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「大学は危機に瀕している」。何十年も前からそう叫ばれつづけてきたが、いまでも、様々な立場から大学を変えるための施策がなされたり、意見が交わされたりしている。では、大学の何が本当に問題なのか? 80年以降の改革案から遡り、それらの理不尽、不可解な政策がなぜまかりとおったのか、そして大学側はなぜそれを受け入れたのかを詳細に分析する。改革が進まないのは、文部科学省、大学関係者だけのせいではない。大学改革を阻む真の「悪者」の姿に迫る。
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Posted by ブクログ
ようやく読み終わった。何度も途中で読み返したり、また最初からに戻ったりしながら読んだので、妙な達成感がある。 しかし、著者もあとがきで書いているとおり、これはページ数も価格も反則だ(笑) 昨年の某学会での佐藤先生の基調講演が強烈だったと知人から聞いたのが、これを手にしたきっかけだが、非常に読み応えが...続きを読むあり、かつ同じ考えと納得できる点も多く、また新たに学んだことも多かった。 主張されていることは現実問題として荒唐無稽とかではなく、逆に真っ当なことなのだが、これが奇妙なことと扱われるのが現在の大学教育をとりまく行政、政策のもっとも大きな問題なのだろうということは実感する。とは言え、何ともならなそうな現実に絶望したりもする。 そもそも周囲の同僚(とは呼びたくないのが正直なところだが)の多くがここで指摘されている問題等に興味や考えを持っていない(ふりをしているだけかも知れないが)ことが更に絶望感を増す。 しかし、自分で何も出来ず誰かに何とかしてもらいたいなと思ってしまう他力本願な私自身も同罪なのだろうけれど。
30年におよぼうとする大学改革の掛け声にもかかわらず、いっこうにその実があがらないようにも見える大学改革について、その実態を批判的な観点から明らかにしている本です。 シラバスやPDCAサイクルの導入などの実例について検討をおこない、それらが「改革ごっこ」や「経営ごっこ」にすぎないということが、てい...続きを読むねいに説明されています。こうした著者の議論を読み進めていくと、「どっちを向いても茶番」という気持ちになってくるのですが、本書の後半で著者は、オーリン・クラップという社会学者による、社会を舞台に上演されるドラマの登場人物が「英雄」「悪漢」「馬鹿」の三種類に分類されるという説を紹介して、わかりやすい悪役を仕立てあげるドラマ的な大学改革の見かたそのものに反省の目を向けなければならないと論じています。こうした著者の議論にしたがうならば、「どっちを向いても茶番」といったような冷笑的な態度で大学改革の問題点を理解したような見かたに終始していることも、ほんとうの問題点をさぐり大学のあるべきすがたを追求しようとする姿勢とは相反するというべきなのでしょう。 本書には大学改革のあるべき方向性が具体的に示されているとはいえないのですが、むしろ「あるべき方向性」を性急に求める態度が、わかりやすいドラマ仕立ての改革案を生み出し、よりいっそう大学改革の迷走に拍車をかけることになるのかもしれません。必要なのは、問題をいっきょに解決するような斬新な解決策などではなく、個々の問題に対して個別的な対処をそのつど実行していくようなピースミール的な改良策であり、そのためには著者のように大学のあるべきすがたについて真剣に考えるスタッフが、それぞれの置かれている立場での活動をおこないやすくするようにサポートしていくことが、迂遠であっても正しい大学改革の道筋なのかもしれません。
実に精緻なデータの分析によって、いかに日本の高度教育が「大人の事情(=無理が通れば道理がひっこむ)」によって、さらには大学側の面従腹背によって混迷を極めてきたのかが語られ、本書が正に行なっているEBPM(Evidence-Based Policy Making)、そして過去の失敗から学ぶことの重要性...続きを読むが指摘される。 過去の失敗から学ぶには公文書の丹念な精査も必要となるわけだが、それが改竄されてしまうのがこの国の力量なわけで、暗い気分となる。 後書きでは新島襄の言葉が紹介される。 一国を維持するは、決して二三英雄の力に非す、実に一国を組織する教育あり、智識あり、品行ある人民の力に依らざる可からず、是等の人民は一国の良心とも謂うべき人々なり 教育なき国に良心は育たないのだろう。
ボリューム抜群。 シラバスの形骸化、PDCAサイクルの濫用など、昨今の大学の問題点が書かれている。
シラバスの煩雑化、「PDCAサイクル」の乱立、「おつき合い」的に形式と体裁を整えるためだけの業務の激増、「エビデンス」という名のデータの恣意的なつまみ食い……。本書の話柄は、大学に籍を置き、日常の業務に従事している者なら誰もが体感的に熟知していることばかりである。 しかし、できれば目を背け続けた...続きを読むいそれらを逐一問題化し、検証していく記述から受ける、圧倒的な徒労感と「死屍累々」感は何なのか。旧日本軍の「失敗」どころではない。もはや喜劇にもならない壮大な人的・時間的な無駄遣いがくり返されてきたことが、改めて読者に突きつけられる。たぶん政界と財界は、大学と教員に「知」的組織としての本来業務をおこなわせないために、次から次へとろくに「エビデンス」もない「改革」を押しつけ続けているのかもしれない。 全体的には首肯できる記述だし、大学/学生に「主体的であれ」と求める側がまるで主体性を期待していない様子が、的確に剔抉された点も評価できる。そのような「改革」に「おつき合い」をくり返してきた大学(人)への批判も同様だ。しかし、「大学院重点化」にかかる記述だけはいただけない。まるで出身大学以外の大学院への進学を好ましくないかのように描くこと、本来進学すべきではない層まで大学院に進学したかのように述べることには違和感を禁じえない。あるいは著者は、自分の学生にもそのように接してきたのだろうか。表には出さなくとも、内心そのように感じていた、ということなのだろうか。
