ユーザーレビュー 背信の科学者たち 論文捏造はなぜ繰り返されるのか? ウイリアム・ブロード / ニコラス・ウェイド / 牧野賢治 研究不正の例を並べるだけでなく、科学の構造的問題を指摘。それのみならず、根本的な認識問題まで踏み込む。 すなわち、betrayer of the truth とは現実とかけはなれた幻想の科学・科学者観を持つすべての人を指している。科学・科学者に対する認識がそもそも事実と違う。このことにより、科学内...続きを読む部の欺瞞が真理追究を妨げることを許してしまうし、有効な対策が取れない。 著者はいくつかの処方箋を提示する。雑誌の数を減らして(ひいては研究者の数を減らして)論文の質を高めること、場合によっては教育と研究を分離すること、論文をオーサーシップを明確にすること、など。しかし何より、科学は科学者という普通の人間による所業なのだという認識を持つことが先決であるとも。 この本の視座からすると、ミスコンダクト防止教育(それ自体は大切だが)のプログラムは皮相的だと思った。 原著が書かれたのが1982年なので、今なら再現性を担保する技術的基盤の話があってもいいのかも。 Posted by ブクログ 背信の科学者たち 論文捏造はなぜ繰り返されるのか? ウイリアム・ブロード / ニコラス・ウェイド / 牧野賢治 「科学とはどのようなものであるかについて充分な理解を得るためには、哲学者、社会学者、歴史学者による厳密な抽象化は、型にはまった観念のような全体像としてではなく、多面的な物体のある一面として認識されねばならない。科学はまず第一に社会的なものだ。…第二に、科学は歴史的なものであり、時間と共に前進する文明...続きを読むと歴史の構成要素である。…第三に、科学は人間の合理的思考の文化的な一つの表現と言えるのである。 科学のこの第三の側面は非常に多くの誤解を生んできた、つまり、科学における強い合理性の存在は科学的思考の唯一の重要な要素であると受け取られてきたのである。しかし、想像や直感、忍耐、その他多くの非合理的な要素もまた、科学の過程の基本的な部分であり、さほど重要ではないと考えられている人間の希望やねたみ、欺瞞などもまた、ある一つの役割を演じているのだ。欺瞞はデータを偽る個人と、それを受け入れる社会の双方において、非合理的な要因が作用していることの証なのである」p.296-297 Posted by ブクログ 背信の科学者たち 論文捏造はなぜ繰り返されるのか? ウイリアム・ブロード / ニコラス・ウェイド / 牧野賢治 原著は1988年に翻訳・出版されてます。しかし、2014年のSTAP細胞論文の捏造事件を経て再出版されただけのことはあり、内容は決して古びておらず、むしろここ数年のデータ捏造や製薬企業などの改竄事件を鑑みると、この本で取り上げられているテーマはまったく変わっていないことが分かります。 本書では、人...続きを読むの幸福に影響を与えやすい分野である生物学と医学において、特に捏造や盗用、欺瞞が生じやすいとされています。また、歴史上有名な科学者であり成功者であるガリレオやニュートン、ダーウィン、メンデルなども何かしらの虚偽や恣意的なデータ作成を行なっていたことが明らかにされており、「科学においては少数の成功者の功績を記録し、多くの失敗を無視する傾向にある。そんな中で、成功者ですら虚偽を行なっているのだから、無名の無数の研究者の虚偽はより広範となる可能性がある」と論じています。科学の性質を考えると、さもありなんというところです。 特に、現代の科学者はかつてのそれと違い、研究成果が直接、報奨や評価、立身出世へとつながります。そういった状況において、虚偽をなくす、減らすという考え方自体に無理があるのだろうと思います。 著者は様々な虚偽の実態を明らかにするとともに、それを少しでも防ぐための手段として第三者によるレビューや追試を行うほか、同僚やインターネットによるチェックも有効になりえるとしています。そのうえで、科学を唯一でも絶対のものでもなく、「希望、プライド、欲望や美徳に支配される人間的な過程である」と断じています。一般的には、科学は唯一無二の真実であるかのように考えられていますが、それを行う科学者が人間である以上、あまり過度に信用しないほうが好いのかもしれません。 Posted by ブクログ 背信の科学者たち 論文捏造はなぜ繰り返されるのか? ウイリアム・ブロード / ニコラス・ウェイド / 牧野賢治 STAP細胞事件は、最近の論文捏造事件として大きく取り上げらている。しかし、科学の歴史を振り返ってみると論文捏造はある一定の割り合いで起きている普通の事件として捉えることができる。 しかも原著は1982年に出版されているにもかかわらず、「生物学や医学は、欺瞞が人びとの幸福に直接影響を及ぼしやすい分...続きを読む野であり、生物学おいて欺瞞は決してまれではない」と既に述べている。 客観性は科学者だけの特権ではなく、また科学者たちは狭いコミュニティの中で生きていることを忘れてはいけない。科学は人間くさい行為の積み重ねであることを、一般の人たちはあらためて認識した方が良いと思う。 科学の中で欺瞞を生み出す人間的所業としては、出世欲、上司からの圧力、研究費獲得のプロセスなどである。これらは科学以外の会社組織などにみられる階層社会では日常茶飯事のことではないだろうか。 歴史を振り返れば科学における真理にも紆余曲折がある。情報が豊かで、また情報が伝搬しやすい現代においては、科学ジャーナリズムの果たすべき役割は重要ではないだろうか。 STAP細胞事件はある意味科学ジャーナリズムの敗北と言える。 Posted by ブクログ 背信の科学者たち 論文捏造はなぜ繰り返されるのか? ウイリアム・ブロード / ニコラス・ウェイド / 牧野賢治 STAP細胞の事件が起こって、ばれるのに何故ミスコンダクトを行うのかが、気になっていたので読むことにした。 「追試は科学の進歩の原動力とはならないため、滅多に実施されることはない」とあって驚いた。 それなのに、科学者たちは「科学の自己修正機構」があると信じていることに矛盾を感じた。 ミスコンダクトを...続きを読む行う人たちは、大なり小なりミスコンダクトをずっと行ってきていて、今まで通りにすれば上手く逃れられると思ったのかも…と思った。 Posted by ブクログ 牧野賢治のレビューをもっと見る