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痴漢は犯罪であり、同時にその一部は「性的依存症」という病気でもある。東京都心のとある精神科クリニックで開かれる、通称「痴漢外来」。ここでは性的依存症の「治療」プログラムによって、通常30%台と言われる痴漢の再犯率を3%にまで抑えている。痴漢行為を行うのは、どんな人なのか。彼らに共通する「認知のゆがみ」とはなにか。どうすれば痴漢をやめさせることができるのか。最新の研究成果に基づき、痴漢をはじめとする性犯罪・性的問題行動の実態に迫る。
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Posted by ブクログ
依存症の中でも性的問題行動の治療に関わる著者。痴漢(全てではないが)を依存症の観点から見ること自体、新しい知識だった。 読んでいくと、加害者の治療・再犯の予防が必要と著者が強く訴えることに納得できる。治療と聞き、加害者を守るのかと反感を感じた人ほど本書を読んで欲しい。新しい被害や再被害を防ぐ視点が社...続きを読む会に広まって欲しいと思う。 また、専門家の性犯罪再犯リスクのアセスメント的中が50%と言う話から「高い金を払って専門家を雇うくらいならば、ワールドカップのときに予想を次々と的中させたタコでも飼っておいたほうがよいだろう」に笑った。 批判的な一般人の意見はまだしも、経験則や感情のみで動く自称ベテラン専門家の存在が、支援や治療の邪魔になるのかもしれない。
新しい世界を覗いたような感覚でした。 犯罪心理学の中でも、 性犯罪は特に難しい分野なのですね。 科学的に、倫理的に、そして人情を捨てずに、 ひととかかわっていきたいとおもいました。 全ての人が出来るだけよりよく生きるための指南書としても、良いと思います。
性にまつわる問題は難しい。特にそれが問題行動にまで発展した場合。本書は性犯罪の加害者、性的依存症、強迫的性行動症に加えて性犯罪被害者の現状に触れ、現段階での科学的な到達点からその治療や寄り添い方を示している。センセーショナルに報道されたり、感情的な取り扱いをされがちな分野だけに冷静で温かな対応が必要...続きを読むだと感じた。
とにかく加害者被害者ともに壮絶な体験をしている。それらを知ることが出発点だろう。 以下メモ 性犯罪の再犯率は5%。しかし痴漢や盗撮の再犯率は30~50%ほどある。厳罰化は再犯率を増加させるというエビデンスもある。(適正化は必要だか) DSM5にもICD10にも疾患(パラフィリア障害群)として分類さ...続きを読むれている。(ICD11では「強迫的性行動症」が新たに追加) 性犯罪のリスクファクターはその他の犯罪と基本的に変わらない。(反社会的な行動歴、交友、態度信念、パーソナリティ。教育や仕事上の問題、家族葛藤、物質使用、不適切な余暇活用。) 犯罪者治療には「RNR原則」というものがある。リスク原則は、リスクに逢わせて治療強度を変えるという原則(低リスク者に強い治療をすると再犯リスクがあがる)。 性的依存症の難しいところは他の依存症と違って被害者が生じること。だからリラプス(再発を意味する)をなんとしても避けねばならない。 思考ストップ法などコーピングを学習する。 性的強迫症者の自助グループもある。SCAという。
冒頭に"治療を伴わない刑罰は再犯防止効果がない"とあったが、重要な指摘だと感じた.性依存症の存在を否定する学者らの言い訳を、地道に確実に乗り越えて、再犯率の低下を得ている事実は素晴らしいことだ.フロイトの精神分析の欠点や過ちを認めないで、古い知識に拘泥している学者の存在を指摘して...続きを読むいたが、どの世界でも常に新しい知識を吸収する努力は絶対必要だと感じた.性依存症にはパラフィリア障害と脅迫的性行動症があるとの指摘で、前者には痴漢や盗撮、後者には過剰なセックスやマスターベーション、風俗店通いを例示していたが、いずれも治療可能だと強調している.参考になった.
