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他人への深入りを避けて日々を過ごしてきた宇田川に、後輩の女性蜂須賀や木工職人の鹿谷さんとの交流の先に訪れた、ある出来事…。土地が持つ優しさと厳しさに寄り添う傑作長篇。谷崎賞受賞作。
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Posted by ブクログ
田舎者を経験した者であれば、ものすごく引き込まれる小説だと思う。 漫然とやり過ごす毎日の中にも喜怒哀楽があり、それを穏やかにキープするための田舎ならではの処世術。その肌感覚で知ってるものが言語化される事にハッとなる。 主人公の宇田川。 ニヤつく癖が抜けなければ、この先仕事を継いだ後も小さな陰口に息...続きを読むが詰まる思いを抱えて行くのだろう。その弱さと強さが容易に想像できる程に人物描写が絶妙で良かった。 読み終えて表題が改めて沁みる。 薄情。 あぁ、そうだな。ほんとうに。
感情を抑えた描き方ではあるけれど、現代の人の思い、考えていること、日常の移り変わりがよく描けていて、私の世代では「ようわからんな。。。」って思いがちな部分が、「なるほどなー」と浮き彫りになったりして、それも読み応えがあってよかったです。
絲山秋子の谷崎賞受賞作品の文庫化ってことで入手。しばらく文庫化に気付かなくて、このタイミングになっちった。『ばかもの』が随分好きだったけど、やっぱり根っこには、当たり前だけど同じ雰囲気を感じた。タイトルからして、薄情な登場人物が活躍するもんだと軽薄にも思っていたんだけど、主人公にしろ周りの人にしろ、...続きを読むあまり薄情とは違うよな、って思いながら読み進み。殆ど終わりの頃になって、一度だけ”薄情”って言葉が登場するんだけど、なるほどそういうことかって感じ。薄情に見えるけど実は情け深いというか、そんな微妙なニュアンスが作品をもって綴られていた訳ですね。本作も、流石のクオリティでした。
群馬に住む中年男性のモヤモヤと日常。 「田舎」と「都会」。都市(町)の境界。 ヨソモノと地元の人の対比。良かった。
タイトルにひかれ手に取りました。 淡々と地味な内容ではありながらも、文章がすっと入ってきました。 主人公 宇田川の人との距離感、つきあい方、考え方に共感できたり、似てると思えるところもあり。 薄情なのかもしれないが、温かい部分ー感じる作品でした。
読書開始日:2022年3月19日 読書終了日:2022年3月22日 所感 北関東、東京へ行こうと思えば行けるくらいの立ち位置。 この立ち位置も、宇田川のうだつのあがらなさを助長させていたのだろう。 行動すればなにかが変わることも、 行動できない理由なんか一つもないことも、 心のどこかで自覚しながら、...続きを読む日々を怠惰に過ごす。 自分と対極の鹿谷の自由生活に触れ、その人生の疑似体験を行うも、 どこかで鹿谷の失敗を望んでいた。 自分のしがみついた安定が間違っていないことを、実感したかった。 みずから実感を掴みに行くのではなく、その実感が来るのを待っていた。 ここにも、宇田川の弱さが出る。 鹿谷がいざ失敗をすることで、気づけば自分は毒に侵されていると知る。 自覚があったからこそ、横須賀の見舞いできっかけを得、ヒッチハイカーを拾ってあての無い遠出をするという行動に出れた。 なにに対しても無気力で、自分の生活、凝り固まった思考にしがみついた、薄情な宇田川が色づいた。 過去が過去になっていくのを感じる。これはいい文だなと思った。 瑞穂に対して「勝手な投影」と言い非難した宇田川がすぐさま自分もみずほに対して「勝手な投影」をしていたことにに気付いたシーンは、 かなりきつかった。 こうなると折り合いをつけるしかなくなる。 欠落してるからこそわからぬ俺の欠落。 W田中の鏡の話が思い起こされる。 さくい ヘルパーツバメ 〇〇ではどこに日が沈む、どこから日が登る ミレイちゃんのお父さんお母さんに会いに来たわけではなかった。俺は粟井という人間に会いに来た あまりものを言わずに暮らしていると客観性を失う。自分の都合で考える癖がつく。 鏡、見えないものを大事にしていれば大丈夫。 子供と大人は見えているものが違う。興味ベース 怜悧 似合う、そういうのが夫婦だ お相伴 宇田川=密度 欅は八年くるい続ける??? 自己憐憫で腫れ上がった彼女の目 投影=宇田川も=鏡 欠落してるからこそわからぬ俺の欠落 ショックで寝込むなんて全部終わってからにしろよ いつからおれは裁いてんだ 俺を選べばこんな間違いはおきなかった。でもそういうのはえらべない ルームミラーに移した自分の顔は笑っていた 鹿谷さんのアトリエに通うものはみな、弱い毒が蓄積していた。それは自分自身を認められないことによる、狭く濁った視野からくる毒。鹿谷さんと過ごす時間によって、自分が広い視野を持つ擬似体験をするが、結局は擬似。どこかで弱い毒が、仕方に失敗しろ、地元にしがみつく安心こそが正義と叫ぶ。 安定は求めるものでしがみつくものではない。弱い毒が蓄積する。 過去が、たしかに過去になっていくのを感じた
もっさりヘラヘラした主人公だけど、「あーあるある、こういう感情!」という場面が多々描かれてるから嫌な主人公という印象にならなかった。もっさりしてるけど。 「当たり前」のように毎日同じ生活してて、ふと全然違う行動したくなる衝動とか、夜の田舎道を運転する何とも言えない孤独感?ワクワク感、スリルみたいな...続きを読むものを思い出す。ここではないどこかに行きたい気持ち。 歳をとると薄情が当たり前になってたけど、人間同士の感情の複雑さを嫌な部分も含めて明るみにしてくれた感。 あとは、田舎道ドライブしたくなる。さすが絲山秋子。BGMはくるりのハイウェイとかいいな。 映画化したらどうなるんだろう、と妄想したけどどうにも主人公が私の中でもっさりイメージなので華がないかもなぁ。でもきっと景色は綺麗そう。
なんか、ずっとざわざわしてたの。 景色や光の描写もストンと入ってこなくて何度も戻った。 「宇田川、おまえ大変だな。」 って、彼の状況ではなく思考に対して感じていたせいか。 そしてそして、堀江敏幸さんの解説を読んで、何度も、 「はっ!」 ってなる。 ダメだなーオレは。
主人公・宇田川がいう、「かけ算で0になる関係性」というのは、都会にもありますよね。 ただ都会では、そういう関係性も社会生活のなかに紛れて、なんだかそれはそれで危うい孤独という形で成立しているんだと思うのです(良し悪しは別として)。0になりそうでも、どうにか倒れず生きている。目の前の通勤ラッシュとかを...続きを読むやり過ごしていくうちに。 それが地方の社会生活のなかでは、同じようには成立しにくいのかなと、本作を読んで思いました(私は東京育ちなので、あまり深くは分からないところがあるのですが)。なので、0になりそうな危うさが際立って、宇田川の戸惑い?を生んでいるのかなと思いました。
題名と内容をつなげる癖があって、この題名をつけたのなら作者の言いたい核ってなんなのかといつも考える。主人公の性格なのか、主人公の性格を形成した土地なのか。究極、人間ってみんな薄情なのかな?とか。話の内容は田舎で起きる些細な出来事の連鎖なのだけど、思考ってそういうところから広がっていく。
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