殆どは大学の関係者ならおそらくは頷けるはずの大学改革政策のトホホな内情を紹介する内容。ただし最後の方で外側からあげつらうだけでない筆者としての改革の中身を充実させるための提案がなされており心意気は伝わってくる。
PDCAサイクルのどうしようもなさを、常々感じているだけに、その章が一番心に響く。 見事な和製英語のまやかしだったのか。
2020年1月で大学入試センター試験の幕引きとなった。2021年からは大学入試「改革」として、センター試験に替わり「大学共通テスト」が新たに導入されることになっている。 大学はこれまで、監督官庁である(現)文部科学省の旗振りの下に「改革」を求められ続けてきた。しかし、その「改革」がうまくいっている...続きを読むという話はあまり聴かない。若手研究者への支援が不十分だから今後の日本人ノーベル賞受賞者は減っていくだろう、世界大学ランキングで中国の大学が躍進する中、東大をはじめとした日本の大学の存在感が低下している、企業のニーズにあった学生教育がなされていない等々。 松岡亮二「教育格差」でも指摘されていたが、教育研究の分野ではとにかく「改革」は繰り返し行われるが、その効果検証が行われていない。いや、そもそも効果検証するためのデータ自体が残されていないことが多いのだ。初めから「改革」の効果検証をする考えがなかったのか、あるいは効果検証を含めた「改革」を設計することができていない、ということになる。情報の軽視は戸部良一他「失敗の本質」でも明らかにされているように、悲しいけれど、日本の官僚組織の昔からの伝統のように残り続けている。その伝統自体を改革しないといけないのだろうけれど、伝統は強い。 著者である佐藤郁哉氏は、「改革」を続けている大学で、教員として教育・研究の他に大学行政にたずさわり、様々理不尽な「改革」をさせられてきた。本書はそのタイトルの通り、いかに大学が迷走してきているか(現在進行形)を新書としては厚めの400ページ以上を割き、たっぷりと皮肉を込めて、その迷走ぶりが紹介されている。笑うに笑えないというか、それでも面白いのだが。 例えば、今や日本の大学でも当たり前になっている「シラバス」。「米国の大学ではシラバスが教育と学習の質を維持・向上させる上で重要な役割を果たしてきた」ので、日本の大学もシラバスを導入しようということになった。米国では、シラバスは各授業を担当する教員が履修する学生のためだけに授業計画を配布するというもので、担当教員の裁量の範囲内で運用されているものだった。しかし、日本の大学に導入されてみると、シラバスは「和風シラバス」となり、画一化されたフォーマットに教員が必須で作成することとなり、大学全体でデータベース化され、授業履修者以外にもあまねく公開される管理ツールとなり、当初の導入目的だった「教育と学習の質を維持・向上させる」ツールとしての機能は失われてしまった、という。 海外(主に米)の事例を参考に、「改革」案が検討されるも、往往にしていつの間にか換骨奪胎、過剰忖度により、別物となり「手段」と「目的」が入れ替わるということが起きているのだ。時間と労力をさいて「改革」を実行した結果、誰のためにもならないのでは、報われない。 各章の見出しを眺めるだけでも、迷走ぶりが伝わってくる。 第一章 Syllabusとシラバスのあいだー和風シラバスの呪縛 第二章 PDCAとPdCaのあいだー和製マネジメントサイクルの幻想、 第三章 学校は会社じゃないんだよ!―残念な破滅的誤解から想像的誤解へ 第四章 面従腹背と過剰同調の大学現場―実質化と形骸化のミスマネジメント・サイクル 第五章 失敗と失策から何を学ぶべきか?―大学院拡充政策の破綻と「無責任の体系」 第六章 英雄・悪漢・馬鹿―改革劇のドラマツルギー(作劇術)を超えて 第七章 エビデンス、エビデンス、エビデンス、・・・―「大人の事情」を超えて 大学の現場は上から下りてきた「改革」の対応をするために膨大な資料作成が求められ、時間と労力を奪われている。現場は「改革」疲れをしていて、現場発の改革案を打ち出して行くことは難しいとう。目的と手段を取り違えた「改革」が繰り返される様は滑稽で、もはや喜劇そのもの。当事者、特に学生にとっては悪夢以外の何ものでもない。 とはいえ、嘆いてばかりいても始まらない。著者が真に伝えたいことは、大学「改革」迷走の犯人探しは責任の押し付け合いになり、無責任体制と無謬主義につながり改善には至らないから、犯人探しの構図を相対化して、失敗に至った経緯のデータを客観的に分析して教訓を学び、今後に生かす必要があると提案している。
ここまではっきりと文字化されるとなぜか悔しい思いが生じるが、この本に書かれていることはほぼ全て実務担当者が感じていることだと思う。文科省、大学、高等教育に関わっている全ての人に読んで欲しい本。面従腹背も無責任な態度だと感じたので違う行動を選択しないといけないなあ。
大学職員として『大学改革の迷走』という新刊タイトルはcheckせざるを得ない。しかも新書で1200円もする。巻末の「参考・引用文献」を確認し読み始めた。 おもしろい! 業務上、20年近く政府・文科省の大学改革関係会議・答申等をwatchしてきたが、「過去30年あまりに及ぶ改革政策は明らかな失敗ないし...続きを読む「失政」だった(p269)」は痛快だ。PDCAやKPIなど胡散臭いカタカナ用語やアルファベットに惑わされず、地に足つけて現場から変えていこう。 多くの大学関係者に読んでいただきたい本。
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大学改革の迷走
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佐藤郁哉
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