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疎開先で入水した母の遺骸を凝っと見つめる、少年の目。二世帯住宅にするため、明日は家を取り壊すという日、嬉々とする妻をよそに、街に彷徨い出た初老の男の目。――戦争と母の自死を鮮烈に描いて文学的出発を告げた、芥川賞受賞作「北の河」、人も街も変質する世情への微妙な違和感を描く「半日の放浪」など、透徹した観察眼で昭和という時代を丸ごと凝視し続ける、高井有一の自選7短篇。
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Posted by ブクログ
これが母の消える三日前の事であった。それから二日,常と同じ生活があり,三日目,母は在郷の百姓から僅かの米を購った。そしてそれを布の袋に入れ,私の方に掲げて見せて言った。 「このお米,どの位あるか判って」 「二升くらい」 「そうよ,二升。よく判ったわね」 母の口から微笑が拡がり,暫く袋を弄んでいた...続きを読むが,やがてその儘の表情を変えずに言った。 「もう,死ぬわよ。いいわね」 袋は母の手から離れて,畳に重い音を立てた。私の感覚は母と再び親しみ合えたと信じる中に眠って,母の裡にあるものを読めなかった。それにしてもこの時,母が何故柔い微笑を見せたか,私には判らない。 (「北の河」本文p42,43)
北の河がほんとうに読んでよかった作品だった。言葉にならない部分を情景(東北の冷たい河)が補う。そういう意味で完璧なバランスの上に成り立っていたように思う。起こってしまったこと(戦争によるそれまでの生活の崩壊)をそういうものだと受け取れる15歳の僕と、これまでとは明らかに変わってしまったと考える母。こ...続きを読むの決定的な違いを話の中に見れた気がした。だから母は息子とふたりで生きていかなければならないこの先について耐えられなく思い、命を絶つ。15歳の僕にはどうしようもできない。そのどうしようもなさが手に取るように分かる。描かれているすべての情景や空気感が、この話の核を包括している。あるべくしてある小説だこれは。 他の作品もとにかく文章に惚れ惚れとする。だが北の河に匹敵する作品はなかった。朝の水と夜の音みたいな作品がずっと続けば間違いなく星5だった。
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