■強い意志を持つこと,我慢することは確かに重要。反省ももちろん重要。しかし,それで収まるなら苦労はなく,むしろそれで収まるくらいならそもそも依存症ではない。圧倒的な衝動に突き動かされて理性や意志の力がなぎ倒されてしまうのが依存症の本質。 ・脳が乗っ取られたような状態になり意志の力では太刀打ちできなく...続きを読むなる ・意志の力に訴えかけ反省を促す「処罰」だけではこの問題を解決できない ■痴漢の再犯率は30%とされているところ,痴漢外来で治療を受けた人の再犯率は3%弱。 ■DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル)やWHO(世界保健機関)の国際疾病分類(ICD-11)には「窃触障害」という疾患がリストアップされている。 ・DSM-5ではその主な症状として「同意していない人に触ったり身体をこすりつけたりすることから得られる反復性の強烈な性的興奮が,空想,衝動又は行動に現れる」障害と記載されている ■窃触障害の診断基準 ・少なくとも6か月間にわたり,同意していない人に触ったり身体をこすりつけたりすることから得られる反復性の強烈な性的興奮が,空想,衝動又は行動に現れる ・同意していない人に対してこれらの性的衝動を実行に移したことがある,又はその性的衝動や空想のために臨床的に意味のある苦痛,又は社会的,職業的又はほかの重要な領域における機能の障害を引き起こしている ■窃触障害はDSM-5では「パラフィリア障害群」と呼ばれる一連の性的障害の中に含まれている。 ・対象の逸脱としては,子供,動物,物(下着や靴など)に対して性的欲動を抱くケースがある ・小児性愛(ペドフィリア) ・動物性愛(ズーフィリア) ・フェティシズム障害(対物性愛) ・手段の逸脱としては,窃触障害が代表的なもの。加えて露出障害,窃視障害(のぞき・盗撮) ■嗜癖性障害群 ・行動的依存症:ギャンブル,ゲーム ・物質依存症:アルコール,薬物,たばこ ■性的依存症の診断基準 ・渇望・とらわれ:特定の性的行動をしたいという強迫的な欲求を抱いている。また,常に性的とらわれ,ファンタジーを抱いている ・コントロール障害:その行動をしてはいけない,やめたいとわかっていても抵抗できない。その行動がネガティブ行動を繰り返してしまう ・頻度の増大:物質依存でいうと耐性に当たる症状であり,その行動の頻度が増大する。多くの時間を性的行動とその準備に費やす ・臨床的問題:性的行動は重大な心理・社会的問題を引き起こしている ■病気であるとみなされるのは次の二つを満たしたときのみ。 ・パラフィリア障害の場合,その性的対象や手段に逸脱や異常があるだけでなく,それが反復的になされる場合 ・強迫的性行動症の場合,性的衝動や行動の統制が欠如しているだけでなく,それによって本人が著しい苦痛を抱いているという場合 ■性犯罪のリスクファクター(危険因子) ・一般犯罪のリスクファクターのセントラルエイト ①反社会的行動歴 発達早期から反社会的行動を行っている ②反社会的交友 反社会的傾向を有する者との交友がある ③反社会的態度・信念 規範の無視や暴力の肯定など反社会的な価値観,態度,認識を有している ④反社会的パーソナリティ 共感性欠如,冷酷性,残忍性,自己中心性,自己統制力欠如などの傾向を有している ⑤教育・仕事上の問題 教育・職業上の成績が不良である。怠休,無職の状態にある,学校や職場での対人関係に問題がある ⑥家庭葛藤 家庭内に葛藤がある。家族関係が不良である。しつけ不足 ⑦物質使用 アルコール,違法薬物を使用している ⑧不適切な余暇活用 建設的な余暇活動を行っていない ■性犯罪特有のリスクファクター ・性的逸脱 ・反社会的態度 ・不適切な性的態度 ・親密性の欠如 ・小児期の環境不全 ・一般的な心理的問題 ■性犯罪治療の三原則 ①リスク原則 再犯リスクに応じて治療強度を変える ②ニーズ原則 リスクファクターのうち動的なものを治療の標的とする。