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戦争の影迫る上海の街で、四人姉妹の3番目の「私」は、中国の風俗と生活の中で、思春期の扉をあけ成長してゆく。鮮烈な記憶をたどる7篇の連作小説「ミッシェルの口紅」と、戦後36年ぶりに中国を再訪した旅行の記「上海」。長崎で被爆して「原爆」の語り部となる決意をした著者が、幼時を過ごしたもう一つの文学の原点=中国。
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Posted by ブクログ
林京子といえば原爆作家、というイメージがある。被爆体験を特権化しているとして批判も受けたという林だが、彼女の作品を悲劇の物語として受容してきた側の欲望もあったのではないか。この連作短編集を読んでそんな思いをもった。 上海の日本租界に暮らした少女時代の思い出は、運河や長屋を包む匂いと音の暖かさとともに...続きを読む、他方ではテロリズムと官憲による監視がもたらす緊張との間で、調停できないままに引き裂かれている。 とりわけ鮮烈なイメージを残すのは、イタリアが降伏した日、運河に横倒しになったかつて白い貴婦人のような客船の姿、そして、軍に護衛されて出かけた遠足の先で、婦人奉仕団の開墾地で、葬られることもなくさらされる骨である。 終章が示唆するように、この死と暴力のイメージは、この少女がやがて長崎に帰郷して出会う原爆と切断されているのではなく地下水脈のようにつながっていた。そしてその後の著作が示すように、今もなお、ひそかに通底音をひびかせているのである。
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上海・ミッシェルの口紅 林京子中国小説集
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