない」と思えるのだけれど。

[ブクログ · ★★★☆☆]

初読みの作家さんでしたが、読みやすくて意外と面白かったです。

不倫にパパ活…登場人物の年齢もバラバラなので全く繋がりのない人たちなのかと思ったら、どんどん繋がっていくではありませんか。

どの登場人物にも共感出来ないけど、愛里紗は他の人に比べて卓越している気がしてたんですよね。夫が何人もの女性と浮気していても気付かぬふりして自分の好きな事にだけ熱中して生活を楽しんでる…。それが、ラストでえ、え、え〜ですよ。不倫のお話のわりにはドロドロしてなかったのに最後の終わり方が衝撃的でした。

[ブクログ · ★★★☆☆]

女性達の情事が、主人公を変えながら目まぐるしく展開していく。
そのスピード感につられて一気読み。
今まで読んだ小手鞠さんの作品とは異なった雰囲気で、これはこれで面白かった。
が、登場人物の心情はわかるようなわからないような。
こういう世界に自分が疎くなっているせいかも。

[ブクログ · ★★★☆☆]

少し似たモチーフの同作家さんの話を2作連続で読んだが、どちらかというと女性失格の方が好みではあった。
ただ、こちらの方がサラッと読めて滑稽な話だなぁと感じた。

愛梨沙だけは友達になりたくないタイプ。
一番つかみどころがない。
他の人は可愛いところを感じられる。

ほしいものを手に入れるためにはずるさもいるかもしれないが、これまたみんな極端だなと思ってしまった。

[ブクログ · ★★★☆☆]

面白かった。ほぼ一気読み。
江國香織さんを彷彿とさせるけど、もちろんちょっと違う。江國さんの方が一見優しいけど、深い意味で怖い気がする。（別に比べる必要はないのだけども）

恋愛小説だけど、恋愛の過程というよりは、人間の滑稽さが客観的に描かれていて、そこが面白かった。登場人物がみんな、魅力的なのかもしれないけど、私的には知り合いたくない感じだったのも面白い。

人間はみんな、滑稽で怖くて可哀想。

[ブクログ · ★★★☆☆]

憧れの職業や華やかな暮らしをしている登場人物たち。その人たちの恋愛や仕事、自身の事情がさまざまありつつも皆、本当の顔は見せない。人の心の中は誰も分らない、と思わせたラストの衝撃は印象的でした。