動的なものとはセントラルエイトでいえば「犯罪歴」以外の7つ ③治療反応性原則 治療法を選択する際には相手が反応(変化,改善)するような方法を選らぶ ■「引き金」(性的欲求のスイッチを入れてしまうもの)を回避することが現実的に困難であれば,次善の策として「引き金」に対する効果的な対処法(コーピング)を考えて実行してもらう。場合によってはスムーズに実行できるようになるまで練習が必要なものもある。これをコーピング訓練と呼ぶ。 ■渇望へのコーピングで一番多用されるものが「思考ストップ法」である。これはあらかじめ手首に輪ゴムをつけておいて,渇望が生じ始めたと気づいたら即座にその輪ゴムをパチンと弾く。すると一瞬痛みの方に気がそれる。その数秒の余裕を使って何か15分以上集中できる別の行動を開始する。 ・なぜ15分かというと,どんな渇望も生理的には15分も続かないから ■性犯罪者のタイプ(自己統制のタイプ) ①回避受動型(統制力不足) 性犯罪をやめたいとの思いはあるが,統制できない ②回避積極型(不適切な統制) 性犯罪をやめたいとの思いはあるが,誤った統制をしている ③接近自動型(統制力欠如) 認知的・行動的問題が大きく,刺激に誘発され衝動的に犯行に至る ④接近確信型(統制の意図がない〔逆に十分に統制の取れた犯行をする〕) 確信と十分に練られた計画によって性犯罪に至る ■被害の前や最中で抵抗したり大声を上げたりすることは不可能である。 ・混乱のあまり相手に心理的に支配されたような状態に陥って自分の行動を制御することができなくなる。結果,相手の思うままになってしまう ■体だけでなく恐怖心から文字どおり頭の中が真っ白な状態になりしばらく意識が飛んでしまうようなことが起こる ・これは,心理学的には「解離」と呼ばれ一種の変性意識状態である ■解離状態の時の主な症状 ・受け答えが自動的 ・動きが止まり,視線が一転を見つめている ・無表情になっている ・感情表出が乏しく淡々と話をする ・目が半開きになっている ・まばたきが多い ・寝てしまう ・被害の話をしているにもかかわらず,にこにこ笑っているなどその場に不適切表情をしている
タイトルは「痴漢外来」だが、痴漢を含む様々な性犯罪・性的依存症について、様々な角度から言及しており、大変参考になった。
痴漢を処罰するだけではなくて、性的依存症の治療をする。それが、被害者をうまないことに繋がる。確かに其の通りだと思った。こういう活動が広がっていくといいな。
加害者の治療をもっと真剣に行っていくべきだと思う。それは加害者を守っているわけではなく、結果的に性犯罪被害を無くすことにつながる。 性犯罪だけではなく、加害者が生まれないように、再犯しないように、治療を行うことが重要 *性犯罪者のリスクファクター ①反社会的行動歴、②反社会的交友、③反社会的態...続きを読む度・信念、④反社会的パーソナリティ、⑤教育・仕事上の問題、⑥家族葛藤、⑦物質使用、⑧不適切な余暇活用 *犯罪者治療の三原則RNR原則 リスク原則、ニーズ原則、治療反応性原則
性犯罪者をどう処するか、というのは「荒れる」議論になりがちだ。被害者に与えるダメージの大きさから、感情的な処罰が提言されることも多い。 しかし、厳罰化には抑止も再販防止の効果もなく、永久に施設に入れる(実際米国にはそういう施設がある)のは税金がかかりすぎる。 データが取りにくいなか、現状で最も効...続きを読む果が高いと思われるのが認知行動療法や弁証法的行動療法を通した治療である。性犯罪につながらなくとも、性にまつわる「逸脱した」行動(カッコ書きにしたのは回数や頻度の面などで明らかに社会的な生活に支障が出ている状態を指す)はアルコール依存症等と同じくAddictionの要素が強く、似たようなアプローチをとっていくことで改善が見込めるというわけである。 フロイトの潮流を汲む精神分析に鋭く批判を与ている点も見どころだ。ここ20~30年で心理学は大きくアップデートされたが、日本においては追いついていない治療者が多いという告発には唖然とする。 筆者の主張の根幹にある「処罰に加えて治療を」というのは日本だと浸透しなさそうではあるが、アプローチとして有効だと感じた。
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