次に、この作品の書名について考えてみたいと思います。「リトル・バイ・リトル」には”little by little=少しづつ、だんだんと”という意味合いがあります。この作品では上記で触れた作品冒頭を含め、ただただ、橘家の親子三人の日常が淡々と描かれていきます。私のレビューでは、作品の雰囲気感を、読んでくださる方と共有させていただきたいという思いから、さてさて流でその冒頭を紹介しています。その最後の部分は、作品中の最初の山場に至る直前とすることが多いのですが、この作品はその線引きがとても難しいと感じました。山もなければ谷もない、そこにあるのはただただ何も起こらない平凡な日常だけというその内容は、読む人によっては退屈、何を言いたいのかわからない、そのような感想を抱く方もいるでしょう。ただ冷静に考えてみれば私たちの日常だって同じだと思います。一昨日、昨日、そして今日、と振り返ってみて、あなたには他の人に話ができるような出来事はあったでしょうか?たまたま何か事件に遭遇したような人以外は、基本的にはごく普通の日常がそこには続いていただけだと思います。しかし、そんな平凡な日常を生きている私たちは、一昨日、昨日、そして今日と全く同じ自分なのでしょうか?人はコミュニケーションを繰り返しながら生きています。毎日、あの人、この人と出会い、色んな話をして、それが結果的に自身にも何かしら、もしくは結果的に影響を与えていく部分もあると思います。『人と人が一緒にいてお互いに楽しく生きようと思うことで、十分に幸せになれること。それが少しでも伝わったなら嬉しい』と語る島本さん。そんな島本さんの思いそのままに、何も起こらない日常の中に、主人公・ふみの微笑ましいとも言える小さな幸せが少しづつ繋がっていく日常が描かれていくこの作品は、読者に素朴な味わいを残す物語だと思いました。